ふと声が聞こえた気がした。





――― プレゼント ―――





仕事へ行く前の、朝のゆったりとした時間。
三蔵はメガネをはずし、読んでいた新聞をテーブルへ置いた。
がいなくなって、もう一ヵ月と半ばが過ぎていた。
暖かかった部屋も、以前と同じ無機質なものへと戻っている。

そんな中、がいつもよくいた場所に立った。
ベランダから見上げる空は蒼く澄んでいて、手を伸ばせば確かに届きそうだと思った。


もし、この手が届くなら
そこにいるお前に届くだろうか。


「・・・。」

呟いた三蔵の手のひらに吸い込まれるように、空から一つの白が舞い降りてきた。
ふわっとした感覚に、落とさないように掴み取った手をゆっくりと開くと、真っ白な羽根が一つ。


お前に届いたのか。
それとも、お前が俺を呼んだのか?

離れるなと言ったはずなのに、こうも簡単に逝ってしまうなんてな。
くそッ。
だが、忘れやしねぇ。
お前の一生を俺が貰ったんだからな。
約束どおり、くれてやる。
俺の一生を。
お前の分まで生きて、生き抜いて、自分の為に死んでやる。
それまで待ってろよ。



白い羽根をデッキチェアのが写っている写真たての前へそっと置いた。
以前から置かれている指輪と、その白が並んだ。

「行ってくる。」






























あの日舞い降りた白は、からのメッセージだったのかもしれねぇな。

会社に行って初めて気付いたその日のイベント。
バレンタインデー。


お前の想いは全て届いているよ。
俺が
俺の心の中で、いつも笑っているお前がいるから。
だからお前も受け取れ。
これが俺からの気持ちだ。


デッキチェアの上に、ポケットの中から取り出したピンクの包みを置いた。
一ヵ月前の白と並んだ、それと同じくらいふわっとした俺からの白。


甘い、甘い・・・想い。
溢れるくらいに
いや、溢れちまってるな。


フッと自嘲気味に笑みをもらし、写真の中のを見つめた。

「俺の気持ちだ。甘くて吐き出しても知らんぞ。」



――大丈夫よ。愛してるわ、三蔵。――



の声が聞こえた気がして、自然と表情が和らぐ。


ああ。
今ならお前の気持ち、解らなくもないな。
届けと願う、この両手。
それが叶わぬのなら
降ってこい。
俺だけの天使。





。首長くして待ってろ。必ず迎えに行ってやる。」