パソコンを打つ手を止め、画面の結果に目を通す。
「これは、これは。楽しめそうだなぁ。」
暗い部屋に祢の笑い声が木霊する。
唯一の光源であるパソコンの画面には、三蔵一行とが映っていた。
画面上のを指でなぞりながら、牛魔王の腹心だった一匹の妖怪を呼び寄せた。
「ちょっと行ってきてくれない?」
「御意。」
「ああ、そうそう。くれぐれもウサギちゃんは殺さないようにね。」
「仰せのままに。」
妖怪が消えたのを確認して、祢はぬいぐるみを放り投げた。
「死んでもらっちゃ困るけど、まっ、死んだら死んだでそこまでのヤツだしね、ウサギちゃん。」
――― revival ――― act.1
乾いた風が吹いた。
砂混じりの風に目を細目ながら、八戒はアクセルを踏み込んだ。
辿り着いたのは小さいが、それでも街なわけで。
宿もあれば、料理店、雑貨屋もあるのだが・・・。
「なんつーかさ。活気がねぇっての?」
「そうですよね。」
メイン通りだが、人の姿もまばらで、皆表情が曇っている。
「これじゃあ、いい女ナンパできねーじゃんよ。」
「毎度毎度盛ってんじゃねぇ!このエロ河童!!」
「・・・んな事より、腹減った〜!!」
ぐーっと鳴る悟空のお腹の音に苦笑したは前方に見えている宿屋を指差した。
「とりあえず宿、行こうよ。」
「そうですね。悟空、もう少し我慢して下さいね。」
そしてこの街唯一の宿屋に部屋を取り、これまた唯一の料理店で少し早い夕食にありついた。
相変わらずの量を食べ終えた三蔵たちが、食後のコーヒーを飲んでいると、奥からこの料理店の店主が姿を現わした。
ヒョロっと痩せていて、顔には生気がなく、これが料理店の主人か?と疑いたくなるような、50代ぐらいの男性だった。
そんな店主が、怖ず怖ずと三蔵に近づいてきた。
「あの・・・。すみませんが、旅の方。お坊さまとお見受けしますが・・・。」
その言葉に三蔵の眉間に一気に皺が刻まれた。
面倒事はごめんだと言わんばかりに、八戒に視線を送る。
肩を竦めた八戒が店主に向き直った。
「どうかされたんですか?」
八戒の柔らかい笑みにホッとした店主が口を開いた。
「最近異常気象が続いてまして、雨が降らないのです。」
「それはまた・・・。」
「この村の東にある洞窟の中に、龍神様を祭ってある祠があるんですが。」
「何かが取り憑いているかもしれない、と言う事ですか?」
主人の話の先を読んだ八戒が続ける。
それに大きく頷いた主人は視線を八戒から三蔵に向けた。
「徳の高いお坊さまならお祓いして頂けるかと・・・。」
「フン。」
「まぁまぁ、三蔵。もしかしたら妖怪が係わっているかもしれませんし、異変の影響かもしれません。見るだけでも。」
「勝手にしろ。俺は知らん。」
見るからに不機嫌全開で取り出したタバコを銜え、ガタッとイスから立ち上がった。
そんな三蔵をが呼び止めた。
立ち上がる紫煙が空中で揺れる。
「僕も行ってきていいかな。」
ぴくりと眉がよる。
射るような紫暗の瞳に怯む事なく真っすぐ見つめかえすと、ふっとそれが和らいだ。
「必ず八戒達といろ。一人にはなるな。」
「ありがと。」
三蔵が立ち去った後、主人に洞窟までの地図を描いてもらってたちはそこへ向かっていた。
「とりあえず今日は様子見ということで。いいですね、悟浄、悟空。」
「おう。分かった!」
「勝手に突っ走ってるんじゃねぇぞ、この猿!!」
「猿っていうな!!!」
相変わらずの二人が、と八戒の前を歩いていく。
それに苦笑しながら、八戒が二人に声をかけた。
「二人とも、そこの大木のところを右に折れて下さい。その先に入り口があると思いますから。」
「「おう!!」」
森に入った頃から痛み出した頭が、どんどんと酷くなってくる。
ズキズキと痛む中で、何かが聞こえた。
「?どうかしましたか。」
「少し頭が痛くて。」
「帰りましょうか。」
「大丈夫、行くよ。それにホラ。」
が見つめる先で、洞窟の入り口から中に入ろうとしている悟空と悟浄。
それを確認した八戒は深く溜息を吐いた。
「まったく・・・人の話しを聞いているんでしょうか。」
「保父さんも大変だね。」
「ええ。不良園児たちですから。」
は八戒の言葉に、米神を押さえながらも苦笑いをした。
悟空たちに追いつくようにと、一歩一歩進んでいく。
が、その洞窟に近づくにつれて更に酷くなる頭痛。
頭が割れそうだ。
ハンマーか何かで殴られて、締め付けられているような感覚。
『・・・・・・・・・・・・・ク・・・・・・・・・ル・・・・・・・・・・・・・ナ・・・・・・・・・・』
「え?」
「どうしました?!顔が真っ青じゃないですか。」
「だ・・・・・・いじょ・・・・・・・・ぶ。」
あと数歩で洞窟の入り口という場所。
擦れ擦れの声で答えながら、傾く身体を支える事が出来なかった。
「!!」
八戒の叫び声と共に、誰かが何かを言っている声が聞こえたような気がした。
呼ばれたような、そんな気がした。
それが何か確かめたかったが、意思に反して遠退く意識を繋ぎ止めておくことが出来なかった。
が地面に倒れこむ前に、八戒が慌てて抱きとめた。
腕の中のは先程よりも顔色が真っ青で、息も乱れている。
先を行っていた悟空と悟浄も、叫び声に気付いて駆け戻ってきた。
そして倒れているを見て声を上げた。
「何があったんだ、八戒。」
「どうしたんだよ、なんで倒れてんだよ。」
「僕にも解りませんよ。それよりも早く戻りましょう。」
今は一刻も早くここから離れる方が懸命なのでしょうね。
の様子がおかしくなったのは、この森に入ってから。
何が原因かは、僕には解りませんが。
やはり主人の言っていた洞窟が気になりますね。
三人は無言のまま、宿へと急いで戻った。
宿に辿り着き、三蔵の部屋に迷うこと無く向かった。
ノックもそこそこに、返事さえ聞く暇も惜しく、悟浄によってドアが開けられる。
そして急ぎ中に入った八戒は、三蔵のベットに腕の中のを寝かせた。
「おい、八戒!何があった。話せ。」
室内に入った時から、否、自分の腕の中のを見た瞬間から微かに表情の変わった三蔵。
一気に三蔵の纏う気が冷たく、鋭くなった事に少なからず驚きを隠しながら、八戒は事の次第を説明した。
「問題の洞窟の入り口まで後数歩という頃に、急に倒れたんです。」
「・・・。」
「近づく前に、少し頭痛がするとは言ってましたが・・・。」
「悟空、悟浄。お前たちは何か見なかったのか。」
吸っていたタバコを灰皿に押し付けた三蔵が、悟空と悟浄に視線を投げた。
互いに顔を見合わせた後、二人は口を開いた。
「・・・別に。」
「ああ。特に気になるような事もなかったしなぁ。近くに妖怪も居なかったし・・・。」
「ええ。何かあっても困るので、入り口付近までしか行かなかったんですよ。」
「で、結果がコレか。」
苛立ち紛れに舌打ちした三蔵は、ベットで眠るを見つめた。
自分自身が同行しなかった為に、何の力が働いているのか判断しかねる現状。
こうなる事が解っていたなら、決して行かせたりなどしなかった。
それでもが譲らなかったのなら、自分も同行したのだが・・・。
何があった?
お前は何を感じたんだ?
「どうしましょうか。」
「どうもこうもねぇだろう。明日の朝一で問題の祠に行く。」
再び取り出したタバコを銜えながら、八戒の言葉に答える。
が係わっていなけりゃ、自ら面倒事に首など突っ込んだりはしねぇ。
だが、一度係わってしまった以上放って置くわけにもいかず・・・。
「解りました。はどうします?」
「このままでいい。何があるか解らねぇからな。」
「ンな事言っちゃって、三蔵サマが一番危険じゃねぇ?」
「殺すぞ!」
が眠っている為、銃を発砲する事も出来ず、ハリセンも小気味のいい音がするので
ジロッと紫暗の瞳だけで茶化してきた悟浄を射抜いた。
それでも効果は絶大で・・・。
肩を竦めた悟浄は部屋から出て行った。
八戒達もそれぞれの部屋へと戻っていった。
と二人きりになった部屋で、三蔵はベットに腰掛けた。
額に滲む汗をそっと拭ってやる。
「何があったんだ。」
テメェは、どれだけ俺を心配させれば気が済むんだ。
ったく、上等じゃねぇか。
俺を待たせるんじゃねぇよ。
早く戻って来い。
早く・・・・・・。
NEXT
後書き