――― My breaking point ―――







「別れてくれ。」

ただ一言がこだまする。
その一言が頭を占める。

その声が脳を侵食する。
自分が自分じゃなくなる瞬間。


こんなに好きなのに……
こんなに愛していたのに……
こんなに…………


涙が出ない。
情けないくらい泣きたいのに、この人の前では涙が出ない。
なんとも答えない私を置いて、ひらひらと手を振って去っていった。



寒い
寒い
心が寒い
誰か、誰か私を暖めて



無意識に携帯を取出し、見慣れた番号を押した。
隔たりを示す乾いた機械音。
三度目のコール音が掻き消えた。


あの人とは違う声。
優しい声。
その声が氷を溶かしていく。
涙が頬を伝った。





「もしもし……?何かあったんですか?」
「っ……は……かい……」
「今何処ですか。すぐ行きます。」



どうして
どうして貴方は優しいの
どうして貴方は安心できるの
どうして



連れてこられた貴方の部屋。
貴方らしい空間。
優しくて、温かい場所。
堪えていた涙がまた溢れてくる。


違う声が耳を支配する。
さっきの言葉が脳を支配する。
解らないから。
何が悪かったのか、解らないから。
だから余計に辛い。


本当なら一人でいないといけないのに。
手を差し伸べてくれる八戒に甘えてしまう。
今も黙って泣き言を聞いてくれている。
全てを吐き出させるのが上手いというか、聞き上手なんだ。


「八戒、ごめんね。」
「かまいませんよ。それより、落ち着きましたか?」


こくんと頷き、壁の時計を見ると今にも日付が替わろうかとしていた。
八戒もそれに気付いたのか、互いに視線を絡めた。


「帰るね。」


先に視線を反らせて、ソファーの隅に置いていたカバンを掴んだ。


優しく細められた翡翠の瞳が
メガネの向こうの瞳が
私を弱くする前に


甘えていいのはここまでだから。


「帰しません。」


柔らかな口調で、有無を言わせない言葉を口にした八戒。



どれだけ待ったでしょう
貴女と出会ってから、貴女しか愛せなくなってから
どれほど貴女の相手に嫉妬してしまったか
フェアでいきたいと思ってました
弱っている今に告げる事ではないかもしれません
でも、僕はもう限界なんです
貴女を泣かせる相手がいる事に
貴女に涙は似合わないですから
いつまでも笑っていてほしいんです

できるなら、僕の隣で



「帰しません。ずっと僕と一緒に、同じ道を歩いてくれませんか。」
「八戒……。」
「愛しています、。」


八戒はの柔らかな頬に手を添えた。
驚きと戸惑いの色濃い瞳が揺れている。
そんな僅かな表情すらも愛しくて、紅くて魅力的な唇に口付けた。


愛しています。
貴女を。





久しぶりに八戒短編を書いてみました。
・・・・・・・最近、最遊記を見てないからなぁ。
ちょっと難しかったです。
うう。私にはコレが限界点です。。。