大学院の一角にある研究棟。

そこの一部屋は、あまりの恐ろしさに誰も近寄る事は無いとさえ噂されている。
そんな研究室の扉の前に立つ二人の男性。
見上げる扉に、一つ大きな溜息を吐き出した。
互いに見合わせ、これから起こり得るであろう事を想像する。
容易に想像が付く出来事に、

「これで一体何度目だ?」と呆れる捲簾。

「なんで俺が。」と毒づく金蝉。

再び大きな溜息を落として、その扉を開いた。




ドサッ



ドサドサッ




部屋の外へ雪崩のように、流れ出る本。
そして、上から落ちてくる本。
偶に、何かが割れる音が聞こえるが。。。まあ、ご愛嬌だろ。
本の雪崩に巻き込まれないようにと、扉の外側に避けていた捲簾と金蝉。
雪崩が収まったところで、捲簾が中に声をかけた。


「お〜〜い、お二人さん。生きてっか?」


返ってこない返事もいつもの事。
崩れた本の間を器用に通り抜け、二人は室内へと入った。


「まったく。何処に居るってんだよ。お〜〜い、天蓬!!」


長年の付き合いの天蓬は、おそらく本が一番積み上げられている辺りにでも埋もれているはずである。
が、大学に入ってから知り合ったは・・・・・・。
研究バカと言っていい程に、研究にのめりこむ。
同じ研究室だった天蓬とは、いつの間にか二人で何かの研究に没頭するようになった。
詳しい事は・・・、あまりに詳しすぎて俺たちには、いや、金蝉は解ってるとは思うが、俺は解らねぇ。
ようは、似たもの同士の二人。
諦めに似た、今日何度目かの溜息を吐いた後、本の山の辺りで見慣れた顔を見つけた。


「つい一週間前に片付けたハズなんだけど?天蓬。」
「ああ・・・。捲簾と金蝉じゃないですか。」
「”捲簾と金蝉じゃないですか”じゃねぇだろ!!!何なんだ、このあり様は!」
「いや〜〜。と二人で、ある考えに行き着いてからは、もう。」


ヘラッと悪びれも無く、いつものように笑う天蓬に捲簾と金蝉は互いに、本日何度目かの溜息を落とした。
ガリガリと頭を掻きながら、本の山の中から立ち上がる天蓬。
100%確実に、この一週間ろくな食事もせず、睡眠も摂っていないだろう。
おまけに、風呂にすら入っていない事実も付いてくる。
天蓬だけならともかく。。。


「つっても、お前。は女なんだぜ?」
「分かってますよ、それくらい。」
「なら、アイツは何処だ。」


金蝉の不機嫌な声が聞こえたのか、背後で山が動いた。


「あ〜〜〜、金蝉、捲簾も〜。久しぶりね。」
「久しぶりじゃねぇだろおが!この莫迦娘!!」


ビーカーやら、試験管、三角フラスコなどの器材の隙間を練って、ヨタヨタと歩いてきた
・・・否、這い出てきたが、金蝉の不機嫌全開の声に驚き、こけた。


。大丈夫ですか?」
「あははは。まあ、なんとか生きてるよ。」


器用に器材を避けてこけたが、再び立ち上がった。
自慢の長い髪も、邪魔なのか後ろで無造作に束ねられていて、目元は立派なクマができている。
こちらも、天蓬同様一週間ろくでもない過ごし方をしたことが見て取れた。


「・・・、お前ら。頼むから、ちゃんと食事と睡眠ぐらい摂ってくれ。」
「「あははは。」」
「「”あははは。”じゃねぇ!!片すぞ!」」
「「ヤだ。(ヤですね。)メンドクサイ。」」


途端に、膨れ顔になりソッポを向いてしまう
それに同意する天蓬は、ヘラッと笑ってタバコに火をつけた。


「「てめぇら、ヤル気あんのか!?」」
「ない。いいじゃん。ねえ、天蓬。」
「そうですよ。別に、何が何処にあるかぐらい、大まかに把握してますから。」
「お前たちが良くても、俺が困るっての!」


苦情が来るのが俺のところって、どうよ?
本人に言えと、抗議したところで、誰も好んでこの研究室には近づかない。
生徒ならともかく、教授たちも避けている。
二人の実力を買っていると言えば、聞こえもいいが。
要するに、したいように研究させ、放置しているという事。
そんな所に、自分ひとりで来るのも癪にさわるし、いつも金蝉を無理やり連れて来るが・・・。
相変わらずの散らかりように、頭を抱える。
しかも、本人たちはこの現状を気にしていないのだから。
まったくもって、厄介このうえない。


「ねぇ、何で捲簾が困るの?」
「いや、もういいわ。だから、ホレ。サッサと片す!!」
「仕方ありませんね。も手伝ってください。」
「は〜〜い。」


だから・・・。
お前らが片しながら研究してくれれば、こんな労力使わなくてすむんだけど?
溜息を吐き、頭にバンダナを巻いた。
金蝉も、何を言っても同じだと諦めたのか、もうバンダナを巻いて器材を洗い場に運んでいた。


「ったく、今度は何の研究してんだ?」
「え・・・と。何だっけ。
あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


捲簾の言葉に首を傾げていたが、突然叫び声を上げた。
その視線の先には、流し台に器材の中の液体を流している金蝉の姿。
そして、の蒼の瞳と金蝉の紫暗の瞳が交わった。
流石の金蝉もただならぬの慌てぶりに、その手を止め、眉間に深い皺を刻んだ。


「何だ。」
「金蝉・・・。もしかしなくても、それ。。。。」


言葉を言い終えぬうちに、と天蓬は何かを察したのかドアの方に後ずさった。
金蝉の背中に、嫌な汗が流れた。
ロボットのように、首だけを捲簾の方に動かすが、捲簾もジリジリと後退していた。


「・・・お前ら!!まさか!!!」




















ボンッ!!!!!!!!
















小さな爆発と共に、天井から降ってくる白。

白。

白。

純白の羽根。

しかも、大量に降り積もり、金蝉を飲み込んでいた。


「うっわ〜〜。やったよ、天蓬!!」
「やりましたね。」
「ね〜〜vvv」


歓声を上げ、小躍りしているの耳に、地の底から響くような、低い声が・・・。


「”ね〜〜vvv”じゃねぇ!!!いい度胸してんじゃねぇか。」


白に、純白の羽根の中から、金蝉がワナワナと怒りを露わに立ち上がった。


「あはは。・・・・・・金蝉、凄く綺麗よ。」

「そんなモンに誤魔化されねぇ、って分かってんだろぉが!!!」


舞い上がる羽根の中、金蝉との追いかけっこが始まった。

捲簾と天蓬は互いに顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。


「喧嘩する程、仲がいいってか。」
「犬猿の仲って感じもしなくもないですが。」
「まったく、懲りないねぇ。も。」
「それを言うなら、金蝉もですよ。」






「待ちやがれ!!!」

「ヤ〜〜〜だよ。」

「てめぇ!!!!!!」














拍手夢に置いていたモノです。
なんとなく、こういったモノもいいんじゃないかと。。。
天蓬たちって、大学院行ってそうじゃないですか?
少しでも楽しんで頂けたら、本望です。
これからも、どうぞ宜しくお願いします。

後書き