「観世音菩薩様、またこのような所でサボられて・・・。」
二郎神が蓮池の側のイスに座る観世音の元へやって来た。
彼の言葉に観世音の眉が寄ったが、紅いルージュの引かれた唇は楽しそうにニヤッと上がった。
「サボっちゃいねぇよ。看てんだよ。をな。」
「はぁ。・・・様も大変ですね。」
「そろそろ奴らが出会うだろうな。」
蓮池の中に、楽しそうに笑っているが映っていた。
偶然なんてないんだよ。
出逢いは必然。
決まってんだよ。
たとえ、どれだけ長い年月がかかったとしても
お前たちも、必ず廻り合うとな。
それが、お前の・・・お前を取り巻くヤツラの運命なんだ。
――― encounter ――― act.5
スッパ―――ンッ!!!!
「るせえ!!ちったぁ静かにしやがれ!!」
「ッてぇ・・・。三蔵。」
ハリセンで叩かれ、頭を抱えているのは悟空。
今日も順調に街に着き、宿を確保(一人一部屋)できて、各自荷物を置いてから三蔵の部屋に集まっていたのだ。
と言っても、街に着く途中に妖怪の襲撃があったのはいつもの事だが・・・。
相変わらずな奴らを叩きのめした後から、何か分からないがひたすら悩み続ける悟空。
そんな悟空に、三蔵が切れてハリセンが炸裂した。
「何を悩んでいるんですか。」
苦笑しながら八戒が助け船を出す。
「ん・・・。が。」
「へっ?僕?」
何かしたっけ?
思い返しても別に気になる事も無く、も頭を抱えた。
「それだけじゃ解んねぇだろ。ったく、このバカ猿!」
「んだと!ゴキブリ河童!」
「チビ猿!バカ猿!豆猿!」
「エロエロエロ河童!!」
「るせぇつってんだろおがっ!!!」
ガウン!
ガウン!
「「スミマセン」」
三蔵の一声で、とたんにおとなしくなる二人に、思わずが笑った。
その笑顔に『反則だろ!?』と思った四人は、それぞれあらぬ方向へ視線を飛ばした。
「で、僕が何かした?」
「ん・・・。なんつうか、俺前にと戦った事があるような・・・。」
「この前やっただろ?」
「おいおい。遂にボケたのか。」
悟浄の茶化しに、「煩い!」と突っ込みを入れて頭をワシワシと掻き乱す。
「あの時も思ったんだって。だから、それよりずっと前!!」
「僕居ないって。」
「やっぱりバカだね〜。小猿チャンは。」
「あははは。」
肩を竦める悟浄と、苦笑を落とす八戒。
呆れたように、もう何も言うなと鋭い紫暗の瞳で悟空を睨みつける三蔵。
それぞれの反応に、悟空はムッと眉を寄せた。
それに助け舟を出したのは、いつものように八戒だった。
「何故そう思うんです?」
「の剣の太刀筋がさぁ・・・。」
「誰かに似ているんですか?」
八戒の言葉に大きく頷く悟空。
反対に、首を傾げるのは。
「でも、僕の剣術って流だよ?」
「素振りの時は違うんだって。・・・戦ってる時の方。」
「え?意識した事なかったけど、同じじゃないのか。」
妖怪相手には、あれこれ考えている暇など無く。
身体が勝手に動くと言ってもいいくらいなんだけど。
ココに来るまで実践・・・生死をかけた・・・なんて無かったから気付かなかっただけなんだろうか。
「だけどよ、バカ猿相手に剣だなんて知れてんだろ?」
「妖怪さん御一行はさて置き、そうですねぇ。・・・・・・独角ジさんとか。」
「ああ!あの男気のある人か。」
「そうそう。俺の腹違いの兄貴でよ〜。」
「へぇ。悟浄のお兄さんだったんだ。」
「「「「おい!!!!」」」」
四人が四人とも、声を揃えて、しかも怖い顔でを見ていた。
それにキョトンとしながら、「何?」と首を傾げる。
「。独角ジさんに会った事あるんですね?」
「うん。ずっと前にね。空から落ちてきた李厘助けてさっ。」
「ッて事は、紅孩児とも会ったのか!?」
八戒に続き、今度は悟浄が恐る恐る聞いてくる。
どうしてこんな反応をするのか解らないは、笑顔で頷いた。
「紅にも会ったよ。あいつ、いいやつだよな。」
「「「「何処が!!!!」」」」
「へッ?」
またしても声を荒げる四人に、心底解らないと首を傾げる。
そんなに、一つ溜息を落とした八戒が事の次第を説明した。
三蔵の経文を狙い、妖怪たちを送り込んでいるのが紅孩児サンたちなんですよ。
それに、あの方は妖怪の王子様ですからね。
それを聞いて、今度はが頭を抱えた。
「そんなに悪い奴には見えなかったけどなぁ。樹から落ちる所助けてもらったし・・・・・・。」
「いつですか?」
「え?この前の野宿の時。ほら、八戒にコノ事話しただろ。あの時。」
そう言いながら、の視線は自分の腹部に注がれた。
それに気付いた八戒は、思い返すように記憶を手繰り寄せた。
確かに、あの日。
夜中に一人離れた。
心配で迎えに行った時には、樹の幹に身体を預けるようにして眠っていましたね。
しかも、結界つきで。
あの時は、が結界を張れたのか不思議に思っていましたが、そうですか。
紅孩児さんが・・・。
次に会った時には、お礼を言わないといけませんネ。
これ以上に近づいてもらっては困りますし。
顔に出ている笑顔を一段と濃くして、八戒はクスッと笑みを漏らした。
それに冷や汗を流すのは、悟空と悟浄。
当人に気付かれないように「八戒、絶対ぇ怒ってるよな。」と、目を見合わせた。
が、怒っていたのは八戒だけではなかった。
一番不機嫌を露わにした最高僧に気付いた二人は、思わず一歩後ずさった。
吸おうと持っていたタバコが、真ん中で無残にも折られていた。
鋭い紫暗の瞳が凶悪なまでに、光りを増す。
そんな三蔵なんて、めったに見られるものではない。
それに、好き好んで見たくもないのが実情で・・・。
二人が生唾を呑んだ次の瞬間、低い声がその心情を明らかにしていた。
「、お前は一人で行動するんじゃねぇ。」
「なんで?」
「誰彼構わずホイホイついて行ってるだろおが!
アイツが気付かなかったから良かったものの、テメェの龍珠も狙われてんだ。ちったぁ、意識しろ!!」
「あ、そっか。」
気の抜けた返事。
それもそのはず。
今の今まで忘れていたのだから。
そんなに、三蔵が呆れたようにガックリと肩を落とした。
「俺の傍から離れるんじゃねぇ。解ったな。」
「・・・三蔵がそう言うなら。解った。」
「ところで。まさかと思いますが、焔と会った事があるなんて言いませんよね?」
「焔?・・・ほむら。ほむら。・・・・・・ほむら?」
なんだか聞き覚えのあるような名前に、頭の奥がチクリと反応する。
それでも会った事は無いので、気のせいだと痛みを誤魔化した。
「あ〜〜〜!!!!」
突如上がった叫び声。
何事かと、皆が悟空に視線を集めた。
が、当の悟空は今まで唸って悩んでいた顔から、急に元気な笑顔を取り戻していて・・・。
金色の瞳を更に輝かせて、焔の名を呼んだ。
「え?」
「だから、焔なんだって。の太刀筋が似てるのがさ。」
「会った事も、まして戦った事も無いんですよね?」
「無い・・・・・よ?」
焔。
ほむら。
ホムラ。
頭の奥が、心の奥だけが、その名前に反応する。
でも、そんな人とは会った事が無い。
気のせいなのか?
それとも・・・・・・・・。
その答えが、すぐに解るなんて・・・・・・。
その時は思っても見なかった。
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後書き