朝の清々しい空気を吸い込んでから、は部屋の中を見回した。
散らかり放題の家の住人は、今頃はまだ夢の中を彷徨っているはずだ。
いつも帰ってくるのは、夜が明ける頃。
暗かった空がゆっくりと白み始める、そんな時間。
何の仕事をしているかって?
悟浄は見た目も、性格もよくて、口説き上手。
バーテンをしてたのを、今のホストクラブのオーナーに引き抜かれたってワケ。
だから、私の彼の仕事はナンバーワンホスト。
毎日沢山の女の人を口説いている。
それが平気なワケない。
離れているから、余計に不安になる。
でも、こうやって休みの日は前もって教えてくれる。
会えなかった淋しさを胸に閉じ込め、こうして朝から部屋に上がり込む。
キッチンに立つと、会わなかった時間がリアルな形で表れている。
積もり積もった洗い物、生ごみ、ビールの空き缶。
これを片付けだすと、心もゆっくりと溶けていくの。
私がする事。
私だけが出来る事。
朝日が容赦なく差し込んでくる。
閉じている瞼ごしにでも、どれだけいい天気か容易に想像がつく。
寝付いてそれ程時間は経っていないはず。
夢と現実の狭間を彷徨いながら、耳に入る掃除機の音を聞いていた。
たまに聞こえてくる愛しいの小さな愚痴。
知らず知らずに緩む口元。
たとえ寝不足でも、が居ると解ると寝ているワケにはいかない。
まだ眠たい目を擦りながら、気だるい体をゆっくりと起こした。
「チャン、もう少し寝かせてくんねぇ?」
「おはよう、悟浄。今日もいい天気よ。」
朝日に照らされたの笑顔は、それはもう輝くもので。
ガックリ肩を落としながら、ちょうど手の届く所にいたの腰を抱き寄せた。
突然の事で、小さな悲鳴が上がる。
それを聞きながら、ニヤッと口角を上げ、そのままベットの中に引きずり込んだ。
を背後からしっかりと抱き締める。
項に顔を寄せると、フワッと香るの香り。
仕事上、口説く女は星の数。上辺だけの付き合い。
心が渇いてくる。
でも、弱音なんて吐けないっしょ?
ナンバーワンだし。
んな事言ってられねぇ。
けどよ、俺が俺で居られるってのも必要っしょ?
「なあ、このまんまで居てくんねぇ?」
「だぁーめ。まだまだしなきゃならない事が残ってるもん。」
「明日にまわせって。せっかくゴジョさん休みだってのに。もったいないっしょ?」
ゆっくりと俺の腕を解きかけていたを、また胸に閉じ込めた。
顔を見なくても、不貞腐れたような、それでいて恥ずかしさを誤魔化すような、
そんな表情をしているだろう。
「明日にしろって。」
「だって、明日は悟浄仕事でしょ?」
「おうよ。だ・か・ら、一緒に暮らさねえか。」
「・・・。」
「俺、が居ねぇとダメだわ。な?一緒に居てくんねぇ?」
「悟浄。私でいいの。」
震える肩をそっと抱き寄せて、溢れんばかりのキスを落とした。
「愛してんぜ。」
窓から入ってきた風が、カーテンを揺らす。
休日の一時。
穏やかな寝息が、爽やかな空気に溶けていく。
ねぇ・・・・・・、悟浄。
大好きよ。
後書き