朝は降っていなかったが、ちょうど出かけるときになって振り出した雨が、今もまだ降り続いている。
本当によく降る雨だと、バス停のわずかな軒先から雨粒が落ちてくる空を見上げた。
どんよりと黒い雨雲は、まだまだその威力を衰えさせない。
梅雨の中休みも終わって、今は後半戦。
きっと、この雨が上がれば夏が来るのだろう。


チャン!」

そんな事を考えている時、不意に名前を呼ばれた。

「・・・悟浄!どうしたの?」

驚くのもムリは無い。
こんな雨の中、悟浄は傘も差さずに走ってくるんだから。
紅い髪から雨粒を滴らせての隣に滑り込んだ悟浄を、バスを待っている人達も好奇の目を向けた。

「水も滴るイイ男ってな。」
「違うでしょ!ホラ、風邪引いちゃうじゃない。」

慌ててバックからタオルを取り出し、悟浄に手渡した。

「ねえ、チャン。もう少し見てたくない?」
「ありません!ふざけてないでサッサと拭く!!」
「ヘイヘイ。」

しぶしぶ・・・。
本当にしぶしぶと受け取ったタオルで、濡れた顔と髪を拭いている。
周りの人も、流石にジッと見ている訳にもいかず視線を逸らせた。
苦笑しながらもは、そんな悟浄に声をかけた。

「どうして傘持ってこなかったの?」
「ん?チャンと会えるって思ったから。」
「はい、誤魔化さないで。」
「ゴジョさん、本気だけど?」

真面目に聞いた自分がバカだったと、肩を落とし腕時計に目を向けた。
後少しでバスが到着する時刻だ。

「なあ。」
「何?」
チャン、一緒に帰んねぇ?」
「悟浄の家って私の家とまるっきり反対方向じゃない!」



まったく、こんなによく降る雨の日に、この人は何を言い出すかと思えば・・・。
晴れていたら。
いや、晴れでも、雨でも、何故好き好んで大回りで帰らなきゃならないのよ?
だって、悟浄が私を家まで送ってくれるんじゃなくて、私が悟浄を家まで送らなければいけないんでしょ?
傘持ってないもんね?



あれこれ考えていると、急に手を引かれた。
あまりに突然の事で、バランスを崩し傾く身体を悟浄が抱きとめた。
それも、シッカリとその胸に。

「ちょっ・・・・・・悟浄!!」
「一緒に帰んねぇ?」
「もう!服濡れちゃったじゃない!」
「ちゃんと責任とっからさ。」

言葉とともに額に落とされる口付けに、恥ずかしさを隠しながら、悟浄の胸から抜け出し、
代わりに持っていた傘を押し付けた。

「よっしゃ!じゃ、ゴジョさんの家まで相合傘だな。」
「・・・もう。風邪引いたら悟浄のせいだからね。」
「心配すんなって。そん時きゃ、付きっ切りで看病してやるよ。」
「当てにしないで待ってるわ。」

肩にまわされる腕に心地よさを感じながら、も自らの腕を悟浄の腰にまわした。
パチンっと、悟浄の手によって開かれた傘。
雨音がリズムを奏で出した。
それを聞きながら、降りしきる雨の中に一歩踏み出した。









・・・偶には、こんな雨の日もいいかもね。

ねぇ?悟浄。