君は いつも 自由に飛びまわる。
君は いつも 何を探しているんだ?
北から南へ 西から東へ
当ても無く、ただ気の向くまま ふらりと旅立って行く。
俺の元から 飛び立っていくんだ。
―――絵葉書―――
「・・・今日は沖縄か。まったく。」
昨日届いた絵葉書は、北海道のラベンダー畑。
そして一夜明けた今日は、沖縄のシーサーがハイビスカスと共に写っている。
焔は溜息をつきながらも、それを葉書のファイルに滑り込ませた。
そのファイルも、コレで二冊目が終わろうかとしているのだから困ったものである。
いつもフラリと、突然旅立つ。
一言言ってから旅に出たのは片手で足りる程。
他は、いつも突然。
何も言わずに行くもんだから、何度その事を注意したか解らない。
心配する身にもなって欲しいものだ。
とは恋人関係。
まだ籍は入れていないが、同棲はしている。
周りはまだかまだかと煩いが、がその気ではないらしい。
いつもその話題を振ると、困ったように蒼の瞳を揺らしてはぐらかす。
「俺のことが嫌いなのか?」と、一度聞いたことがあったか。
その事を思い出した焔は、フッと口角をゆるめた。
着ていたスーツの襟元をゆるめ冷蔵庫からビールを取り出して、リビングのソファーに身を沈めた。
ビールを飲みながら、手にしたファイルをめくっていく。
「キライな訳ないわ。」
少しムキになって言ってくる。
「じゃあ、そろそろいいんじゃないのか。」
「まだ、だめ。」
「理由を聞かせてくれないか?」
「だって・・・、それが解らないのよ。」
「そうか。なら、お前が納得するまで待っている。」
「ごめんね?」
「ああ。そう思うのなら早く理由を見つけてくれ。」
たしか、あれからだろうか。
頻繁にいなくなるようになったのは。
ただ、何処にいるか分かる様にと送られてくる絵葉書は
宛名だけで他は何も書かれていない。
本当にシンプル極まりない。
ふと窓を打つ音で、雨が降り出したことを知った。
「そういえば、夜からは雨だったな。」
長めの前髪を掻き揚げ、窓に伝い落ちていく雨粒をオッドアイに映した。
静かな空間に雨音だけが、その存在を示すように響いている。
「・・・・・・。」
お前は一体何処にいる?
いつもは静かだが、静かでない空間。
それはがいるから。
いつもはゆっくりとした安らげる時間が流れる空間。
それはがいるから。
俺一人だけの空間は
いらない。
だから、
「早く帰って来い。」
雨音だけの空間に一つ別の音が加わった。
来客を告げるインターホン。
だが、マンションのエントランスからではない。
玄関のインターホンが鳴っている。
確認した画面。
そこには、雨に濡れたがうつっていた。
慌てて玄関を開けると、ずぶ濡れのが俺を見上げて
少し泣きそうな顔で微笑んだ。
それだけで、俺は何も言えず胸の中にを抱き寄せた。
服が濡れるなんて気にならない。
お前が泣きそうな事の方が、よほど俺の心を掻き乱す。
「・・・・・ただいま、焔。」
「おかえり。」
優しい言葉を落とせば、が更に強く抱きついてきた。
その肩が微かに震えている。
おそらく泣いているのだろう。
「やっぱり・・・・・・・、ココがいい。」
「フッ、何を今更。」
「そうよね・・・。本当、今更だけど・・・。焔のココが一番安心する。・・・・・一番やすらげる。」
「そうか。」
「わたし・・・・。焔がいないとダメみたい。」
「当たり前だ。一緒にいなければ、例え生きていても生きている事にはならないんだからな。
それだけ、お前を愛している。」
お前の居場所はココだ。
もう何処へも行くな。
俺が傍にいる。
お前を愛してやる。
ずっと、守ってやる。
それだけじゃダメか?
雨に濡れた前髪から落ちた雫と、蒼の瞳から静かに流れ落ちる雫が混ざり合った。
「・・・・・・・・・みつけた。」
「そうか。なら、もう待つ必要はないな。
結婚しよう。」
「はい。」
ああ、わたしの居場所はココなんだ。
何処へ行っても
一人になっても
心の安らぎは無い。
わたしが一番やすらげるのは
やっぱり・・・・・・・・・・ココ。
ねぇ、焔。今度は一緒に旅行に行きましょう。
わたしが一人で行ったところを
今度は二人で。
ずっと、いつまでも・・・・・・・・。