悟浄のケータイがメールの受信を告げた。
差出人は、最近ようやく手に入れたという愛しい存在。





最初、は俺を見て逃げた。
の友人が八戒の彼女で、その二人が街を歩いている所を
偶然八戒の買出しにつき合わされていた俺が気付いて声をかけた。
それが、との出会い。
八戒の彼女は気付いて手を振ってくれたが、は何か一言言い残して走り去ってしまった。
呆然としている俺に止めをさしたのは、もちろん八戒だった。

「おや、早速嫌われたみたいですね。悟浄。」
「本当ね。って結構、警戒心強いから。」
「でも、いいんですか?」
「いいよ。いつものことだし?あっ!でも八戒は逃げられなかったわね。」
「それは、人徳ってやつですネ。」
「ああ、納得。」





八戒の彼女からのバイト先を聞き出し、毎日のように通い詰めた。
一人の女にこれ程固執するなんて、以前の俺じゃ考えられねぇっつうの。
言い寄ってくる女は数多くいるが、逃げられたのははっきり言って初めてだった。

だから、・・・気になるのか?

いや、あの蒼い瞳に囚われたっつうか・・・・・。
おびえた子猫のような瞳で、毛を逆立てて警戒している子猫を手懐けたくなったのかもしれねぇ。
三ヶ月かかって、ようやく仕事以外の事で口をきいてもらえた。
五ヶ月目でやっと付き合いだしたが、それ以上はまだまだだ。

この悟浄さんがよ?
肩抱くだけで、まだキスすら出来ねぇって・・・・・・マジ凹むっつうの。
でも、まあ無理してまた怯えさせても困るからな。




そんなからのメールを開き、悟浄は暫し固まった。

短いメール。
用件のみの、たった一言のメール。













”別れよ”
















「だあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
















まじ、ありえねぇ!!!!


何だってんだ!?








「・・・・・・・おっ、エープリルフールってか?」








また、新手のギャグを・・・・・・・・って、違うか。
今は6月だし?

とりあえず、何でそうなるのか理由を聞かねぇとな。

気を取り直した俺は、のケータイをコールした。









Rururururururu

『・・・・・・・・・・もしもし。』
チャン?! メール・・・・冗談っしょ?」
『・・・本気。悟浄なんて・・・・・・キライよ。』
「おいっ!理由・・・・・・」






耳に届いていたものは、の涙声。
耳に届いているのは、ツーツーという機械音。


訳もわからず、呆然と立ち尽くす。
何かが落ちた音で我に返った俺は、足元のケータイを見つめた。



何でだ?
冗談じゃねぇ。
別れるなんてするかよ!
だって泣いてたじゃねえか。
本気だけど、本心じゃないその言葉。
俺は絶対離してなんかやらねぇからな。


ケータイを拾い上げ、無造作にズボンのポケットにねじ込みながら俺は家を飛び出していた。
向かう先は、もちろんの家。



たどり着いたの家の玄関で、ひたすらインターホンを鳴らす。

鳴らす。

鳴らす。

返事の返ってこない事にイラつきながら、ドアを叩く。

叩く。

叩く。

チャン!!いるんだろ?・・・!」

呼べども呼べども、一向に中からは返事が返ってこない。
叩いていた腕をだらんと落とし、ドアにもたれかかった時視界の端に黒が映った。
それがの長い髪だと気付くより早く、俺は逃げ出すを腕の中に捕まえた。
暴れだす
嫌、嫌と泣きながら、がむしゃらに手を動かし悟浄の腕から逃れようとするのは
まるで手負いの子猫のようだ。

「落ち着けって。なあ・・・。」
「嫌ぁ・・・・・離してよぉ。」
「離したら逃げるっしょ?」
「悟浄・・・・キライ。・・・・キライだもん。」
「ワリィ。マジ謝るから、落ち着け。」

それでも暴れ続けるをなんとか抱きしめ、口付けた。
突然の事で一瞬動きが止まったが、次の瞬間また抵抗しだす。
まったく、子猫以外の何モンでもねえっての。
そんなところも可愛いんだけどな。
ようやく大人しくなったところで、重ねていた唇を離す。

チャン、何があったんだ?訳聞かせてくんねぇ?」
「・・・・・・。」
「俺、・・・何かした?」
「した。・・・だって、だって、見たもん。私・・・遊ばれてるんでしょ?だから・・・・・。」
「ゴジョさんてば、こう見えても好きな女には一途なのよ?」
「ウソ」
「ウソじゃねぇって。何見たかしらねぇけど。」
「綺麗な金髪の人と、昨日の夜会ってた。」

大粒の涙が溜まった蒼の瞳が、キッと俺をにらみつけた。
深い深い水面のようなその瞳から、雫が頬をつたった。





・・・・・昨日の夜?
の事を好きになってからは、他の女とは一切手を切ったはずだし。
・・・・・。
金髪。
金髪!?

「キンパツ!!!?」
「ほら、・・・やっぱり。」
「そりゃ誤解だわ。チャン、そいつの顔見た?」
「遠くて見えなかったけど、悟浄が手を上げて駆けていったじゃない。背だって・・・・悟浄とつりあってたし。」
「まあ、金髪美人ってのは否定しないけど、アイツは男だ。しかも、俺様何様三蔵様っつう、鬼畜生臭坊主。」
「・・・おとこ?」
「そっ。でも、もしかしなくても嫉妬してくれてたってことか。ゴジョさんマジで嬉しいんだけど?」

そう言って抱きしめた君は頬を紅く染めて俯いてしまった。
だからさ、俺がちゃんと言ってやるよ。

「なあ、チャン。俺とつきあわねぇか?」

さっきの言葉を無しにして。
まだまだ、長くて、険しい道だけど俺と一緒に歩いてくれ。
俺が、守ってやっからさ。