今日は、めずらしくが天蓬の部屋へとやって来た。

片付けられた部屋のイスに座っている彼女は、丁度手近にあった一冊の本に目を通している。


おそらく捲簾にでも聞いたのでしょうね。
彼女は決まって片づけをした翌日に来るんですから。


吸っていたタバコを下界から持ち帰ったカエルの灰皿に押しつけて、彼女の隣に腰を下ろした。



「天蓬はよく解るね、こんな本。」
「そうですか?面白いですよ。」
「時間を忘れるくらいだもんね。」
「あははは。」
「私は身体を動かしてるほうが好きだな。」
「そんな事言いながら、ココに来るのは決まって片付けられた次の日じゃないですか。」

クスッと笑みを浮かべてを見ると、ポリポリと指で頬を掻いている。
気付いていないとでも思っていたのでしょうね。

「だって・・・。身体動かすのと、片付けるのって違うでしょ?」
「まぁ・・・。似たようなもんじゃありません?」
「だったら、そうなる前に片そうよ。ねっ、元帥?」
「あははは。そんな事したら、捲簾や金蝉の仕事が減っちゃうじゃないですか。」
「それもそうね。」


納得したのか、しないのか。
はまた本に視線を戻した。
しばらく静かな時間が流れた。
聞こえてくるのは、二人のページを捲る紙の擦れた音のみ。
それを最初に破ったのはやはり彼女の方だった。

「やっぱり解らない。頭痛くなってきた。」
「考えすぎなんですよ。」
「だって、考えないと解らないじゃない。」
「そうですけど、視点を変えてないでしょう?」

腰元までの黒曜石の髪をかきあげたが天蓬を覗き込む。
「どういう事?」と、綺麗な蒼の瞳が揺れている。



貴女はきっと気付いてなどいないのでしょうね。
僕がその目に、その顔に弱いということを。
下界での戦いの時は、強い光を宿し向かってくる敵を容赦なく仕留めていく。
闘神では無いが、彼女も殺生を許された存在。
けれども今はその瞳に強い光など無く、ただ淡く揺れている。
僕はそんな貴女を見ているのが好きなんですよ。
叶わない恋ですけどね。



蒼の瞳に写っている自分自身を見ながら口元を緩めた。



「主要着眼点を、第一にいつの時代において人間が如何に考え,如何に生活したかという所に置かなければならないんですよ。」
「・・・あ。なるほど。」
「ね?視点を変えただけで見えてくるでしょ?」
「本当。やっぱり天蓬は凄いね。」
「そうですか?ありがとうございます。」



貴女は気付いていないでしょうね。
僕が貴方の事を好きだという事を。
貴女はもう金蝉の彼女。
・・・いいえ、恋人ですね。
だから僕は気付かれないように、この想いに蓋をするんですよ。
どれだけ視点を変えても気付かれる事が無いように。
ね。













拍手夢で置いていた作品です。
三蔵メインの天界ヒロイン設定。
なんとなく、天蓬が書きたくて・・・。こうなりました。
切ない天蓬です。