海外出張になって、渡米した焔。



久しぶりの休日に、家の中にいるのも億劫で、一冊の本を片手に郊外のセントラルパークに来ていた。
青く透き通る木々の間を、爽やかな初夏の風が通り抜けていく。
そんな木陰にある一つのベンチに腰を下ろし、持ってきた本を広げた。
慌しい毎日、絡み合う人間関係から逃れるようにフッと息をつく。
肩の力を抜ける、ほんの一時。
それでも、此方に来てからは安らげる時間が減った。
なにより、自分の傍らに恋人のがいない。
仕事に追われ、忙しく、張り詰めた日々を過ごして来れたのは、他ならないの存在と言う支えがあったからだと改めて気付いた。
本を読むことさえ忘れて、思い返すのはの事ばかり。
焔のオッドアイに映るのも、休日を満喫しようとココに訪れているカップルの姿ばかりだった。

「・・・あと三ヶ月か。長いな。」

吐息まじりに呟いて、夕暮れの空を見上げた。















突然言い渡されたアメリカへの出張話し。
期間は半年。
三月の末に渡米し、十月の頭に帰国するといったものだった。
立場上断る訳にもいかず、焔自身もアメリカの組織のノウハウを学びたかった事もあり、二つ返事でOKを出した。

ちょうどその日がの誕生日だったこともあり、郊外の洒落たフランス料理店で夕食をとっていた。
デザートにさしかかった時、焔は手を止め、を見つめた。

「何?」
「いや・・・、お前は・・・・・・・」
「どうしたの?仕事で何かあったの?」

こういう時の彼女の洞察力は凄いと思う。
俺の微かな変化ですら見逃さない。
心配そうに覗き込んでくるの瞳を、真直ぐに受け止めた。

「今月末から海外出張が決まったんだ。」
「・・・・・・そう。良かったじゃない。行くんでしょ?」
「ああ。だが・・・・。」
「私のこと心配してる?気にしないで。焔は自分の決めた路を行って。ね?」

一瞬寂しそうな表情が宿ったが、それを振り払うように笑顔を見せた
無理をしなくてもいい。
寂しいのは俺も同じだ。
でも、それすら言い出せない雰囲気に俺は一つ息を呑んだ。

・・・・・・。」
「ねえ、期間は?いつ帰ってくるの?」
「半年だ。お前も連れて・・・。」
「ダメよ。私は日本で待ってるから。焔が帰る場所で、待ってる。」















忙しない毎日。それでも、いつか走り終えるから。
いつか君のもとへ帰るよ。
俺の一番安らげるお前のもとに。



今頃そっちは夜だろう。
お前は一人寝の寂しさに溺れてはいないだろうか。
せめて、夢の中にでも逢いに行けるのなら・・・。
寂しい思いをさせずにすむのに。
だから、俺の夢を見て。
抱きしめてあげるから。
寂しさを忘れさせてあげるから。





お前の笑顔が、自然と俺も笑顔にしてくれる。
お前の寝顔もそうだ。
張り詰めている俺の心を、自然と溶かしてくれる。
そんな大切な存在。
俺の還るべき場所。



















家まで続く、広い並木道。
秋の訪れを告げるように、イチョウの葉が鮮やかな金色に染まっている。
ああ、でもは知っているだろう。
幾度と無くこの道を通っているだろうから。
でも頭を下げている木の葉が、せめて揺れ落ちるなら、金色の光を君の元に運んでいけるのに。


スーツケース片手に家までの道を急いだ。
前もって連絡しておいた帰国の日。
は、嬉しそうに「仕事を休んで待ってるから。」と言ってくれた。
電話越しでも伝わるの輝くような笑顔。


お前は今頃 まだ開かないドアを見つめているだろうか。
お前は今頃 足音に耳を傾けているだろうか。
それとも、ドアに差し込まれるカギの・・・・・・
二人の距離をなくす音に耳を傾けているだろうか。
待っていて。
もうすぐ帰るから。


会えなかったこの半年。
どれだけ長かっただろうか。
仕事と割り切っているものの、
やはり、疲れた俺の心を、身体を癒してくれる、お前が欠けたこの時間が・・・・・・。
無くして初めて解る事もあると、誰かが言っていたな。
無くしたわけではないが、本当に改めて気付いたよ。
俺が、何も飾らずにありのままをさらけ出す事ができ
安心して、何もかもを任せられる存在。
俺が、俺であり続ける為に無くてはならない存在。
それが、
お前だということを。



さあ、二人の距離の隔たりを、障害を取り除こう。



辿り着いたドアの前。
急ぎ乱れた呼吸を整える暇も無く、焔はドアを開けた。

「ただいま。」
「おかえり、焔!」

満面の笑みで俺に抱きついてきたをしっかりと受け止めた。
そして、どちらからともなく重なり合う唇。


離れていた時間が、ウソのように消えていく。

の声が

の瞳が

・・・君のすべてが

どんな時も、僕の頬をバラ色に染めてくれる。
張り詰めていた心を溶かしてくれる。


俺が一番安らげる場所。
そして、俺の心を癒してくれる場所。


、待たせて悪かったな。お土産だ。」
「えっ、・・・・・・・焔。」

驚くの左薬指に、永遠の輝きを宿した指輪をはめた。

笑顔も、悲しみも、寂しさも、
二人の路を重ねていこう。
この胸に抱きしめた大切な人。
この手を、永遠に離さないと誓うよ。



―――'cause I love you.





















カウンターの1234番を踏まれた「Melted Moon」の紫月桜羅様に捧げます。

森川さんの曲からということで、アルバム「JOLLY ROGER」から「I LOVE YOU」で書かせて頂きました。
ヒロインとの絡みが少ないような気もしますが。。。
申し訳御座いません。(ペコリ)
でも、焔からの愛情をめいいっぱい詰め込んだつもりです。
つもり。。。です。(汗)