今日も朝から憂鬱だった。
お気に入りのイヤリングが片方無くなっていたのに気付いたのは、昨日家に帰ってから。
今は左耳にだけ揺れる蒼い石。
同僚にも言われた。
それでも外す事は無い。
それは、私の色だから。
仕事が終わり、足早に会社を後にした。
昨夜の事が思い出されて胸が締め付けられるように苦しくなるが、それを誤魔化しながら海辺の公園に足を踏み入れた。
もしかしたら、あの男の人とぶつかった時に落としたのかもしれない。
足元を見ながら奥へと進んでいく。
昨日と違うのは時間。
夜も7時になるかという時間だけに、辺りにカップルが多い。
それでも気にせずに、街灯の明かりを頼りに蒼を探す。
けれども、何処にもその姿は無かった。
「残念。気に入ってたのに。」
昨日と同じ場所にもたれて海を眺めた。
今日も同じように、イルミネーションとテールランプに彩られてキラキラと輝いている水面。
小さく溜息を吐き出した。
コートのポケットに入れた左手。
それに触れる艶々の石。
昨日の今日だ。
いるだろうか。
今日一日彼女の泣き顔が、宝石のような蒼い瞳が頭から離れなかった。
仕事もいつも以上に順調にこなし、驚く秘書を笑顔で流しサッサと会社を後にした。
向かった先は、昨日の公園。
そして、見つけた。
月明かりの中、昨日と同じ場所にたたずむ君を。
月に帰ってしまいそうな儚い彼女の隣にゆっくりと歩み寄った。
「こんばんは。」
そして交わる蒼の瞳と、金と蒼の色違いの瞳。
「あ・・・。」
「昨日は驚かせて悪かった。コレを落としたんじゃないか?」
そう言った彼の左手の中には、の左耳に揺れているイヤリングの片方が乗っていた。
驚いて、その手と彼の顔を交互に見つめた。
「落ちていたからな。」
「あ・・・、ありがとうございます。」
受け取って、右耳にそれを付ける。
月明かりを受けて煌いたそれは、すぐに漆黒の髪の間に姿を消した。
まるで今の彼女のようだと思った。
素顔を見せない。
弱さを隠している彼女の心。
抱きしめたい。
どうにかなってしまいそうだ。
恋に傷ついたその心を俺に見せて。
すべて脱がせて、俺が癒してやりたい。
揺らめく蒼の瞳に囚われてしまったのは・・・・・・
そう、俺の心。
「俺のものにならないか。」
「えっ!?」
驚きの色を濃くした瞳と、それを包み込みたいと願う優しい色を宿した瞳が交わる。
・・・そんな。と漏れる溜息を塞ぐように
それ以上の言葉を聞きたくないから
彼女の腰に手を回し、そのまま抱き寄せ口付けた。
戸惑い、固く閉じられた唇に柔らかく触れるように、啄ばむように口付けていく。
そして、微かに開いた隙間にスッと舌を滑り込ませた。
甘く溶けてしまいそうな彼女の唇。
自分の熱がどんどん上がっていく。
醒める事などないだろう。
力の抜けていく彼女を支え直して、重ねていた唇を離した。
そしてもう一度、潤んだ瞳に問いかける。
「俺のものにならないか。」
昨日の夜
初めて会った君の行動が、しぐさが、存在が俺を狂わせる。
そんなに我慢なんてするな。
弱い心を見せてくれ。
「俺が全部忘れさせてやる。」
「・・・。見てたの?」
「ああ。偶然通りかかってな。だが、お前に逢ったのは必然だ。」
「そんな都合のいい事なんて、無いわよ。」
「あるさ。俺はそう思っている。」
俯いてしまった彼女の頬に手を添えて、また口付ける。
今度は逃げようとしない彼女を、しっかりと己の胸に抱きしめた。
「名前。・・・・・・・・・・・知らない。」
月明かりでも判るほど頬を染めた彼女が、真直ぐに俺の目を見つめた。
「焔だ。」
「。・・・、ねえ。本当に・・・・・・。本当に」
「ああ。忘れさせてやる。俺の事しか考えれない程愛してやるよ、 。」
の前にスッと手を差し出した。
決めるのはお前自身だと、オッドアイを細めてを見る。
躊躇いがちに差し出される手。
そして重なった二人の手。
二人の心。
捕まえた。
俺の MOON VENUS
離す事なんて、決して無いだろう。
君を過去から奪い尽くしてやるさ。
俺だけで満たしてやる。
ねえ、――――― BE MY VENUS.
焔の声優さん 森川さんの曲から。
2HEARTSの『MOON VENUS』より。
「俺のものにならないか。」と・・・・・・。森川さんが歌っているんです。
それで、このような夢が仕上がりました。