カタカタとリズムを奏でるパソコン。

キーボードの上を走る綺麗な指。

フッと音が止まる時は、少し長めの前髪をかき揚げるから。

それ以外で、音が止む事はない。

そんな焔の背中に、は視線を向けた。





今日は休日のはず。

いつもの事。と言えばいつもの事。

でも、面白くない!

たまには休んでほしいのよ?

だって、前の休みは一ヵ月以上も前。

下手をすると、二ヵ月開く事だってある。

仕事の方が大事だって解ってる。

でも、疲れている事すら忘れて仕事をしないで?

だから、ね?息抜きしましょ。






「ねぇ、焔。」

「ああ。」

「大好きよ。」

「ああ。」

「愛してる。」

「ああ。」

「昨日ね、知らない人に告白されちゃった。」

「ああ。」






キーボードの上を走る指は止まらない。

心此処にあらずの返事。

まったく、仕事熱心なんだから。

軽く溜め息を吐いて、は寝そべっていたベットから立ち上がった。





「今から出かけてくるわ。」

「ああ。」

「男友達の所。紫鴛や是音じゃないからね。」

「ああ。」





さて、本気で行ってもいいのかしら?



肩を竦めながらも、はドアに手を掛けた。

不意にその手を背中越しに捕まれた。


温かくて、力強くて、いつも包み込んでくれる、大きな手。

私の大好きな焔の手。

反対の腕で肩を抱き寄せられた。

首筋にかかる焔の吐息が身体に熱を伝える。





。何処にも行くな。」

「・・・。」

「淋しい思いをさせたな。」

「違うわよ。ねぇ、少しは休んでよ。心配なのよ!」

「ああ。なら、ゆっくりと休むことにするよ。」





次の瞬間抱き上げられ、ベットの上に降ろされた。

あまりの事に、キョトンと大きな蒼い瞳でオッドアイを見上げた。

柔らかく細まる瞳に、は思わず後退る。

だが、それを面白そうに口元を覆いながら笑う焔。





「何よ。」

「いや。それでもいいが、旅行だ。」

「へ!?」





くくくっ、と漏れる笑い声に、は顔を真っ赤にしながら手近の枕を投げ付けた。

それをさらりとかわし、クローゼットからスーツケースを取り出す。





「本気なの?」

「嘘を吐いてどうする。」

「え、でも仕事は?」

「最近休みも少なかっただろう。」

「うん。」

「長期休暇を取るためだったからな。だから、二人でゆっくりと旅行に行くのも悪くはないだろう。」





その為に頑張っていたんだぞ。

いつもお前に我慢や、淋しい思いをさせてしまっている。

だが、それに文句も言わずに傍に居てくれる。

そんなお前と、特別な時間を過ごしたいんだ。

仕事に追われる日常を忘れるような・・・。





告げられた内容に、嬉しさのあまりは焔の胸に抱きついた。

心配も、淋しさも溶けていく。





どちらからともなく重なる唇。


「愛している。」


耳元に落とされる甘い言葉。

甘い囁き。










ねぇ・・・・・・、焔。

大好きよ。







後書き