―――崑婪の塔



玉座に座り、何処か遠くを見つめる金と蒼のオッドアイ。
一度静かに目を閉じ、次に光を映した時には、その双眼に強く揺るぎない意志が宿っていた。
玉座から立ち上がる焔。
それが合図だったように、柱の影から二人の男が付き従った。

「行くぞ。紫鴛、是音。」
「はい。」
「おう。・・・、にしても今回はえらく間が空いたな。」

是音の言葉に少し眉がよったが、何も言う事なく、羽織っているだけの着物を翻した。





500年経った今、再び巡り合う。










――― encounter ――― act.6










「なぁ、なぁ、なぁ!!三蔵〜!!!」

バンッと扉を勢い良く開けて、悟空が駆け込んできた。

「るせぇ。ちょっとは静かに出来ねぇのか。」
「出来ねぇ。そんな事より


スッパーン!!!


眉間に深い皺を寄せた三蔵の、華麗なるハリセン捌きが炸裂した。
さすがの悟空も、こればかりは頭を抱えてその場に蹲ってしまった。
涙目で見上げた黄金の瞳と、の蒼い瞳がかち合った。
一緒に買い出しに行ったはずの八戒の姿がない。
首を傾げたより先に、窓辺でタバコをふかしていた悟浄が声をかけた。

「バカ猿、八戒はどうしたんだよ。」
「後から来る。それより、三蔵。花火大会行ってもいいだろ?」
「却下。」
「なっ・・・。なんだよ!花火大会ぐらいいいじゃんか!」

ムキになる悟空を一瞥した三蔵は、おもむろにタバコを取出し火を点けた。
そんな三蔵にまとわりつく悟空。
が苦笑しながら見ていると、ちょうど八戒が荷物を抱えて帰ってきた。
両手に溢れんばかりの荷物に、は慌てて八戒からそれらを受け取った。

「すいません。」
「いいよ。それに僕、留守番だったし。これくらいしないと、ね?」

八戒に笑顔を向けてから、机の上に置いた荷物を仕分けしていく
そんなの笑顔に、八戒は思わず緩みそうになった口元を手で隠した。


本当に、その笑顔は反則ですよ。


に悟られないようにしながら、八戒も荷物からハイライトを取出し悟浄に渡した。

「サンキュ。ワリィね。」
「悪いと思うんなら、少しは吸う量減らしてくださいね。」
「・・・。ドリョクシマス。」

そう言いながらも、早速渡されたカートンの袋を破り、取り出したタバコをくわえる悟浄。


本当に努力する気があるんでしょうか。


溜め息混じりに肩を竦めた八戒は、悟浄の隣のイスに腰をおろした。

「貴方にしては珍しいですね。」

八戒の言葉に、紅い瞳が細まる。
いつもなら、もうナンパに出掛けるか、賭博場に出掛けているかの時間。
紫煙を吐き出しながら、視線だけをに向けた。

「気になりますか。」
「・・・っつうか、お前ら買い出しで、俺が居なかったらどうなるよ。」
「ですが、まがりなりにも“三蔵”ですよ?」

内容が内容なだけに、自然と話し声も小さくなる。
が、実際気にしなくても、同じ部屋の中は悟空と三蔵の声で騒がしい事このうえない。

「お前なら手ぇ出さないって言い切れるか?・・・俺は無理だな。」
「あはは。僕も自信ありません。」
「らしくねぇな、俺たち。」

確かに女相手ならまだしも、十八歳の男相手に何をドキドキしてるんだか・・・。
悟浄と八戒は、お互い顔を見合わせて苦笑した。
そんな時、悟空の歓声が上がった。
どうやら先程の一方的な悟空の願いが叶ったようだ。















―――それから二時間後















三蔵たちは、屋台の立ち並ぶ街道を歩いていた。
人混みの苦手な三蔵は苛立ちまぎれに。
悟空は立ち並ぶ屋台に目移りしながらも、三蔵の隣をちょこまかと歩き。
その半歩後ろを、八戒、悟浄が続いている。

「いいですね。よく似合いますよ。」
「あ、これ?」

八戒の言葉には自身の服を見た。
それは今日の買い出しの時に、八戒が見つけて買ってきてくれたものだった。
黒の長袖のタイトなシャツに、蒼のジーンズ。
その上から白の前留めのチャイナ服。
しっかりとロング丈で、腰もとから前後左右にスリットが入り、その生地が別れている。
自身もかなり気に入ったので、それを着てきた。



着て思った。

何故か

何処か・・・、懐かしいと。



「って、悟空!テメェ、何一人で食ってんだよ!!」
「ふぁにふぉ?」
「食べながら喋るんじゃねぇ!このバカ猿がっ!!」

悟浄に突っ込まれ、三蔵に叩かれながらも、
両手に持った焼そばや中華饅、お好み焼き、焼き鳥などの入ったパックは死守している。

「・・・。器用だな。」

苦笑するの前で、悟空の持っている食べ物を奪おうとしている悟浄。
それに足蹴をくらわせながら反撃する悟空。
後少しで河川敷という時、夜空に大輪の華が咲いた。
その瞬間、ドヤドヤと人波に押され河川敷の方へ追いやられた。

「・・・、キレイだな。」
「あぁ。悪かねぇな。」

不意に聞こえてきた三蔵の声。
どうやら人波に押されて、いつのまにか三蔵の隣を歩いていた。
そして、また咲き誇る華。
波に飲まれそうになった時、三蔵の舌打ちとともに、右手に感じた手の温もり。
三蔵の手が、しっかりとの手を握り締めていた。
不意の出来事に、煩く鳴る心臓。
「ありがとう」と礼を言って、手を離そうとするが、それを許さないように更に力がこめられた。
おとなしく三蔵に連れられて、河川敷の空いている場所に座った。
八戒たちも隣に座り、目の前に咲く大輪の華を見ながら、屋台のご飯をひろげた。

「おい、八戒。ビールねぇの?」
「缶ビールでかまわねぇ。」

悟浄に続き、三蔵もたたみかける。
呆れたように溜め息を吐く八戒に、が声をかけた。

「僕が買ってくるよ。」
「一人で行くんじゃねぇ。」
「そうですね。一緒に行きましょうか。」

八戒と一緒にそこから立ち上がり、ビール売りのおじさんの方へ歩きだした。
ドーン!と、また花火が上がった時、の目の前は暗転した。
鳩尾に走る痛みで誰かに殴られたのだと理解するも、そこからの意識は全く無くなった。





突然前を歩いていたの身体が崩れ落ち、その前にいる男の手に抱き留められた。

!!」

声を荒げてみるものの、黒髪をオールバックにした男の額に見えるチャクラに八戒の背に冷や汗が流れた。


―――神だ。


八戒の声に気付いた三蔵たちが、何かを察して駆け付けた。

「こいつは人質だ。お前達とて、街の奴らを巻き込みたくはないだろう。」
「うぜぇんだよ!」


ガウン!

ガウン!


花火の音と三蔵の銃声がかぶる。
が、昇霊銃は神には通じない。
ニヤッといやらしく口角をあげた神が、を肩に抱き上げたまま消えた。

「人質を還して欲しければ、街外れの廃墟の寺へ来い。」

先に消えた神と反対の方で声が上がる。
殺気をあらわに振り返った三蔵一行を、神は鼻で笑い、消えた。

「チッ。焔の手先か。行くぞ!」

龍珠の守り人として連れていかれたのか、三蔵たちの仲間だと思って連れていかれたのか。
気掛かりだが、人質と言った時点でまだ気付いてはいないだろう。
だが、一刻を争う事に代わりはない。
三蔵たちは走りだしたい衝動を堪え、人の流れに逆らいながら目的地に向かった。
花火大会に人目が集まっている為か、廃墟と化した寺だからか、人気のないそこに三蔵は溜め息を吐いた。



まさかあのような人気のある所で、が捕われるなど思ってもみなかった。
八戒もいつものポーカーフェイスを装っているが、その下に計り知れない黒いモノが渦巻いているのが見て取れる。

「・・・ここか。」
「三蔵!!」

悟空の指し示す方に視線を向けてみれば、柱に縛り付けられていると、その両脇に先程の神々がいた。

「よく来たな。玄奘三蔵、覚悟しろ。」
「フン。神が人質なんざ、姑息な手を使うようになったもんだな。」
を離してください。」

三蔵の隣に八戒が並ぶ。

「力尽くで取り戻してみろ。まぁ、叶わぬだろうがな。」

神の言葉が終わると、何処からともなく現われた妖怪の数ざっと三百匹。

「やってしまえ。」
「僕達をみくびるんじゃねぇよって感じですね。はぁっ!」

気功砲で向かってくる妖怪を一瞬で消し去る八戒と、昇霊銃で片っ端から妖怪を餌食にしている三蔵。

「・・・。怖ぇ〜っ。八戒と三蔵、怒ってるって。」
「さわらぬ神に何とかだろ?これ以上怒らせる前にやっちまえ、悟空!」
「おう!!」

如意棒を振り回し、妖怪達の中に突撃していく悟空。

「元気だねぇ。」

長い髪をかきあげながら、悟浄も錫杖を具現化して向かってくる妖怪を凪ぎ払った。
あっという間に妖怪を倒し終えた一行は、四色の瞳を神の方へ向けた。

「ではを還して頂きましょうか。」
「こざかしい。」

をさらった方ではない小柄な神が、へ剣を向けた。
まだ意識の戻っていないは項垂れたままだった。
息を呑む三蔵たちとは裏腹に、さも楽しそうに口元を歪める二人の神。

「そんなにコイツが大事か。安心しろ。後から貴様等もコイツのもとに送ってやる。」

「チッ。」


ガウン!

ガウン!

ガウン!

ガウン!

ガウン!


「きかんと言っただろう。」

そしてに向かって振り下ろされる剣。


「「「「!!!!」」」」


四人の叫び声が重なる。
次の瞬間、あがるはずの血飛沫もなく、乾いた音が響いた。

剣と剣

刀と刀のぶつかり合った音。

そして眩しい光がを包み込んだ。
二人の神もただ茫然とその光景を見ていた。
光が弱まるにつれ、肌を刺すような闘気が姿を現わす。
それは『氷雨』を手にしたから発せられていたものだった。

「私に剣を向けるとは、身の程知らずめが!」
「そ、そんな。・・・まさか。」
「龍珠の剣・・・。バカな!」
「覚悟は出来ているんだろうな。」

は青白い光を纏った『氷雨』を二人の神に向けた。
ゆっくりと一歩踏み出す
それから逃れようと後退する神々。

「お許し下さい、様。」
「ふん。もう遅い。」

迷いや躊躇いなど無く、一気に振り下ろされた『氷雨』は二人の神を切り裂いていた。










離れた場所から、その様子を見守っていた三蔵たち。
光の中から現われたに、四人が四人共息を呑む。

「マジかよ。こんな闘気、やばいだろ。」
「・・・なのか?」
「三蔵。にチャクラが・・・。」
「なんだと?!」

神か、神に最も近い者にしか与えられないチャクラがの額に現われていた。
そして、肌を刺すような闘気。
並の人間から出るようなモノではない。
そんなに、膝をついて許しを乞う神々。


様』だと?
あいつは一体何者なんだ?!


疑問ばかりが三蔵の脳裏を駆け巡る。
シュンっと空気が切れる音がして、我に返った時には『氷雨』を振り下ろしたが紫暗の瞳に映った。
それと同時に額のチャクラも消え、の身体がグラッと傾いた。

!」

舌打ちして駆け出した三蔵がに触れる前に、の身体を受けとめた者がいた。

「チッ。焔か。」

空間から現われたのは、そう、闘神焔だった。
その背後に紫鴛と是音が続く。



。生きていたのか。」



そして彼らも出会った。

これは すべて 運命。

偶然ではない

必然の出会いだから。





NEXT

後書き