コポコポとコーヒーメーカーが静かな空間の中、存在を主張するように音と香りをリビングに満たしていく。

カウンターキッチン越しに、はリビングのソファーで新聞を読んでいる三蔵を見ていた。

食事を終えた後の、ホッとするひととき。





コーヒーの香りが充満した頃、三蔵の新聞を捲る手が一瞬止まった。

「はい、コーヒー。」

淹れたてのコーヒーをテーブルに置くと、チラッと一瞥してそれに手を伸ばす。





暫くして、また一瞬止まる手。

「はい、煙草。」

何も言わずにテーブルに置かれたソフトケースに手を伸ばし、一本を口へ運ぶ。

コーヒーの香りの中に、マルボロの香りが加わった。





「はい、灰皿。」

コトンと軽い音をさせて、テーブルにそれを置いた。

そこで、ようやく三蔵の紫暗の瞳がをとらえた。





「おい。」

「ねえ、三蔵。これがね、私の好きな時間。分かる?」

ニッコリと笑みを向ければ、フンと鼻であしらわれ再び視線は活字に注がれる。

それでも、は喋り続けた。

「三蔵がね、考えてる事なんて解らないけど。三蔵が欲しがってるモノは解るの。

それを用意できるのは私。だから、今が私の幸せの時間なのよ。」





「フン、バカバカしい。」

「いいの。小さな幸せで。」

少し膨れながら抗議するに、三蔵が読んでいた新聞を脇に置き、再びその瞳にを映した。

「おい、。」

「何?」

「俺が欲しがっているモノが解ると言ったな。」

「言ったよ。」

「なら、今俺が欲しいモノが何か解るか?」

「・・・。」





少し悪戯気味に口角を上げている三蔵。

新聞。

煙草。

灰皿。

淹れたてのコーヒー。

目でそれらを確認しても、他に足りないモノなんて思いつかない。





「あっ・・・・・・、眼鏡ケースとか?」

「違うな。」

「・・・・・・じゃあ、何?」





本当に本当に思いつかない。

降参とばかりに軽く両手を挙げて、三蔵の紫暗の瞳を見つめた。

そんなの腰に三蔵の手が回され、勢いよく己の方に引き寄せられた。

驚いて、言葉をなくしているに三蔵の言葉が降ってくる。





「お前だ。。」

「・・・・・・え?」

「もう喋るな。黙ってろ。」





塞がれる唇。





コーヒーの香りとマルボロの香りの入り混じった空間で、二人が重なる。

それは休日の、甘い、甘い時間。










ねえ・・・・・・、三蔵。

大好きよ。