X'masの天使





「さて。今日はどの女引っ掛けて帰るかな。」

悟浄は夜空を見上げて呟いた。
今日はクリスマスイブ。
どこを見てもカップルで溢れかえっている夜の街。

・・・こういう日に限って一人の女なんていねぇっつうの。

ただ一人の女に拘る程の愛情なんて持ち合わせているわけでもねぇ。
毎日、ただ一夜を共にするだけの女を漁った。
それも最近はどこか虚しさを感じるようになってきた。

ったく、らしくねぇつうの。

長い紅い髪を掻き上げ、やるせない溜息を吐き出した。
人波に押されるようにして足を進めると、一際艶やかなショウウィンドウに天使のオーナメントが飾ってあった。

「そういえば・・・。」




















去年のクリスマスイブの日も、一夜限りの女を引っ掛けて夜の街を歩いていた。

その時、たまたま通りかかった公園で気になる女を見かけた。
夜の公園の中、真っ白いロングコートを着て、真っ白い手袋をした彼女は、ただ静かに星空を見上げていた。
連れていた女とホテルにしけこんでも、公園の女の事が頭から離れなかった。
情事を終えて女を置き去りにし、急いで公園へ駆け付けた。
そこにはまだ彼女が佇んでいた。
乱れる息を整えながら、ゆっくりと公園に足を踏み入れた。
悟浄に気付いた彼女がこちらを振り返った。
腰元までの黒曜石の髪がサラリとなびく。

月明かりと公園の電灯だけで瞳の色までは分からなかったが・・・

その眼差しが

その表情が、とても印象的で・・・。

声すら掛けられなかった。

気が付いた時には、そこに彼女の姿はなかった。
後で八戒に言ったら笑われた。

「貴方が女性に声を掛けれなくなったら・・・世も末ですね。」
「どういう事だっつうの。」




















「あぁ、そう言う事か。」

彼女を見てからだ。
一夜限りの女を探していても・・・、たとえ抱いたとしても満足出来なくなったのは。
酷い時なんて、おかしな話立たなかった事さえある。

あん時はマジ参ったっつうの。

タバコをくわえ、時計を見る。
確か去年も九時頃だったはず。
居るはずなんてないと思いながら、居たら今年こそ捕まえてやると気合い新たに、悟浄は公園へ向かった。
口に銜えていたタバコが地面に落ちていた。

「・・・マジ・・・かよ。」

公園の中、去年と同じ真っ白いロングコートを着た彼女が星空を見上げていた。
悟浄の声が聞こえたのか、彼女が振り返った。

ああ・・・その柔らかな笑みに我を忘れたんだ。

「って・・・くそ。冗談じゃねぇつうの!逃がすかよ!」

今年も我を忘れている間に駆け出した彼女にいち早く気付き、悟浄も走りだした。
時間差といっても、ものの5秒程のはずだが、前を走る彼女に追い付くことが出来ない。

「おいっ!待てって!!」

息を切らせて声を掛けると、走りながらだが彼女が振り返った。
街の灯りで分かるその瞳は、綺麗な蒼色をしていた。

「頼むから・・・マジそこに居てくれ。」

悟浄の言葉で、遂に彼女が走るのを止めた。

「はぁ。はぁ。・・・やっと追い付いた。」
「どうして追い掛けてきたの?」
「俺のこと、覚えてねぇ?」

ジッと蒼の瞳を覗き込んだ。
桜色の唇が躊躇いがちに開く。

「・・・去年の人・・・だよね。」
「正解。俺、沙悟浄つうの。」
。」

鈴が鳴るような柔らかく澄んだ声色。

チャンか。ゴジョさん、あんたに惚れたんだけど。」

そっと腕をの身体にまわす。

逃がすかよ。
せっかく捕まえたんだ。

腕の中のが、少し困った顔で悟浄を見上げている。

マジ、ストライクゾーンだわ。
以外考えられねぇって。


「あの・・・ね、悟浄さん。」
「ん?」

急に呼ばれて下を見ると、悟浄の頬にの柔らかい唇が触れた。

「!」
「メリークリスマス。」

にっこりと笑った顔が天使のようだった。
あまりに突然のキスで、悟浄が固まっている隙に、は腕の中から抜け出していた。
そして気付いた時にはの姿はどこにも見当たらなかった。

「あ―!!くそ、今年も逃げられた!」

叫んでみても戻ってくるハズもなく、悟浄はガックリと肩を落とした。
頬に温もりを残しては消えた。


ったく、マジ天使かもな。

このゴジョさんから逃げるんだからな。

来年こそ捕まえてやっからよ。

待ってろ、

必ず俺のモンにしてやるよ。