パチンと音を鳴らして、はケータイを閉じた。
そして、視線を壁に掛けてあるカレンダーに移す。
もうすぐ、梅雨入り。
6月の初め。
カレンダーに向けていた目を、今度は窓の外に移した。
「どうした。」
「ん、もうそんな季節なんだって思って。」
「・・・。」
そういったの表情は、どこか面白そうで。
「梅雨か。鬱陶しい。」
「まあ、それもあるけど。」
再び、視線は手に持ったケータイに戻された。
さっきの電話と、少なからず関係があるのか。
三蔵も眉を寄せながら、紫暗の瞳をのケータイに向けた。
それに気付いたが、クスッと笑みを漏らす。
「ねえ、三蔵。田植えしない?」
「ああ?何言ってやがる。莫迦娘。」
「だから、た・う・え!知らない?」
「そんな事は知っている。」
何を言い出すかと思えば、いきなり田植え。
話の脈絡すらあったものじゃねぇ。
呆れて溜息を吐き出し、タバコを取り出し口にくわえた。
「で?」
「え。だから、田植え。した事ないでしょ?」
「当たり前だ。・・・そう言うお前はあるのか。」
「あるよ。子供の頃に、泥だらけになりながらやった。面白かったよ。」
「で?さっきの電話に関係あるのか。」
三蔵の言葉に、一つ頷き返した。
がケータイを持ち始めてから、毎年この季節になると掛かってくる一本の間違い電話。
最初の頃は「間違いですよ」と相手に教えていたが、一昨年辺りからは言わなくなった。
相手は、淡路島に住んでいる知らないおじいちゃん。
田植え仲間に、「次の休みに田植えをしようか。」というのも、毎年の内容。
その電話を受けると、そろそろ田植えの季節なんだと実感する。
都会に出てきていたにとって、田舎の実家が恋しくなる季節でもあった。
フッと、先程三蔵に言った言葉を思い出した。
そして、不機嫌そうに紫煙を吐き出している三蔵にまた同じ言葉を言った。
「田植えしよ?」
「沸いてんじゃねぇぞ。」
「じゃあ、実家に帰ってくる。」
「・・・・・・。」
「あ、八戒と悟浄と悟空も誘おっと。」
「だから、脈絡つけて話しやがれ。」
実家に帰るというのに、何故そこに八戒たちの名前が出てくるんだ。
眉間に皺を寄せてを見上げるが、そんな事はお構いナシにケータイを操作している。
「何してやがる。」
「え?電話。・・・・・・あ、八戒?明日、暇?」
「勝手に掛けてんじゃねぇ。貸せ!」
無理やり奪い取ったケータイからは、付き合いの長い八戒の声が流れてきた。
溜息を吐きながら、を睨み上げた所で、それをクスッと笑みで交わされる。
八戒といい勝負だ、まったく。
次の日、三蔵はの実家に来ていた。
都会とはまた違う空気がココには流れているようで、日々の慌しさを忘れてしまいそうだった。
そんな、穏やかな時間。
隣のの顔からは、笑顔が絶えない。
昨日、俺も一緒に行くと決まってからずっとだ。
まあ、が田植えをしろと言ったところで、大人しく従うはずもなかったのだが。
今日はあいにくと雨が降っている。
田植えは来週に持ち越しみたいだ。
縁側でタバコをふかしながら、降りしきる雨を眺めていた。
「残念だったな。」
「え?ああ、田植えね。せっかく三蔵の田植え姿見れるって思ったのにね。」
「フン、言ってろ。」
「でも、いいの。嬉しかったから。」
そう言って、座っている俺の肩にが凭れかかってきた。
フワッと香る淡い花の香りと、マルボロの香りが、今の俺とのように重なった。
タバコを灰皿に押しつけて、の肩を抱き寄せる。
「で、何がそんなに嬉しいんだ。」
「だって、三蔵を紹介できたから。」
「フン。だったらこのまま、挨拶してやるぞ。」
「うそ!」
「お前の実家は遠いんだよ。そう何度も来れるか。」
「ホントに!?」
「俺はウソは吐かねぇよ。」
抱き寄せていたが勢いよく離れ、立ち上がった。
見上げる俺の目に、の蒼の瞳に微かに溜まる水滴が見えた。
「、俺はお前を離すつもりはねぇ。何があってもだ。」
「ん。」
「分かったんなら、親に言って来い。」
嬉しそうに縁側から走り去るを見送り、三蔵は再びタバコに火を点けた。
紫煙を一筋立ち上がらせながら、庭で雨に濡れる紫陽花の紫や蒼を見つめた。
都会では決して見られないような、自然がココには存在する。
そんな中で、は成長してきたんだ。
都会の雑踏にもまれること無く、自然の中で伸びやかに・・・。
理由はどうあれ、今日、ココに来てよかったと実感した。
遠くでの嬉しそうな声が聞こえてきた。
三蔵の口角が自然に上がった。
純真無垢なアイツを、俺の色で染めてやる。
誰にも渡しはしねぇよ。
ああ。
季節はずれの田植え。もう、7月ですね。(汗)
アップするのに時間がかかり過ぎました。。。。。
というより、最後が思いつかなくて、行き詰っていたんです。
実際に、蒼稜がケータイを持ち始めて、毎年かかってくるんです。
淡路島の知らないおじいちゃんから。(苦笑)
今年もかかってきて、それで思いついた夢でした。
三蔵の田植え姿なんて、想像つきませんが。。。
まあ、三蔵も決してしないでしょうし。ね?
お楽しみ頂ければ幸いです。
蒼稜