いつもより少し早めのシャワーを浴びる。

セミロングの髪は纏めてアップにして

袖を通すのは洋服じゃなくて

――浴衣。





―― 線香花火 ――





「出来ましたか?」
「うん。・・・久しぶりに着たけど、どう?」

の返事を聞いて、大島の浴衣姿の八戒が部屋へと入ってきた。
そしてを見て言葉をなくしたまま、その場に立ち尽くした。
それに不安を感じたが改めて自分の姿を鏡に映す。
鏡に映る自分は・・・別に何処も変ではない・・・・・・・はず。
2年ぶりに袖を通した浴衣が今の流行とは違って、それが変なのか。
濃色の紺地に絞りとぼかしの入った藤の花があしらわれている浴衣で、取り立てて流行遅れとはいかないと思う。

「ねえ、八戒。変?」
「・・・いえ。あまりにも素敵で言葉が出なかっただけですよ。」
「ホント?」
「ええ。このまま食べちゃいたいくらいです。」

にっこり微笑みながらも物凄い事をさらりと言いのけた八戒は、唖然としているの頬に軽く口付けた。
次はが恥ずかしくて立ち尽くす番になった。

「もう。」

照れながら、先に縁側に行った八戒の後を追いかける。
外はいつの間にか宵を迎えていた。
下駄を履いて庭先に降り立った八戒が虫除けの線香をたき、花火の火種となるロウソクに火を灯した。
は縁側に座って、線香花火を袋から取り出した。

「懐かしいね。」
「もっと種類があったほうがよかったですか?」
「いいよ、これで。だって線香花火好きだから。」

小さいのに懸命に最後まで燃え盛る炎が綺麗で、子供の頃よくせがんで買ってもらっていた。
ゆっくりと進む時間。
その中に激しさが詰まっていると思う。
だから・・・好き。

は線香花火を一本手に取り、ロウソクの炎で火を点けた。


パチ・・・・・パチッ・・・・・


大きな炎と小さな炎が宵の闇に華を咲かせる。

はぜる火花。
小さく咲く焔の華。
決った形なんかない、不確かな華。
最後まで・・・燃え尽きるまで光輝く。
力強い焔。
そんな線香花火のように綺麗な華を咲かせたい。
僕の大切な華を。
僕の手で。

「愛してます。」

花火の焔に照らされたの頬に口付ける。
ほんのりと色づく頬は、花火のせいか、それともキスのせいか。
燃え尽きた火種が地に落ちるのを待って、八戒はを抱き寄せ深く口付けた。