――― 澄んだ ―――



普段は静かなリビングだが、今日は昼頃から一陣の嵐がやってきた。
人の都合なんざお構いなしで、コイツらは勝手にやって来てリビングとダイニングを占領した。
こざっぱりとシンプルに片付いていた部屋に煌びやかな飾り付けが施されていく。
姿を変えていく部屋に目眩を覚えながら、三蔵は痛む米神を押さえた。

「三蔵。邪魔ですから部屋に戻ってて下さい。」
「・・・おい。」
「何です?ほら、早く退いて下さいね。」

黒い笑顔を向けられれば、ノドから出掛かった言葉を呑み込むしかなかった。
文句の代わりの舌打ちを残して、三蔵は自室に戻った。

部屋に入り、ベットに仰向けに転がる。
ぼんやりと天井を眺め、サイドテーブルの上のタバコに手を伸ばした。
深く吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出す。
ドアを閉めていても聞こえてくるアイツらの声。


毎年の事だと分かっていても、やはりいつまでたっても慣れやしねぇ。
誕生日なんざ、あってないようなもんだろ。
俺の場合、それが本当に生まれた日じゃねぇ事ぐらい理解している。
だったらわざわざ祝う事なんざねぇだろ。


何度文句を言ったところでアイツらは聞くハズもなく、毎年必ずやってきてはバカ騒ぎをして帰っていく。


そういや、今年は・・・。










ぴんぽ〜ん♪

遠くでインターホンの音が鳴った。
続けて聞こえてきたのは、悟空の嬉しそうにはしゃぐ声と、悟浄のやけに甘い声。


まさか・・・。
いや、アイツらなら呼んでいてもおかしくはねぇ。
くそっ。


吸いかけのタバコを灰皿に押しつけてから三蔵は部屋から飛び出した。
リビングに入ると、案の定の肩に手を回している悟浄の姿があった。

「人の女に気やすく触るんじゃねぇ!」

怒気露に紫暗の瞳で睨み付けると、肩を竦めながらも手を離した悟浄。
そんなヤツから恋人のを奪い取った。
それに文句を言うのは悟空だった。

「三蔵だけ独り占めするなんてズリィー!」

頬を膨らませながら絡んでくる悟空の頭を思い切りハリセンで叩いた。
涙ながらに見上げてくる悟空を鼻であしらう。

「三蔵、そこまでしなくても・・・。」

心配そうに悟空を見つめるが三蔵に視線を向けた。
それに答えようとした時に、キッチンから八戒が出てきた。

「悟空、仕方ありませんよ。さんは三蔵の彼女なんですから。」
「けど・・・。」
「猿が色気図いてんじゃねぇよ。チャンには、この悟浄サマが」

スパーン!
スパーン!

「いい加減にしやがれ!」
「「何すんだよ、三蔵!!」」
「煩い。は俺だけのモンなんだよ。誰がテメェらにやるか。」

きゃんきゃんと三蔵に食って掛かる悟空と悟浄。
青筋を立てながら、怒鳴り散らす三蔵。
そんな三蔵の腕の中で、おろおろとしている
いつもの光景がそこに広がっていた。

「平和ですねぇ〜。」
「「「どこがっ!!!」」」





バカ騒ぎがようやく納まって、三蔵は腕の中のを離した。
悟浄と悟空は八戒に促されてキッチンへ戻っている。
二人きりになれたところで、がプレゼントを取り出した。
恥ずかしそうに頬を染めながらもまっすぐに俺を見つめる。

「誕生日、おめでとう。」

そう言って、柔らかく微笑んだの澄んだ瞳に俺の心臓が煩くなった。



どこまでもまっすぐで

どこまでも素直で

どこまでも汚れなく

どこまでも澄んでいる

なによりも愛しい恋人の言葉で

己の心に芽生えた感情

いつまでも永遠に

決して離れることなく

おまえを愛し続ける



おまえが居てくれるなら、誕生日も悪かねぇ。

そう思いながら、愛しい恋人の額に口付けを落とした。



〜HAPPY BIRTHDAY SANZO.〜