Please, say
Say it to me
so that I can hear
with a loud voice
so that I do not have to cry


Burnt field


近頃、酷く不安になる。

それが何故かは自分でも解らない。
けどなんだか貴方が遠くに行ってしまうような気がして。
笑ってしまう。
こんなに近くにいるのにね。


?」

夜の静まり返った闇に、穏やかな低い声が灯る。
頭の下に敷かれた腕が少しだけ動いて、焔が身体を起こしたのがわかった。
私を覗き込んでいるのだろう。長い指が頬を滑っていく。
驚くほど私の感情に敏い彼は、よくこうしてあやす様に撫でてくれる。
寝たフリをしているのを判っているのだろうか。
判っていても、きっと彼は何も言わないだろう。
いつも、急かすでもなく、私から口を開くのを待ってくれるから。
それはとても安心できることで、けど同時に寂しいことでもある。

私はきっと我侭なんだろう。

ひどく心地良いのに、もっと求めて欲しいと思う。
強引に抱き寄せて、唇を奪って、飽きるほど無駄に愛を連ねて欲しい。
以前はそんなのはいらないと思っていた。
静かに流れる時間の中で、愛を言葉にしなくても、名前を呼び合うだけで良い。
そう思っていた。今もそう思っている。
なのに不安になるたび、その静けさがもどかしい。
こんなデタラメな願いを伝える方法なんて。

・・・」
私の名を呟く声。
同時に、髪を梳いていた手が止まった。
少しの沈黙の後、小さな溜息が漏れた。
「・・・言ってくれなければ、解らない。」

その言葉に、胸が爛れそうに熱くなった。

そう、言わなければ。
伝えなければ伝わらない。
彼の気遣いを甘受しているだけでは何も動かない。
焔も内心は困惑しているのだろう。
私が恐れを抱えているのは解っても、何を求めているか解らず、戸惑っているのだ。
けれどこの不安の中口を開いたら、何を言い出してしまうだろう。
きっと酷いことを口走ってしまうに違いない。
『私が消えれば、楽になる?』
そんなことを言って、彼を試すようなことをしてしまう。

ああなんて無様。

言葉にすればいい。
不安も、恐怖も、汚い心も、全てをぶつけてしまえばいい。
彼はきっと受け止めてくれるから。
なのに、このどうしようもない不安はそれさえさせてくれない。
言葉にもならないのに、全て欲しいと願ってしまう、なんて。


そっと額に彼の唇が触れた。
優しい温もりが身体を包み込む。

「・・・おやすみ。」

その言葉と同時に訪れた元の闇。
しんとした静けさに誘われるように、寝返りを打つフリをして彼に擦り寄って。
今夜は見えない月の影に感謝しながら、一筋だけ涙を零した。




それから数日後。
朝、目を覚ますと、当たり前のようにあるはずの焔の姿が無かった。
いつもなら彼の腕の中でしばらくまどろんでいられるのに、それが無いことで一気に意識が覚醒した。
「・・・ほむら?」
起き上がって、ふと窓の外を見る。
眼球に映った光景に、目を見開いた。

朝焼けの空に広がる雲は、燃えるような紫色。
蒼い夜を覆い隠すように緋色の朝が入り混じる。
今までに見たことの無い空だった。
まるで何かが起きる前兆のように、不思議な空。

心臓がどくどくと煩いほどに脈打つ。
それを払い除けるように急いで衣服を纏い、焔を探しに出ようと扉を開けた。

「――っと。」

不自然なリズムの足音と共に小さく声が聞こえた。
顔を上げれば、驚いたようにそこに立つ焔の姿。
外開きのドアがぶつかりそうになって慌てて避けたのだろう。
私を見ると、「どうした?」と首を傾げた。

「どこに行ってたの!?」
「ああ、紫鴛達に呼ばれて行ったんだが・・・」
「それ、だけ?」
?」
俯いた私を覗き込んでくる瞳が、覆われていく空の蒼と重なる。
そう感じると同時に、彼の背に腕を回して抱きついていた。
ジーンズに着物を肩に掛けただけの彼の姿は、頬を寄せた胸の熱を直に伝えてくる。
一呼吸置いて、焔の腕が柔らかく抱き締め返してくれた。
「どうした 、恐い夢でも見たか?」
首を横に振る。
恐い夢なんて見てない。
夢の中は幸せで、このままずっと覚めなければいいと思うほど。

恐いのは、現実。

焔がある日突然いなくなってしまうのではないかと、不安に苛まれる現実の方が、恐い。

頬にそっと大きな手が触れて、顔を上げた。
見上げた焔は、眉を寄せて私の瞼に唇を寄せた。
「・・・何を泣いている?」
「え・・・」
言われて気がついた。
揺らぐ視界と、頬を伝う生温いもの。
反射的に笑顔を作ろうとした。
けれど失敗したのだろう、焔は余計に表情を歪めた。


その苦しげに細められたオッドアイを見たとき、堪えていたものが溢れ出した。


「・・・ほ、むら・・・ッ焔ァ・・・!」

声を、泣き声を上げて、もう一度、キツく抱きついた。
離れないように、放さないように、爪を立てて。
そんな私を優しく抱き締める腕に、首を振った。

「ちがッ・・・違うのそうじゃないの・・・」
?」
「優しくなくていいから・・・っもっと強く抱いて!」

ああそうよそうなの
私が今欲しいのは温もりでも優しさでもなくて貴方がここにいるという
私が貴方のものだと貴方が私のものだという確かな証で約束で傷跡で
抱いてちゃんと抱いてこの身体に痕を残すように強い力で
言ってちゃんと言って大きな声で叫ぶほど荒々しく愛してるって言って
何度も何度も繰り返してどうか

もう泣かないでいいように――――


「―――ッ」

願いを口にした途端、強く、強く抱き締められた。
骨が軋むほど、痛みを覚えるほど。
この人は今まで、こんなにも強い力を和らげて私を包んでいたのか。

「ほ、むら・・・」
「他には、どうして欲しい。」
耳元を愛撫するような囁きに、ゆっくり目を閉じた。

「愛してるって言って・・・」
「愛している。」
「・・・もう一回。」
「愛している。」
「・・・もっと。」
「愛している。」
「もっと。」
「愛してる。」


「もっと・・・ッ」

「愛してる。」


彼の口から紡がれる言葉は、どんな音楽よりも美しい響き。
まるで堤防が決壊したように、涙が止まらなかった。
溜め込んでいた不安や恐怖が、涙と共に流れていくようで。
生温い水は私の頬を、彼の胸を濡らしていく。

「こわ、かったの・・・っずっと、ずっと、貴方がいなくなって、しまいそうで、」
「何故だ?」
「解らな・・・ッ解らないけどそんな予感がして、ずっと恐かった・・・」
「・・・そう、か。」
「行かないでね・・・何処へも行かないで。」
「・・・ああ。」
「ここに居たい、貴方の側に居たいの。」
「ああ。」
「何も要らないから・・・焔しか要らない・・・ッ」


貴方は知らないだろうけれどもう私には何も残っていないの
貴方に出会った瞬間私の周りにあった全てのものが焼き尽くされてしまった
私は広い広い焼け野が原の中心にぽつんと一人遺されていて
歩けると思っていたどこまでも行けるような気がしてた
でもそれは私から全てを奪ったはずの炎が足元を暖めてくれていたから
ああ優しい愛しい炎どうか消えないでお願い私から体温まで奪わないで
もう貴方しか居ないの私にはもう何も何も何も
貴方が居なければ歩くことさえできない
寒くてとても寒くて歩けない

もう―――


「・・・ 。」

名を呼ばれると同時に腕の力が弱まった。
両手で頬を包まれ、涙で凝った前髪をかき上げられる。
泣いたせいで酷い顔になっているだろう私に、額、両目、こめかみ、頬と、順にキスを落とす唇。

「俺もだ。」
「え・・・?」
「俺も、何よりお前を失うことが恐いよ。それ以上の恐怖は無い。」
だが、と前置きした焔は小さく苦笑して見せた。
「俺は思っていた以上に欲深いらしい。欲しいものは全て手に入れないと気が済まない。」
「そんなこと・・・っ」

彼は生まれて天界を去るまで、与えられもせずに奪われてきた。
欲深いのではなく、ヒトが当然のように与えられるものを欲しただけ。
首を横に振って否定すると、今度は苦笑ではなく優しい笑みで抱き締められた。

「一つだけ言えることは、それが全てお前に繋がっていることだ。」
「私・・・?」
「お前と分かち合いたいと想うからこそ欲しくなる。お前が居なければ何の意味もない。」
「ほむら・・・」
「俺こそお前に懇願しなければならないな。こんな男に掴まって災難だろう?」

冗談げに言った焔は腕の力を強めて、ひどく穏やかで、けれど少しだけ寂しげな声で。


「ずっと、側に居てくれ。どこへも行かないでくれ。俺もお前と離れたら・・・」

恐いよ酷く恐い
今まで完全に手に入れたものなど自分には何も無いんだ
ああそうだ欲しかったものは全てこの手をすり抜けて行った
多くを望んでいたのだろうかただ自由が光がヒトの温もりが欲しかっただけなのに
初めて手に入れたのが君なんだ初めて欲したものを手に入れられたんだ
初めて自分を求めてくれたのが君なんだ愛しているよ狂おしいほどに愛している
だから側に居てこの手を振り解かないでどこへも行かないで
考えることさえ恐くてたまらない君と離れたらこの足はああこの身体は

動けなくなってしまうから―――


また、涙が零れた。

朝からなんて涙の多い日だろう。
けれど今度は不安や恐怖ではなくて、嬉しさから零れた涙。
何より大切な人を求め、求められることの喜び。
これより幸せなことなんて無い。

「愛してる・・・」

ごく自然に、口から出た言葉。
それが今の全ての想い。
この感情と、抱き締めてくれる腕の力強さと、貴方の声。
きっとそれだけで、いい。


「愛してるよ、 。」
「焔・・・」


そっと、目を閉じた。
近頃続いていた浅い眠りと温かい腕が、急に眠気を誘う。
焔の髪と同じ色をした闇に、心地良い揺らぎを感じながら意識を落とす、寸前。
金色の、光が見えた。
闇を引き裂くほど眩しい、金色の光。
同時に、蒼い空を覆い隠していく紫が脳裏を過ぎった。
それは何故か、遠い昔に天から堕ちた一人の魂を思い起こさせたのだけれど。


「愛してる。」


泣かなくていい。





もう、泣かなくて、いい。





泣かなくて、いいでしょう―――?





So hold me
hold me tight
so that it will remain on my body
hold me strongly
so that I do not have to cry
I felt that I can go
anywhere.
But it was so cold
so cold that I can not walk


【End?】

 DREAM OF CRADLEの蒼稜さまへ捧げます。
 Coccoの歌からということで、痛く切ない歌たちの中から必死に探しました、『焼け野が原』という歌です。
 甘くなくてすみません・・・!!愛は在ります。痛いほどに在るつもりです。
 もっと甘い方が、ということでしたら、歌手変えて(苦笑)選曲&創作いたしますので仰って下さいね・・・!

 たくさんの感謝と大きな喜びとほんの小さなキスを込めて。



管理人がよく遊びに行かせて頂いている、素敵サイト様の「Melted Moon」の桜羅様より、相互リンク記念に頂いた宝物です。
痛いくらいの焔からの愛情と、ヒロインの気持ちが伝わってきてvvv
痛く、切なく、でも、確かに其処に存在する愛を。。。
受け止めました。
まさしく、焔です。焔そのものです。
桜羅様のHPでは、デザイナーの焔も活躍中です。
どの焔も大好きです。
桜羅様、本当に有難う御座いました。