この花畑で空を見上げるのは、一体何度目だろう。

愛でる者の居なくなった花たちは、それでも美しく咲き誇り、温かい風に踊らされる。










――― existence reason ―――










吹き抜けていく風に弄ばれた前髪をかき上げた焔は、手元の一本の花を手折った。

「なぁ・・・。お前は、いつ戻ってくるんだ?」

鈴麗と同様、下界に転生させられた
だが鈴麗と違っているのは、が歌姫だったという事。
天界にただ一人の言霊を操る力を備えた歌い手。
は、その力全てを封印したまま転生した。
だから今この天界に、言霊を操れる者は居ない。





俺に託した鈴。
これをちゃんとお前に返せる日が来るのだろうか。
お前は、今何処に居る?
以前と同じように笑っているだろうか。
泣いてなどいないだろうか。
相変わらず、花に囲まれているのだろうか。
歌っているのだろうか。





考えるのは、いつもお前の事ばかり。
夢に見るのも、お前の眩しい笑顔。
色褪せたりしない、大切な思い出。

「・・・。」

俺はどうにかなってしまいそうだ。





知っているだろうか。
いや、知るはずはないだろう。
お前の兄達も死んだ。
下界へと落とされたのだ。
だから、
お前を捜しに、俺も下へ下りてもいいだろうか。
神と人間では、生きる時間は違っているけれど。
それでも逢えるのならば、逢いたい。
否。
必ずこの手で捜し出してみせるさ。
お前との約束を守る為に。





だから、もうこの花畑に人が佇む事は無いだろう。
腐りきった天上界。
愛する者の居ない世界。
俺は、そんな所には居たくない。
不浄の者と蔑まれ、疎まれてきたこの世界に何の未練もない。





手折った花をその手に持ったまま、焔は踵を返した。
そこには、いつもの二人が顔を揃えていた。

「焔。・・・行くのですか?」
「ああ。俺は下界に降りる。二度とココへは帰らない。それでもいいと言うのならば来い。俺と共に。」
「俺は別にかまわねぇ。ココに未練なんてねぇからな。」
「そうですね。私は、闘神焔太子に忠誠を誓いました。何処までもお供いたします。」


「ならば、行くぞ!」





俺が俺である為の理由を探しに。
俺の存在を認めてくれる理由を探しに。


その理由は、お前自身だ。
必ず捜し出して、再び手に入れてみせる。
俺には、お前が必要なのだから。


待っていろ、


必ずお前に届けよう。
この鈴を・・・・・・。
この花を・・・・・・。
この想いを・・・・・・。





一陣の風が吹き抜ける。
その場所に、もう人影はなかった。



風が運ぶ
彼らの想いを
大切な人のもとへ

風が運ぶ
彼らの想いを
愛する人のもとへ

風が運ぶ
彼らの想いを
溢れんばかりの想いを








後書き