貴女は いつも 僕より先に行くんですね。
こんなにも 貴女の近くにいるというのに・・・・・・・・。
僕の気持ちを 知りもしないで。
いつも
いつも・・・・・・。
勉強も、恋愛も 何もかも一歩先を行く貴女。
―――隠し味―――
僕の家の隣に住む彼女の名前は、。
腰までの黒曜石のサラサラの髪に、深くて澄んだ蒼の瞳を持ち、顔立ちも整っている
僕より2つ上のお姉さん。
でも、見た目が童顔な彼女は実年齢の24歳にはとても見えない。
コロコロ変わる表情やしぐさをとっても、自分より年上だなんてウソじゃないかとすら思えてしまうのに。
もう社会人で・・・・といっても、まだフリーターの身に甘えているのだが・・・。
恋愛においてもそうだ。
僕は幼い時からずっと貴女しか見てこなかったのに。
貴女は僕ではない男と付き合って・・・・。
そのうえ、喧嘩したり別れたりすると決まって僕のところに来ては愚痴っていく。
ただ一つ、
そう、ただ一つ安心しているのは、まだ身体を許した相手がいないということ。
どうやら、そうなる前に別れてしまっているようで、僕としては安心な反面
困ったようにすり寄ってくる貴女に、そろそろ理性が保てそうにないのが事実。
そして、今日もはやって来た。
めずらしく泣いていなかった。
不貞腐れたように、僕の部屋のベットの上で専用のウサギのぬいぐるみ(かなり大きい)を抱きしめて唸っている。
時刻は4時になろうとしている。
が其処に居座りだしてから、軽く2時間は越えていた。
そろそろ、いいですかね・・・・・。
勉強の手を止めて、イスを回しの方を向いた。
「で、今回は何だったんです?」
「知らない!」
「じゃあ、もう聞きませんよ。」
「・・・・・・。それも困る。」
「別れたんですか?」
正直泣くかと思いました。
蒼の瞳がゆらっと揺れたから。
「別れてやったのよ!むかつく――――っ!!!!」
ボスッとぬいぐるみのお腹にパンチをおくりこむ。
かなりご立腹のようですね。
苦笑しながら膝の上で両手を組んで、少し前かがみになりの顔を覗き込んだ。
「で?」
「私・・・・・料理下手かな?」
「?そんな事はありませんよ。充分美味しいじゃありませんか。」
「本当に?」
「ええ。何度食べたと思ってるんですか。」
暇さえあれば、よく家に来て料理を作ってくれていた。
おかげで僕の料理の腕も上がったんですよ。と言えば信じてくれるだろうか。
それほどの料理は、御世辞抜きに美味しいんですよ。
話しの流れからして、原因はそこですか?と問いかけると、はまた叫びだした。
どうやら今日のお昼を作りに行ったそうだ。
今日のメニューは、海老チャーハンとわかめスープ。
一口口に入れた瞬間、顔色を変えた彼が二口目に手をつけることは無かった。
あろうことか、の目の前で残ったそれを生ゴミの中へ捨てた。
「何!?・・・・どうして?」
「薄いんだよ!こんなもん食えるか。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「前から思ってたんだよな。お前の味付け薄すぎるんだよ。もう作りに来なくていいから。」
「・・・いいよ。」
「ああ、もう終わりだな。」
海老チャーハンは僕も何度か食べましたが・・・、薄かったですかねぇ?
「いつもの様に作ったんですよね?」
「そうだよ。家で作ったり、八戒に作ったりする時と同じだよ。」
「他には何を作りました?」
「んーーー・・・・・・。全部八戒が食べたことあるものばかりだよ?」
の手料理を、あろう事か生ゴミにまわすなんて許せませんよ。
別れてくれて良かったです。
「にしても、おかしいですね。の味付けは決して薄いわけではないんですよ。」
「何か・・・・、足りなかったのかな。」
足りないもの・・・ですか。
僕なら、に対して作るものならばめいいっぱいの隠し味を入れてるんですけど。
イスから立ち上がり、ベットに座るの隣に腰を下ろした。
「隠し味、知ってます?」
「えっ?!何それ。」
教えて!とばかりに身を乗り出してくるの頭にポンポンと手を置いた。
「そろそろ僕も、相談役降りたいんですよ?」
「えーーーー!それは困る。ねぇ、八戒。」
「相談役ではなくて、一人の男として貴女の傍にいたいんですよ。」
「・・・・ええっと・・・。八戒?」
顔を紅く染めては僕を覗き込んできて・・・。
だから、もう限界なんですよ。
いつも無防備に僕の部屋に来て愚痴をこぼし、そのまま泣きつかれて寝てしまう事もしばしば。
貴女にとって僕は年下でしかないかもしれないですけど、僕は・・・。
「を泣かせる男が許せないんです。僕なら決して貴女を泣かせたりはしません。」
「・・・だって、私・・・年上だよ?」
「関係ありません。」
「・・・・・。」
「僕のものになってくれたら、さっきの答え教えてあげますよ。」
知りたいんでしょう?との顔を覗き込めば、よりいっそう紅みがまして。
「ずっと、ずっと、の事が好きだったんです。」
「八戒。・・・わたし・・・私もね・・・・・・。」
「ちゃんと言ってください、。」
「・・・好きだったの。でも、・・・でも。」
「年上で相手になんてならないって思ってた。」と、いきおいよく抱きついてくるを、しっかりと胸に抱きしめた。
・・・こんな事なら、もっと早くに告げればよかったですね。
苦笑しながらの髪に口付けを落とした。
そして、耳元で小さくささやいた。
さっきの隠し味の答え。
それは、――――――。
「愛情」と言う名の「恋のスパイス」。
貴女への想い。
吐息が耳にかかるのがくすぐったいのか、ピクッと反応しながら抱きついている腕に力がこめられた。
「ねえ、八戒。」
「何です?」
「私・・・ね、やっぱり入れてなかったかも。」
「でしょうね。の想い人じゃなかったんですから当然ですよ。」
「うん。・・・ねぇ、八戒。シチュー食べたい。」
作って?と可愛く見上げられる。
そう、これからはいつでも貴女の為に。
最高の隠し味を入れて作ってあげますよ。
もう離しませんからね。
僕の愛しい。