これは一体何の嫌がらせだ?
おちおち寝る事すらできない。
――― inevitable ――― act.2
・・・何だか、とても温かいな。
枕も何だか人肌の温もりがあるし・・・。
ヒ・ト・ハ・ダ?!
寝起きの頭が一気に覚醒した。
確か以前も同じ事があったなぁ・・・。
あの時は三蔵の法衣を握り締めて寝ちゃってたんだよなぁ。
「・・・って、違う。そうじゃなくて・・・。誰!?」
恐る恐る蒼の瞳を開けると、そこには綺麗な金と蒼のオッドアイがを捕らえて微笑んでいた。
「おはよう、。」
「・・・焔・・・。」
二の句が繋げず、ただ唖然としてしまった。
確か昨日は言い合いをしていたので、疲れて先に部屋に戻ってシャワーを浴びて休んだ。
・・・部屋、鍵掛けたハズなんだけどなぁ、僕。
いろいろ考えていると、の身体に回されていた焔の腕に力が入り、ぐっと引き寄せられた。
そして、唇に触れる温かい感覚。
あまりに突然の事で抵抗するのさえ忘れた。
「よく眠れたか?」
「・・・だからって何でキスするかなぁ。」
「金禪にもされただろ?」
「だから、三蔵のは事故だろ。それに前世なんて知らないけど、僕、男なんだけど・・・。」
「お前が男でも、女でも、俺はかまわない。」
そう言いながら、の漆黒の髪を優しくすくい、また口付ける焔。
「神様って・・・どっちでもいいのか?」
「お前だけだ。」
「もし・・・僕が女だったら?」
「フッ。願ったり叶ったりだな。今すぐモノにする、身も心もな。」
優しく紡がれる言葉に脳が麻痺してしまいそうだ。
「男ならしないのか?」
恐る恐る聞いてみるが、焔の口元が不敵に弧を描く。
冷や汗が一筋背中を伝った。
「当たり前だと言いたいが、俺はかまわないと言ったろ。優しくしてやる。」
今すぐにでもと、身体を寄せてくる焔。
何とか押し留まらせようと、両手を焔の胸板にかけた。
それを難なく、しかも片手で拘束され、頭の上に縫い止められた。
ギシッとベットの足が軋む。
寝ていた体勢から、焔がの身体に跨った。
「大丈夫だ。優しくする。」
チャリンと焔の両手を繋いでいる枷が音を奏でる。
その音に一瞬眉を寄せた焔だったが、再び何事もなかったかのようにの頬に指を滑らせた。
・・・やばい。マジでやばいって・・・。
助けを求めようと口を開こうとしたが、時既に遅く、焔の唇で塞がれた。
先程の軽く触れるだけのキスとは違い、ゆっくりと唇を舌でなぞられ、
耐え切れずに開いた少しの隙間から押し入るように口内を犯される。
初めての激しい口付けに、の舌が逃げ惑う。
そんなの舌を、焔は器用に絡め取った。
互いの体液が混じりあい、飲みきれなかったものがの首筋にまで流れ落ちる。
「や・・・ぁ・・・。」
塞がれている唇の隙間から、の切ない声が漏れた。
もう苦しくて息ができない。
頭の中が溶けてしまいそうな錯覚に陥ってしまいそうだ。
身体の芯が熱い・・・。
ようやく焔が唇を離すと、名残惜しげに二人を繋いでいた銀の糸が切れた。
「、逢いたかった。」
切なそうな声がの耳元に落ちた。
焔の吐息が耳にかかり、それだけで背中がぞくりとする。
生理的な涙か、拒絶の涙か・・・。
自分自身でも解らないが、涙が蒼の瞳に溜まっていく。
視界がぼやける。
そんなの身体を、焔が自由な右手でなぞっていく。
鎖骨からゆっくり、ゆっくり下へ滑っていくその指の感覚。
甘い痺れが身体中を駆け巡る。
その誘惑に負けないように、は唇を噛み締めた。
焔自身、本気で抱こうなどとは思っていなかった。
昨夜一度、紫鴛と是音に引き摺られるように連れ帰られた。
が、ゆっくりと逢いたいと思い、深夜城を抜け出し、の部屋に現われた。
窓からの月明かりに照らされたのあどけない寝顔に、暫し見惚れた。
羽織っていた着物を脱ぎ、アンダーとジーンズ姿で、そっとのベットの中へ滑り込んだ。
起きてしまうかと思ったが、一度軽く声を上げ寝返りをうったのを自分の胸へ抱き寄せて、焔もそのまま眠りに就いた。
いつもの浅い眠りとは違い、深い眠りだった。
朝日が顔を覗かせた頃に目覚めて、ずっとの寝顔を見つめていた。
500年前と変わらない。
否、その性別と髪の長さは違っている。
以前は腰元まである、さらさらの漆黒の髪だった。
愛しく見つめる中、が目を覚ました。
おはようのキスだけのつもりが・・・。
の表情が、仕草が、声が、すべてが焔の理性を崩させる。
俺は一体何をしている?
自身に問い掛けたところで、崩れてしまった理性は戻るはずもなく。
の高めの切ない喘ぎ声が、焔を虜にしていく。
もっと啼いて欲しい。
その切ない声で俺の名を呼んでくれ。
お前の乱れる姿を、俺だけに見せてくれないか?
お前は、あの頃は金禪の恋人だった。
何もかも手に入れてしまおうとする金禪に・・・。
自分の道を歩いている金禪たちに羨ましさを感じた。
そして500年経った今も、は金禪と共にいる。
俺はお前の太陽にはなれないのか?
手に入れたい。
俺のモノにしたい。
壊したい。
俺に狂ってほしい。
求めてくれ。
お前が欲しい。
欲望のまま、滑り落ちる指がジーンズのボタンにかかった。
「やっ・・・ダメー!!!」
の涙声に、その手を止めた。
見つめた蒼の瞳からは涙が零れ落ちていた。
束縛していた手を解き放ち、の頬を濡らす涙を拭った。
「すまない。」
「・・・ぼ・・・くっ、僕。ふぅ・・・え・・・っ。」
バタン!!!
大きな音がした方を振り返る。
蹴破られたドアが、蝶番を一つ壊され、ただぶら下がっている。
その向こうには、物凄く不機嫌な三蔵が立っていた。
「っテメェ!!朝っぱらから何してやがる!!」
「ふっ。相変わらずだなぁ、金禪。」
「から離れやがれ!!」
「せっかく後一歩だというのに。不粋な邪魔が入ったもんだ。」
ニヤッと口角を上げた焔はの上から退き、布団の上に掛けておいた自身の着物を羽織った。
そんな一連の動作に苛立ち、三蔵が懐から銃を取り出した。
「これ以上そいつに手ぇ出すんじゃねぇよ!!!」
ガウン!
ガウン!
「効かないと言ったろ?それに、を諦めるつもりもない。」
「フン。だかなんだか知らねぇが、は俺のモンなんだよ。誰がテメェにくれてやるか!!」
「実力行使でもいいんだぞ。後一歩だったがな。」
「ッテメェ!!!」
朝も早いというのに、だんだんとヒートアップしていく言い合い。
涙で濡れた瞳で、争っている二人を見つめた。
「ちょっと、僕の人権って・・・。」
「「そんなものはない(ねぇ)!!」」
「・・・あっさりかよ。誰か止めてくれ。」
ぼそりと呟き、ベットの上に起こしていた身体をぎゅっと両手で抱え込んだ。
かなりの声の大きさと、銃声を聞きつけた八戒たちがようやく姿を現した。
の部屋の中にいる騒ぎの元となる人物に目を向ける。
「・・・昨夜も同じような言い争い、してませんでしたか?」
呆れながらも零した八戒の言葉に、悟浄と悟空が同意の頷きを返した。
溜息を吐きながら、焔の背後にいるに視線を向けると、明らかに泣いていて。
「三蔵!焔!いい加減にして下さい!」
「「煩い(せぇ)、黙ってろ!!」」
犬猿の仲。
敵同士のはずなのに、どうしてこうも声がそろうんでしょうね。
もう一つ溜息を落としてから、両手に気功を溜め込んでいく。
横で見ていた悟浄と悟空が、数歩後ろに下がったのを微かに感じ苦笑する。
怖いと思っているようですけど、本気でいかせてもらいますよ?!
を泣かせているんですからね。
溜め込んでいた気功を放とうとしたとき、窓から第三者が現れた。
放たれるはずの気功が、シュポンっと軽い音を残して消え失せた。
「焔!!!いい加減にしなさい!城に居ないと思って、捜しに来て見れば・・・。」
「し・・・・・・・紫鴛。」
「が泣いているじゃないですか。金蝉、貴方もですよ!これ以上、を泣かせるようなら・・・・・・解っていますね?」
鋭い視線が焔と三蔵を捕らえる。
「チッ。」
「あ・・・・・ああ。」
紫鴛を怒らせては不味いと悟った二人が争いをやめた。
それを見届けてから、紫鴛はの前に立った。
両手で自分を抱え込むようにして泣いているの頭にそっと手を載せた。
ぴくりと反応して、の顔が上がる。
「すいませんでした、。すぐに連れて帰ります。」
「・・・ん。」
「お騒がせしました。」
「おっと。やっぱりココに居たのか。懲りないねぇ〜、うちの大将は。」
紫鴛と同じく、窓から入ってきた是音がを見て眉を顰めた。
「泣かせたのか?帰ったらみっちり説教だな。」
「いいえ。説教ではなく、お仕置きですよ。さっ、行きますよ焔。」
「逃げんなよ、大将。」
がっしりと両腕を紫鴛と是音に捕まれて、焔は引き摺られるようにして去っていった。
それを見届けた後、改めて三蔵がの元へと歩み寄った。
「おい。」
「・・・・・・何?」
スッパーン!!!
昨日に引き続き、またも頭に落とされるハリセン。
「酷いっ!・・・三蔵。」
ぼろぼろと零れる涙を手で拭い、三蔵を睨みあげる。
「ふん。勝手に宜しくやってんじゃねぇよ!」
「そんな・・・。だって、起きたらいきなり隣に居たんだから・・・・・・。仕方ないだろ?」
「・・・・・・は?」
「だからっ!僕の隣で寝てたんだって。不可抗力だよ。」
鍵も掛けてたのに。
そんなの、僕どうする事も出来ないって。
「何された?」
不機嫌な低い声。
紫暗の瞳が鋭さを増す。
それでも、問われた内容に先刻の事を思い出した。
恥ずかしくて、の頬が朱に染まっていく。
それを面白くなく見つめている三蔵。
「そんなに良かったのか、奴が!?」
「ちが・・・。あ・・・・・ふぁ・・・・・・・・・・・・・。」
違うと発しようとした口を三蔵に塞がれた。
焔と同じ濃厚な口付け。
口内を犯され舌を絡め取られ、そのままベットに押し倒された。
「や・・・・・ん。」
「テメェは俺のモンなんだよ。このまま
「何勝手に話し進めてんだよ!!この似非坊主!!!」
不意に掛かった、聞き慣れた声。
こいつ等の存在を忘れていた。
チッと舌打ちをしての上から退き、振り返った。
部屋の入り口で立っている八戒の笑顔が、やたらと黒い。
「三蔵。貴方、焔と同じ事しないで下さい。」
「・・・は俺のモンだ。何をしようとテメェらには関係ぇない。」
「三蔵!貴方がその気なら、に近づけないようにしてもいいんですよ?」
「チッ」
これ以上、八戒を怒らせると後が怖い。
三蔵は何も言わずに部屋から出て行った。
自室に戻り、タバコを銜える。
まだ唇に残るの柔らかい感覚。
昨日の触れるだけのキスとは違い、濃厚に絡めあったもの。
止まらなかった。
自制が効かなかった。
もっと、と心が求める。
止まらない欲望。
男だとか、女だとか。
そんなものはどうだっていい。
ただ、がほしい。
あいつを俺のモノにしたい。
「くくっ。らしくねぇ・・・か。」
いや。
らしくなくても、あいつは俺のモンだ。
誰にも渡せやしねぇ。
ましてや、焔になんぞ盗られてたまるか。
立ち上がる紫煙を瞳に映しながら、三蔵は口元を歪めた。
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