「えぇ、はい、わかりました。お待ちしてます。ゆっくりでかまいませんからね。」


ピッ


からの着信があったのは、つい今し方。




『八戒ごめんね・・・!ゆかたどれ着て行こうか迷ってたら遅くなっちゃった・・・!
 今急いで着てるからあと20分もすれば行けると思うんだけど・・・』

「お一人じゃ大変でしょうから、僕も手伝いましょうか?着付け。」

『・・・あはは。八戒って、意外とさらっと"そーゆーコト"言うよね』

「何です?"そーゆーこと"って。」

『・・・私以外の女の人に言ったらセクハラよってコト!』

「心外ですねぇ・・・以外の女性に言うわけないじゃないですか。
 それに、先ほどの発言だって性的いやがらせなんて・・・」

『セクハラを和訳しないで・・・なおさらヤラシー感じがする・・・。』

「いやがらせをするつもりはなかったんですよ。」

『・・・わかってるけど・・・。』

「ただ少し下心に素直になってみたというか、欲求がつい・・・」

『・・・〜〜!!一人で大丈夫ですから!もう少ししたら行くから・・・そこで待っててよ・・・!!』



徐々に賑やかさを増す夜店の周囲。
夜店の呼び込みと客の騒ぎ声と双方のやりとりが祭りの雰囲気を形作っていく。


「天気がよくてよかったですねぇ。」


ゆかたではしゃぐ人々の笑顔を見ながら、八戒が一人つぶやく。
しかし、「よかった」の言葉は、群集に向けられたものではなく、今も急いでいるだろう、
この祭りを楽しみにしている待ち人の喜ぶ姿を思い浮かべての言葉だった。


周囲の賑やかさに掻き消されて着信音は聞こえなかったが、その待ち人からメールが届いた。






『 あと3分・・・! 』






一言、それだけ書かれたメール。急いでいるのがよくわかる。


「走りながら打ち込んでいたんでしょうから、送信時点でもうずいぶん近づいたかもしれま・・・」


「・・・おっ・・・お待たせ・・・デス・・・!」



ぜぇはぁと肩で息をしたが到着した。ゆかたをきちんと着て、髪もきれいに結い上げられている。



「お疲れ様です。大丈夫ですか?」


少しかがむようにしての顔を覗き込み、背中を優しくさすりながら八戒が尋ねた。


「私は・・・平気・・・!・・・でも、どう?髪型とか、崩れてない?」

髪に手をやりながらが不安そうに尋ねる。

「大丈夫です。それに、とても似合っていますよ。」

にこりと返された言葉に、は走ってきたせいで上気していた顔がさらに赤くなるのを感じる。

「あ・・・ありがと・・・」

「ゆかたも髪型も、もとても素敵です。いいですね、お祭りって。」

「は・・・八戒だって、似合うじゃない・・・ゆかた。」

「ありがとうございます。」

にこにこと嬉しそうに自分を見つめる視線に、は真っ赤な顔を隠すようにそむけた。
そして、ぎゅ、と八戒のゆかたのそでをつかみ、夜店を回ろうと促した。



すでに人ごみはものすごいことになっていて、一瞬目を離しただけではぐれられそうだ。


の手は、しっかりと八戒のゆかたのそでをつかんでいる。




「待たせちゃってごめんね。・・・待ってる間、女の子に声かけられたりしなかった?」

「・・・どうだと思います?」

相変わらずの嬉しそうな表情でいじわるな返事をする八戒。

「・・・ちゃんと待っててくれたから、どっちでもいいケド。」

はスネたように返す。

。」

流れる人ごみの中で、八戒がと視線を合わせた。
優しい瞳が微笑む。

「すねた顔も可愛いですけど、気分を害してしまったならすみません。
 ・・・でも、実は僕もわからないんです。」

「・・・え?」

「ずっとだけを待っていたもので、声を掛けられていたとしても
 気付いていないですし全員無視してしまったのでしょうから・・・」

「・・・」

を、待っていたんですよ。」


くすぐったそうにが笑った。


「ありがとう!すごく嬉しい・・・!」

が八戒のゆかたのそでをつかんだまま自分の身体をぴたりと寄り添わせた。
その仕草に、八戒も嬉しそうに微笑む。

そして、八戒の手が袖を握っているの手に重ねられた。


「手、繋ぎませんか・・・?」


の視線が八戒の顔へと跳ね上がる。


「ゆかたは僕ではないですから、心配です。」


八戒の視線が人ごみを指す。ゆかたの人、人、人。確かにはぐれたら再会はキビシそうである。


「・・・ん。」




おずおずと、二人の手が重なり、指が絡められる。





「これで、安心ですね。」

「うん。」




二人が照れたような表情でうなづきあった。








この空気の恥ずかしさをごまかすかのように、が口を開いた。




「ね・・・そしたら夜店回ろう?お腹すいちゃった・・・。」

「そうですね、何がいいですか?」

「・・・う〜ん・・・いっぱいあって迷っちゃうなぁ・・・」

「何でもいいんですよ。ゆっくり探しましょう。」


国内でも最大級の規模を誇る夜店が立ち並ぶ光景は、人ごみと相まって圧巻だ。



「本格的に腹ごしらえにするんでしたら、やきそばやたこ焼きですかね?」


派手なのぼりを指差しながら八戒が尋ねる。


「・・・粉もんって太っちゃいそう・・・」


がつぶやく。


「何をおっしゃいますか。美的意識はもちろん大切ですが、お腹がすいたら食べていいんですよ。」

「・・・それに、かつおぶしとか・・・青のりとか・・・が・・・」

そう続けたに、八戒は一瞬面食らってから楽しそうに笑った。



「・・・っあはは、可愛いですねぇは・・・!」



八戒の反応には赤面しつつ頬をふくらませる。


「なっ・・・なんで笑うのよ・・・!!しょーないじゃない気になるんだから・・・!!」

「すみませ・・・つい、その、があまりに可愛らしいので・・・」

笑いを引きずりながら八戒が弁明する。

「・・・もう・・・!じゃあ歩きながら探す・・・!!」

可愛らしいので、というよくわからない理由に、それでもやはり照れずにはいられない
ぷんっと前を向き、しっかり絡められたままの八戒の手を引き、群衆の中をずんずん進んでいった。

「やきそば通り過ぎちゃいましたよ。」

「だから食べないったら・・・!」

「りんご飴ありますよ。」

「この人ごみじゃ持ってるのが大変じゃない?」

「あ、チョコバナナとかどうですか。」

「・・・やめとく。」

に手を引かれている八戒は楽しそうにのぼりを読み上げる。

「唐揚げとかわたがしもありましたよ。」

「今は・・・っイタ・・・!」


の足が止まった。


「・・・・・・!どうしました?大丈夫ですか・・・?」


八戒があわてての視線の先を覗き込む。


「・・・休みましょう、歩けますか・・・?・・・まずは人ごみから出ないと・・・」


の足の指の間からは滲んだ血が今にも滴りそうであった。


「だいじょぶ・・・でも、肩は貸してね・・・。」


痛めたほうの下駄を手で持ちながら、が苦笑する。


「・・・もちろんです。大丈夫ですか、ゆっくり・・・あ、すみません、通してください・・・!」


八戒がをかばうように人ごみをかきわけ、夜店の間から喧騒を抜けた。
夜店の周囲からは、少し離れただけで人はかなりまばらになった。


「ごめんね八戒・・・全然大したことないんだけど・・・走ったりとかしてさ、自業自得だよね。」

が申し訳なさそうに言うと、八戒は首を横に振り、に回していた腕をほどいた。


「いいえ、に無理をさせてしまったのは僕です・・・それより、まずは洗って消毒しましょう・・・!」

「え・・・!?ちょ・・・ちょっ・・・八戒!?」


の背中と脚に八戒の腕が移動し、一気に抱き上げられた。


「ななな何やってんの・・・!?」

真っ赤になってパニックに陥っているに、八戒は真剣な顔つきで言い放つ。

「足を痛めたんですから足に負担をかけるべきではありません!
 先ほどはものすごい人ごみでしたからご自分で歩いてもらうより他ありませんでしたが・・・」

「でも・・・その・・・これお姫様だっこ・・・」

自分で言っていて恥ずかしくなったのか、がもごもごと口ごもる。

「ではは高尾太夫でしょうかね。」

八戒が微笑む。

「そんな大層な名前恐れ多すぎ・・・!」

姫じゃないし、ともつられて笑う。

「・・・僕は大名にはなれませんからねぇ・・・紺屋の職人の方が性にあってますよね。」

「・・・コーヤ?」

「はい。ことわざにも『紺屋の白袴』ってあるじゃないですか、あの紺屋です。」


話しながら、八戒が歩き始めた。


「そのお相手は同じ『高尾太夫』でも、違う人物ですけどね。『紺屋高尾』は落語の噺にあるんですよ。」

「へぇ〜。」



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ふとしたきっかけで高尾太夫を知り、惚れこんでしまった紺屋の職人。
しかし、花魁の中でも最上級の太夫に会うことは容易ではない。
三年働いて金をため、職業を偽り、運にも恵まれ会うことが出来た。
しかし、もう金はなく、次を問われても会うことは難しいと
本当の職業とともに打ち明けた。
すると、高尾太夫は紺屋の誠実さに涙を流し、後に自分を女房にしてくれと言う。
もちろん紺屋は大喜びし、高尾太夫が来るまでの間も大喜び。
そしてその後二人は夫婦となり、ともに紺屋を営んだという。
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「・・・僕の家のほうが近いですから、そこで消毒しましょう。」


が抱きかかえられたまま八戒の首に手を回した。


「優しくて誠実な紺屋さん、私も紺屋太夫になれるかな?」


のセリフに、八戒が嬉しそうに頷いた。









「もちろん、大歓迎です。一緒に営みましょう、二人の生活を。」


















管理人がよく遊びに行かせて頂いている素敵サイト様 「バケツ」の野花様から頂いた宝物です。
光栄な事にまた、八萬打企画ビックリキリバン84425番を踏ませていただいた上に、持ち帰らせていただきましたvvv
八戒さんの愛情が最高です!!!
ちょうど兵庫県 姫路のゆかた祭りの時期でしたので、リクエストさせて頂いたのですが。
管理人は結局行けなかったんですが、この夢で存分に浸れましたvvv
野花様、本当に有難う御座いました。