―――カラン
イイ音がして、一つのガラス玉がビンの中に落ちた。
ビンの底で輝くガラス玉。
それは 幸せの形。
小さな 幸せの結晶。
――― crystals of happiness ―――
はガラス玉をビンの中へ一つ落とした。
先に入っていたガラス玉に当たり、カランといい音が心地よく耳に届いた。
『今日は三蔵と一緒に過ごせた。』
それは、ほんの些細な事。
でも、私にとってはとても幸せな事。
小さな、本当に何でもないような事だけど、幸せな事があったら形に残していくの。
私の幸せの形。
幸せの結晶。
そっとビンを持ち上げ光りにかざすと、キラキラと虹色に輝いた。
幸せの輝き。
「何とかとカラスは、光り物が好きだっつうが……。」
不意に背後から聞こえてきた声に苦笑しながら、は手に持っていたビンをテーブルに置いた。
「いいよ。私、莫迦で。」
「フン、自分で言ってりゃ世話ねぇな。」
莫迦でもいい。
それだけ三蔵の事が好きなの。
頭もよくて、何でも出来て……。
顔も、スタイルもいい三蔵が。
大好きなの。
そんな三蔵が、普通並な私と付き合ってくれてる事じたい、奇跡に近い幸せだから。
今の幸せを大切にしたいの。
もし………。
そう、もし…。
別れる日が来たとしても、幸せだった日が本物であった事が分かるから。
色褪せない、輝く思い出として残っているから。
だから……。
形にしていくの。
三蔵からしたら、くだらない事だろうけど。
でも私にとっては、とても大切な事。
「で、何なんだ。」
「幸せの結晶。」
「ハッ、くだらんな。」
ほら、やっぱり貴方はそう言う。
何でも完璧な貴方にとっては所詮くだらない事でしょうね。
今もタバコをふかしながら、器用に方眉だけを上げてこのビンを見ている三蔵。
私はその視線の先にあるビンを再び持ち上げた。
それを追うように三蔵の紫暗の瞳も少し上に向いた。
「何?やめろって言われてもやめないわよ。」
「……それがいっぱいになったらどうする。」
「また新しいビンにためるわよ。」
「やめとけ。」
「だから、やめないわよ。」
ムキになって言い返す私を、真直ぐに射抜くような鋭さの瞳で見据える三蔵。
怯むこと無く、私もその瞳を見据えた。
たとえ、三蔵の頼みでもこれはやめれない。
私の心の支えでもあるから。
莫迦になるくらい、頭が変になるくらい三蔵の事しか考えられない。
朝から夜まで。
ううん。
寝てるときも。
そう、四六時中貴方の事しか考えられない。
貴方のしぐさ、声、表情、何もかもが私を狂わせる。
だから、もし失うことになったら。
自分がどうなるかなんて分からないもの。
ふと三蔵の口角が上がった。
こういう時は何かを企んでいる時が多い。
やっぱりやめないといけないのだろうか。
チクリと胸の奥が痛んだ。
「やめておけ。」
「……何故?」
「そんなもんじゃ足りねぇぐらいの想いをくれてやる。」
「さんぞ?」
何を言われたのかさえ、突然すぎて理解できなかった。
問い返した言葉も上擦っていて、上手く声にできなかった。
だからもう一度声を出そうとしたのに、そんな私の口を三蔵は塞いだ。
口内に広がる、少し苦いタバコの味。
でもそれが三蔵のキスの味。
私の大好きな三蔵の……。
「…ねえ。三蔵、さっきの……。」
「一度しか言わんぞ。」
「え?」
「。俺は何があっても、お前を離すつもりはねぇ。もちろんお前に拒否権はねぇがな。」
「さんぞ。」
拒否なんてしないよ。
ねえ、三蔵。
私が今、どれだけドキドキしてるか知ってる?
心臓が壊れるんじゃないかって思うぐらい、煩く鳴ってるんだよ。
嬉しくて。
幸せで。
三蔵の胸に抱きしめられたまま、紅くなっている顔を隠すように更にその胸にしがみついた。
そんな私の耳元に、三蔵のサラサラの髪が掛かった。
吐息が耳にかかる。
「愛している、。お前だけだ。……永遠にな。」
溢れんばかりの愛を誓おう。
それが必要だというのなら。
それでお前を繋ぎ止めておけるのなら。
俺は何度でも誓ってやる。
「愛してる、三蔵。」
「ああ。」
もう何も心配なことなんてない。
貴方からの愛を貰ったから。
溢れて入りきらないぐらいの愛を貰ったから。
形の見えない愛の結晶。
でも私の心の中に、今、確かに存在する。
三蔵の瞳と同じ紫色の心の結晶が、ココに。
5000HIT記念作品です。
久しぶりに三蔵の甘めを意識して書き上げたのですが…。
如何でしたでしょうか?
フリー配布ですので、ご自由にお持ち帰り下さい。
ですが、著作権は放棄しておりませんのでもし飾って頂けるのであれば、
こちらのサイト名(DREAM OF CRADLE)と管理人名(蒼稜)の記載をお願い致します。
また、その際に恐縮ですがBBSかメールにてご一報下さいませ。
最後になりますが、本当に沢山の方が訪れてくださった事、心より感謝申し上げます。
有難う御座いました。
そして、これからもどうぞ宜しくお願い致します。
2006.07.21 蒼稜
後書き