いつも気が付くと
自分だけが足掻いているように思う。
いつも振り返ると
自分だけが求めているように思う。
―――sea of darkness―――
あれは、いつだったかな?
そう、恋人の焔と最後に会ったのはもう2ヶ月前の事。
お互いに毎日の仕事が忙しく、休みすら重ならない。
その上、焔は会社での重要ポスト。
ゆくゆくは社長になる身。
だから・・・、だろうか。
こうも会えない日が続くと不安になってしまうのは。
こうしている今も、何処で、何をしているか分からない。
・・・、って言っても仕事してるよね。
ケータイのディスプレイに映るのは焔の・・・・・、もう覚えなれたナンバー。
真っ暗な室内。
たった一人の孤独。
闇に飲み込まれそうな錯覚すら覚える。
そんな中の唯一の光源。
「・・・・・・・・焔。」
小さな呟きが闇に融ける。
一番の我侭は
―――会いたい。
そして
―――触れたい。
貴方を
―――確かめたい。
でも、まだ無理だろうな。
新規のプロジェクトの話しが上がってると言われてから会っていない。
それだけ重要なモノ。
解ってる。
でも、だから・・・。
もう一つの小さな我侭は許して?
そっと指で画面をなぞってから、コールボタンを押した。
お願い。
こんな一人の闇に溺れさせないで。
寂しさで押しつぶされそうなの。
だから・・・・・・、
せめて、貴方の声を聴かせて。
2回コールの後、聞こえてきた貴方の声は優しかった。
『どうした?。』
「ん・・・。別に何でもないんだけど・・・・・・。」
『そうか。あまり無理はするなよ。』
「焔こそ仕事でしょう?」
『ああ。』
「忙しい時に、ごめんなさい。」
『かまわないが・・・。本当に何も無いのか?』
「うん。じゃあ、仕事頑張ってね。」
『ああ。』
しばらく切れたままのケータイを見つめた。
焔の声が、耳に残っている。
ゆっくりと、それが脳内を侵食していくかのようで・・・。
少し後悔した。
聴いてしまった声に寂しさが溢れだしてくる。
ベットに座ったままシーツをかぶり、その中で一人閉じこもる。
涙で濡れる頬は、かわくことを知らない。
―――会いたい。
ただそれだけ。
一体、どれ程闇の中に閉じこもっていたのだろう。
静寂に慣れた耳に、触れ合う金属音が聞こえた。
ガチャっと玄関のドアの開く音。
まさか、そんなはずない。
だって、仕事が忙しいのに・・・・・・・・。
でも・・・・・
「、居るのだろう?」
パチンと軽い音で闇が消える。
やっぱりこの人は優しい。
そして、ずるい。
ベットにうずくまる自分の隣に、焔の体温を、存在を感じた。
「どうした?」
「・・・・・・、何でも・・・ない。」
「そんな事は無いだろう?」
「本当よ。」
「何でもないのに泣くはず無いだろう、。」
そう言って、シーツ越しに抱きしめてくれる焔に、噛み殺していた声が溢れ出てしまう。
「ほむらの・・・・・・・・・バカッ。」
「ああ。」
「・・・・・・ズルイ。いつも・・・いつも・・・。」
「ずっと待ってるのに。・・・・も、やだぁ。」
「すまない。だから、顔を見せてくれないか。」
「やぁ・・・・・・。」
「。」
いつも、いつも、その甘い声で私の心を裸にしてしまう。
閉じこもっていた殻を、いとも簡単に壊してしまうのは貴方の甘い声。
シーツを取り払われて、2ヶ月ぶりに見た焔は・・・いつもの焔で。
優しい笑みで私を受け止めてくれる。
「酷い顔だな。」
「バカッ!!ほむらなんて・・・、焔なんて!!」
いつも余裕のある顔をして。
だから、余裕が無いのは私。
会えなくて、寂しくて、寂しくて・・・
一人不安になるのは私だけなの?
「待たせてばかりだな。」
「も・・・、待つのはイヤだ。つぶれちゃう。」
「それは困る。」
焔の手がそっとの頬に触れ、その綺麗な指で溢れる涙を拭ってくれる。
「ほむら・・・。」
「愛している。いつも不安にさせてすまない。」
言葉共に降ってくる優しい口付け。
こんな事されたら、どんなに寂しくても、また・・・・・・待ってしまう。
額に、瞼に、頬に、そして唇に。
降り注いだ口付けの後に、焔の胸にギュッと抱きしめられた。
「もう一人で待つな。俺の知らないところでが泣いていると思うと、俺も辛い。」
「え・・・・・・。」
「だから、俺の傍にいろ。俺のもとへ来い。」
「ほむら?」
「、俺と結婚してくれ。」
耳元で囁かれる甘い声。
そして、甘い、甘い言葉。
止まりかけていた涙がまた溢れてきた。
それは寂しさで押しつぶされそうな涙ではなく、うれし涙。
うれし涙で頬を濡らしながら、は首を一つ縦にふった。
焔は抱きしめていた腕を離し、の前にその手を差し出した。
その手にの手が重なる。
「行くぞ。」
そう、これからはいつでも一緒だ。
俺のいない部屋で、涙に濡れて、寂しさに溺れるな。
俺の帰る部屋で、俺の海で溺れてくれ。
だから、ココはもう必要ない。
お前一人の空間なんて
いらない。
金属音を響かせて、その空間を無くしてしまおう。
暗い、暗い闇の中。
光の差し込まない部屋を閉じてしまおう。
。
お前は俺が照らしてやる。
ずっと、ずっと
―――愛している。