しまったっ!!
後悔先に立たずってやつか?
まんまと八兄と、三蔵に乗せられた気がするのは、決して気のせいではないだろう。
大学に行く!
行くな!!
の押し問答をして、互いに引かなかったと三蔵。
それを見かねて、八戒がある提案をした。
それが、「結婚発表」
そして、「結婚式」
三蔵と結婚し、入籍し、共に生活するのなら、大学に行ってもいいということで・・・。
が冬休みに入って、会見を開いた。
その時に、式の日取りを知らされてなかったのは、だけ。
今でも鮮やかに甦るのは、会見での自分の失言。
カメラのフラッシュが眩しい中、記者会見の質問に答えているのは、の右隣に座っている三蔵と、左隣に座っている八兄で・・・。
『結婚式は挙げられるんですよね!?』
「ああ。」
『日取りは決まっているんですか?』
「ええ。3月14日です。」
「は・・・い?!ちょっと、その日は卒業式・・・・・・・・あ!!!」
3月14日は、世間一般はWhite day。
高校の卒業式も、大概は2日ほど前には終わっているのが、当然と言えば当然で・・・。
だけど、何故かの学校だけ3月14日だったりする。
何故か?
それは、校長が気を利かせたらしい。
White dayの為――――ということで。
ああ・・・、それが仇になろうとは、その理由を聞いた時は全くもって思ってもみなかった。
「あ〜〜〜〜〜!!!!悔しいっ!!!!!!」
叫んでも、時間は戻るはずも無く・・・。
そして、迎えた問題の卒業式当日。
高校の前には、溢れんばかりの記者とテレビ局の取材陣でごった返していた。
しかも、「はいない?」という、疑惑まで流れ出していて・・・。
「頼むから、帰ってくれ。」
が窓から外を見て、小さく呟いた。
「でも、マジでこの学校だったのかな?」
「・・・女って、そんなに変わるもんか?」
「なあ、同学年でいたか?」
「知らねぇ。」
いつものメンツが、ウンウンと悩んでいる。
今から式なんだから・・・。
お願いだから、何事もなく卒業させてよ。
朝から何度目かの溜息を窓の外へ吐き出した。
確かに、今日結婚式を挙げるそうで。
朝から八兄も、いろいろと用意していたが、には詳しい事は何も伝えられなかった。
だから、余計に不安。
だから、余計に嫌な予感が拭えない。
あの時の会見のように、何かを仕掛けてくるのか?
イロイロと考えが浮かんでは、消えていく。
そんな中、卒業式の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
桃源高校の大音楽ホールで、卒業式は始まった。
在校生の送辞が読まれ、卒業生の答辞の番となった。
それを読み上げるのは、もちろん学年首席のなのだが・・・。
順調に読んでいく。
が、そこで疑問がわいた。
八兄の事だから、コレに細工でもしているかと思っていたのに、今のところ何も無い。
原稿そのものが変わっている事もあるかと思っていたのになぁ。
内心そう思いながら、目が文字を追っていく。
「卒業生代表・・・
『』
きたか。
流石八兄だよ。
でも、そんな手には引っ掛らないよ?
・・・。」
そつなくこなし、席へと戻る。
次は何が来る?
そう考えても、後は校長の挨拶のみだったし、何も無いか。
と、安心して壇上に立つ校長の姿を見ていた。
「貴方達の選んだ路に、私たちは口を挟むことはできません。
自分達が信じ、選んでいくのですから、それが、例え誤っていたとしても。
ですが、寄り道だとしても、決して無駄になる事は無いのですよ。まだまだ、歩む時間は長いのですから。
自分を信じ、進みなさい。」
いつも、穏やかに笑っているんだよな、この校長先生は。
銀色の長い髪を三つ編みにし、誰隔てなく優しく照らしてくれる。
そんな光明校長は、まるで月のようだと思ってしまう。
校長の言葉が終わったと思ったら、まだ何かを言い忘れていたらしく席へと戻りかけた光明校長が再び壇上に立った。
「皆さん、私事で申し訳ないのですが、私の息子が今日、結婚する事になりまして。」
途端、静まり返っていたホール内がざわつき出し、そして、誰からともなく拍手が上がった。
「貴方達の卒業式という良き日に、私の息子も人生の一歩をまた踏み出すんですよ。」
・・・本当に嬉しそうに話す校長。
は妙な引っ掛かりを覚え、キョロキョロと辺りを見回した。
が、金糸の髪の男が視界に入ることも無かったので、再び視線を壇上に戻した。
相変わらず惚気話(?)は続いていて。
「皆さんも、よくご存知かとは思うんですが『玄奘三蔵』なんですよ。」
―――今!
―――今、何て言った!?
―――光明校長・・・”玄奘三蔵”って言わなかったか?!
ざわつきだすホール内。
歓声が聞こえる中、一人頭を抱えるのは。
「やられた。」
こんな隠しダマあっていいのかよ!!!
「それでですね、来てもらっちゃいました。」
校長の言葉で、照明がステージの端を照らす。
そこには、眩しいばかりの金糸が輝いていて・・・。
白いタキシードを着て、それはもう、まさに新郎の姿。
ざわつきだすかと思っていたホール内は、水を打ったように静かになった。
圧倒的なその姿。
神かと思われる程、神々しく圧倒的な存在感。
そんな三蔵が、ゆっくりと光明の元へ歩いて行く。
光明校長の隣には、いつの間にか八兄も立っていて・・・。
二人が見守る中、三蔵が壇上に立った。
「玄奘三蔵だ。・・・・・・卒業か。おめでとうとでも言ってやろう。今日で、もう偽りの姿をする事が無くなった訳だ。なあ、。」
三蔵の言葉に、途端、ざわつきだすホール内。
誰だ、誰だ?!
何処だ?
と、煩いぐらいに波紋が広がる。
「すいませんね、皆さん。お静かに願えますか?」
柔らかな物腰だが、有無を言わせない八戒の声がマイク越しに伝わる。
「では、皆さんも気になっている事でしょうから、改めて紹介しますね。」
カツ カツ カツ と足音がステージに響く。
三蔵がいた方とは反対から現れたのは、紅い髪を後ろで束ね、同じく紅いシャツに黒いスーツを着た悟浄だった。
そして、悟浄がステージからヒョイっとばかりに飛び降りて、生徒の間を歩いて行く。
向かっているのは、もちろん・・・。
「さて、迎えに来たぜ?」
「・・・!なんて事すんだよ!」
溜息まじりに呟いて、差し出された悟浄の手をとって立ち上がり、そのままステージへ進む。
ステージへ上がると、悟浄から奪うように三蔵がを自分の胸の中に抱きこんだ。
「皆さんには黙っていて申し訳なかったのですが、を・・・。
いいえ。と3年間仲良くして頂いて、有難う御座いました。」
八兄の言葉を聞きながら、三蔵の胸に顔を埋めた。
恥ずかしいと言うより、どこか嬉しくて涙が出てきた。
三蔵の言った『偽りの自分』が消えていき、本来の自分が姿を現す。
そんなの頭に、大きな手が置かれた。
「お前も何か言っておけ。」
見上げた頬に伝っていた涙を、その綺麗な指で拭ってくれ、背中を押された。
静まり返る生徒たちに一礼をし、深く息を飲み込んだ。
つい先程、答辞を読んだ時とは違う緊張が走る。
「・・・。3年間、黙っていてごめんなさい。でも、皆と一緒に過ごせてとても楽しかったです。あり・・・が・・・・と・・・・う。」
堪え切れなくなった涙に、声を震わせながら言い切ると、ホール内が拍手で包まれた。
誰からとも無く、何処からとも無く、「おめでとう」の言葉までもが聞こえてきて・・・。
は、涙を流しながらも綺麗な微笑を返した。
「それでは、さん。行きましょうか。」
「え・・・。光明校長・・・・・・。」
「イヤですよ。校長なんて。お義父さんと呼んで下さいね。」
にこやかに言い切る義父。
勝ち誇ったように口角を上げている三蔵。
嬉しそうにそれを見ている八兄と悟浄。
「行くぞ。」
すっと差し出されたその手をとって、歩いていこう。
としての新しい人生を。
三蔵と一緒に。
この温もりを永遠に――――――――。
――― HAPPY WEDDING FOR .―――
ココまでお付き合い下さいまして、有難う御座いました。
これで、「To tell the truth」はお終いです。
何かと設定に無理のあった話しですが、皆様が楽しい一時を過ごせたのなら嬉しい限りです。
過ごせなかったら・・・・・・、すいません。(滝汗)
これからも、日々、精進していきます。
蒼稜