闇の中 誰かが呼んでいる

誰?

僕を呼ぶのは誰?

助けを求める声

来てはいけないという声

苦しむ声が聞こえる

僕に何をしてほしいの?

何が出来るの?

何をしなければならないの?








――― revival ――― act.2










はひたすら歩き続けた。

右を見ても、左を見ても、ただ何もなく何も見えない空間。
何処へ行けばいいのかさえ解らない。
ただ闇が広がっている。
光さえ見えないそこは、まさに暗闇。
時間の感覚もない。
いったいどれだけの時間歩いたのか。
距離にしてどれくらいか。
闇雲に歩き、何処へ行くのか。

「誰かいるの?」

声を出してみるが、返事もない。
ため息を吐いて、また歩きだす。

夢か。

現実か。

現実ではない。
かといって、夢でもない気がする。
あぁ、そう言えば以前にもこんな事があったっけ。
あの時は血に・・・紅に染まりゆく現実に囚われていたんだ。
でも光が見えた。
それは太陽みたいな、温かい光。
三蔵の光だった。



ふと前方に、ぼんやりと蒼い光が見えた。
瞳に光が映しだされた瞬間、は無意識のうちに駆け出していた。
近づくにつれて大きくなる光の中に、迷う事なく飛び込んだ。
眩い光に目が慣れるにつれて、それが一色でない事に気付く。
細めていた瞳をゆっくりと開けると、を取り囲むように八色の輝く珠があった。

何故だろう。

どこか懐かしく感じる光の珠。
の両手が熱を帯びる。
言われたわけじゃない。
ただ感じたままに、意識を集中して両手で『氷雨』を構えた。
すると、『氷雨』にはめ込まれている龍珠が八色の珠に反応するかのように輝きを増した。
『氷雨』から蒼い光が立ち上がり、を包み込んだ。
何かが自分の身体に流れ込んでくる。

それは・・・思考。

誰かの声。

それは聞き覚えのある声だった。

あぁ、確か八戒たちと洞窟を見に行って、倒れる間際に聞こえてきた声だ。

「僕に何を伝えたいの?」

そう言った途端、八色の珠がそれぞれ輝きを発した。
光り輝く事で自らを主張するような、そんな感じだった。
幾つもの声が、の頭の中で一斉にこだまする。
一度に沢山の意識、思考が流れ込んできて、頭が割れそうになる。
あの時と同じ痛み。
違っているのは、今ははっきりと声が聞こえるという事。

「・・・お願いだから、一度に言わないで。」

痛みに顔を歪めながら絞りだした言葉で、瞬時に流れ込んできていた声が止んだ。
それにより、頭痛も嘘のように消えていく。

ホッとしたのも束の間。
そんなの前に紅い珠が舞い降りた。
その後方に他の珠が下がる。
どうやら紅い珠が、一行の代表みたいだ。
紅い光を増しながら、『氷雨』の蒼と混ざりあい、を包み込む。

声が聞こえた。

様、我らが王よ。よくお戻り下さいました。」
「・・・僕、だから。」
「いいえ。龍珠の守り人であり、王の魂を持つ貴方様が、間違いなく我らが王です。」

どうやら焔たちといい、この珠たちといい、外見は関係ないらしい。
肩を竦めて深く息を吐き出した。

でも王でもいいから・・・。それより何故僕を呼んだの?」
王、あの洞窟は危険です。お逃げ下さい。」

そう言った紅い珠の後ろにいた黄色い珠が光りを増した。

「王!我らをお助け下さい。」


あぁ、これか。

逃げろという声と、助けを求めていた声の謎が解けた。
でも事の核心はついていない。
根底にある原因が解らなければ、何をどうしていいか解らない。

「逃げる逃げないは、話を聞いてからでも遅くはないんだろ?話して。」

促すの意識深くに、流れ込んでくる思考。
めまぐるしい情報量に頭が着いていくのがやっとだ。
眩暈を耐えながらも、それに集中する。





今目の前にいる八色の珠は、八大竜王の化身。
難陀(ナンダ)、跋難陀(ダツナンダ)、娑伽羅(シャカラ)、和修吉(ワシュキツ)、徳叉迦(トクシャカ)、阿那婆達多(アナバダッタ)、摩那斯(マナシ)、優鉢羅(ウハツラ)というのが彼らの名前であり、総称でもある。
龍族の龍王の下に位置する八部衆といったところだそうだ。
その龍王が、今まで行方知れずだった王。
基、だと言う。

あまりの事実に現実味がわかないが、一先ず話の先を聞いた。

龍珠の守り人、即ち龍王が現われた事は彼らにも解った。
それ故、その気配がこの龍神の祠付近から発せられたと知った時、ここに集まった。
我らが王に忠誠を誓う為に。
だが、それは違った。
気付いた時には、既に遅く、何らかの形で封印されてしまったという。
封印を破ろうとしても、強大な妖気の為、弾き返されてしまう。
そんな時、本物の龍王が現われた。
それに気付いて呼び掛けたのだという。


「要は、その妖怪を倒して封印を解けばいいんだ。」
「ですが、危険です。危険と解っていて、そこに王を向かわす事は出来ません。」
「仮に僕が君たちの王だとしたら・・・。」

王に間違い御座いません!」

八色の珠が声を揃えた。
その事に苦笑いをしながら、再び言葉を続けた。

「なら余計に放ってなんかおけないよ。」


意志は堅い。
困っている者を放っておけるほど、冷たい心を持ってないから。
八大竜王の言う事が本当だとしても、嘘だとしても、それは変わらない。

「青龍の封印を解かれてからの方がよろしいかと・・・。」
「青龍?」
「はい。この洞窟から東へ行かれると、巨大な大木の下に祠が御座います。そこに王自らが封印された青龍が眠っています。」
「・・・龍王自らが封印した?何故?」
「それは我々にも・・・。」


自分が龍王だと信じられないが、それでなくても、彼らを助けられるのは僕しかいないと思った。


「必ず助けてあげるから。もう少し待ってて。」
王。くれぐれもお気を付けて。」
「まっ、なるようになるだろ。」

何もせずに、今ここで考えていても仕方のない事だ。
やってみなければ解らない。
それだけは事実だから。


八色の珠が一度眩しく輝いてから消えた。



一人取り残されたそこは、先刻歩いていた闇の空間。
そこに金色の光が見えた。

温かい光。

僕を包んで、導いてくれる。

迷いのない、真っすぐな光。


「さんぞ。・・・」
「遅せぇ!」

そんな三蔵の声が聞こえた。

ああ、待ってくれている。
早く戻ろう。
彼の元へ。
僕の帰るべき場所へ・・・。





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