―― 染まる想い ――
ようやく仕事を終えた焔は、ふとデスク上のカレンダーに目をやった。
印など付いてはいないが、それでも忘れてはいけない大切な日がある。
それが明日。
恋人の誕生日だ。
つい先日も逢ったばかりの愛しい顔を思い出すと、心なしか仕事の疲れがとんでいく。
明日。
本当は仕事を投げ捨ててでも逢いに行きたいが、そんなことをすると逆に逢ってくれない。
軽く肩を竦めながら、何をプレゼントしようかと思いを巡らせた。
熱めのお風呂から上がり、バスタオルで髪を乾かしながらは壁のカレンダーを見た。
明日は自分の誕生日。
そして恋人の焔の誕生日でもある。
おそらく彼は覚えていないだろう。
孤児だった彼は誕生日を知らなかった。
初めて聞いた時には驚いて、それでもそんな事に頓着しない焔を怒ったのを覚えている。
どんな事情があったにしろ、焔は生を受けた。
そしてこうやって出会えたんだから、と。
その時に決めた焔の誕生日。私と同じ日。
明日は盛大にお祝いしよう。
仕事が終わって、待ち合わせのバーへ向かった。
行きつけなだけあって、店内へ入るとすぐにボックス席に案内してくれた。
いつもならカウンターでゆっくりとした時間を過ごすのだが、
今日は誕生日ということもあり二人だけで過ごしたかったから特別にボックス席をリザーブしていた。
まだ焔は来ていなかった。
仕事が長引いているのだろう。
約束の時間に遅れるのは互いに仕事の日だから仕方がない。
それにせっかくの二人の時間を過ごすのに、仕事を置いたままなのはどうしても嫌なが決めた事だった。
座り心地のよい皮張りのソファーに深く腰掛けて、バックの中の小箱を確かめる。
悩み、選びに選びぬいた焔へのプレゼント。
気に入ってくれるといいんだけど。
そんな心配をしていると、店員に案内された焔が姿を現した。
いつ見てもその容姿、仕草一つ一つがを捕らえて離さない。
キザな事でも絵になってしまうのを、この男は自覚しているのだろうか。
スーツ姿で、しかも深紅のバラの花束を持っているから、店内にいる女性からの溜息がはっきりと聞こえてくるようだった。
「遅れてすまない。、誕生日おめでとう。」
「ありがとう、焔。」
抱えきれないくらいの花束を受け取ると、それを待っていたかのように店員がカクテルを持ってきた。
改めて、グラスをかわす。
「の誕生日に乾杯。」
「やっぱり忘れてる。二人の誕生日に乾杯よ。」
互いにこの世界に生を受け、そして出会えた事に。
「「乾杯。」」
一口カクテルに口をつけてからどちらともなくプレゼントを取り出していた。
渡されたプレゼントの包装を取り払って、も焔も顔を見合わせる。
堪え切れずに笑みを零しながら、二人はそれぞれプレゼントを手首にはめた。
それは同じブランドの腕時計。
考える事は同じだったようだ。
「ねえ、焔。」
「これからもずっと俺と同じ時を刻んでくれ。」
「ずっと永遠に、同じ時を。」
見つめ合った後、どちらからともなく唇を重ねた。
温かい時が流れていく。
互いに染まるこの想いと共に・・・・・・。
HAPPY BIRTHDAY.