パリンと乾いた音がして、空気が割れた。
今まで張り巡らせてあった結界が、ガラスの破片が飛び散るように崩れ落ち、本来の風景が戻ってきた。
――― revival ――― act.4
一度にたくさんの言葉が飛びかった。
心配そうな声、呆れたような声、安堵の声、そして不機嫌そうな声。
結界から出てきたの前に、六人が集まった。
だが三蔵だけは、木にもたれたまま動こうとはしなかった。
いの一番に駆け寄った悟空が、の腕にとまっている青龍を見つけて、金色の瞳を輝かせた。
「!すっげ〜!こいつが青龍?!」
興味津々といったふうに、悟空が青龍のタテガミを撫ぜようとした。
が、それを避けるように青龍はの腕から空へと舞い上がった。
残念そうにその姿を仰ぎ見る悟空。
「嫌われてやんの。」
「んだよ!そんなことねえもん。」
悟浄の茶化しに、ムッとして言い返す悟空。
「いや。青龍はにしか従わないだろう。昔もそうだったからな。」
焔が上空で旋回している青龍を見上げながらそう言った。
「ごめん、悟空。悪気はないと思うんだけど・・・僕でもかなり抵抗されたから。」
は肩を竦めながら、自分の切り裂かれた服に目を落とす。
肌の傷跡は消えているが、氷の刃で切り裂かれた服とその周囲に付いた血痕はそのまま残っていた。
おびただしい血痕が胸の辺りに集中している。
「!怪我をしたのか。俺が・・・」
「焔は黙っていて下さい。は私が治しますから。」
「何を勝手な事を仰ってるんですか。は僕が治しますので、お気遣いなく。」
に近づこうとしていた焔を跳ね除けた紫鴛。
そんな紫鴛の横から八戒がの前に立ちはだかるように出てきた。
紫鴛の細い視線と八戒の緑の鋭い瞳がバチバチと火花を散らす。
何か言いかけた悟空も悟浄も、その気迫に圧倒されて一歩後退した。
それに怯むこと無く前に出たのは是音だった。
見えない火花が飛び散る真ん中に割ってはいる。
さすがに第三者の介入で、紫鴛も八戒も互いに視線を逸らせざるをえなくなった。
「なんです、是音。用が無いなら退いていて下さい。」
「あ〜、そうですね。用が無いんですからそろそろ帰ったらどうですか?」
「言いますね。用があるからココにいるんですよ。貴方こそ、は気功でどうこう出来るほどの傷ではないはずですよ。」
「いいえ。仲間ですから、かまいません。」
「だから!てめぇら、よく見ろって。のどこから血が出てる?」
「どこって」 と、八戒。
「の胸元に」 と、紫鴛。
「決まってるのか?違うだろおが。なあ、。」
「え、あ、うん。」
「「違うんですか?」」
二人の気迫にたじろぎながらも、小さく頷いたが傷跡をちらりと見せた。
「・・・ない」
「ですね。・・・どういうことです、。」
「僕一回死んで、青龍が治してくれたから、傷跡もないはずだよ。」
「ほらみろ。だいたいな、これだけの量の血痕が付いてて元気に喋ってられるかって。考えりゃ解るだろおが。」
「貴方に言われたくないですね。私がの事をどれだけ想っているか。」
「そうだぞ、是音。俺だってが何より大切だし、愛している。」
紫鴛に排除されていた焔がいつの間にかの背後から現れ、を抱き締めていた。
それを見て一番目の色を変えたのは、木にもたれてタバコをふかしていた三蔵だった。
に抱きつく焔を責めるようにくってかかっている悟浄たちが、背後の殺気に冷や汗を流しながら振り返ったのと銃声がしたのは同時だった。
紅い髪が数本風に揺られて落ちた。
そしてシュッと空気が裂ける音がした。
を背後に庇い、立ちはだかる焔。
その前には魔神銃をかまえた是音と、三蔵の銃弾を落とした鞭を持った紫鴛が、三蔵一行に隠していた敵意を露にしてかまえていた。
ジャリっと土を踏みならし三蔵が一歩前に出る。
それに気おされ、無言で道をあける悟浄と悟空、そして八戒。
隔てる者がいなくなった事で、紫暗の瞳で鋭く焔を睨み付けた。
「のけ。」
「断る。」
「てめぇには関係ないことだ。とっととうせやがれ!」
「おおいに関係あると思うんだがな。」
一触即発の空気を破ってのけたのは、是音・・・ではなく、意外な人物だった。
艶っぽい声がその場を一瞬にして支配する。
「面白いことになってんじゃないか。俺も仲間にいれろよ。」
ニヤッと紅い口を綺麗に歪めた観世音菩薩が光の中から現れた。
「チッ。めんどくせぇ奴が現れやがった。」
手にしていた昇霊銃を忌々しげにしまい、代わりにタバコを銜えた。
「相変わらず口の減らない奴だなぁ。」
「菩薩ちゃん!」
身構えたり、敵意を剥き出しにする連中のなかで唯一喜びの声をあげたのはだった。
「。王になったんだな。」
「成り行き上ね。」
「くくっ。お前自身の力だよ。青龍にも言われただろ?」
確かに、認めたということはそういう事なのだろう。
「ま、これでお前も俺様と一緒だって事だ。」
「・・・ちょっと待て。どういう事だ。」
三蔵が眉を寄せながら、観世音菩薩をうかがい見る。
「三蔵。おそらくの額に現れたチャクラに関係あると思いますよ。」
「つうか、お前らさっき流しただろ?、死んだっつってたぞ。」
「俺もそう聞こえた!」
悟浄の言葉に元気よく反応する悟空。
三蔵を含め四色の瞳がを捕らえた。
「え。や、だから・・・。」
「まったくもって事実だぜ。じゃなきゃ神になんぞなれねえからな。」
「ていうより、あのヘソ曲がりの青龍を認めさせたんだ。ただじゃすまねえって。」
是音がそう続けたとき、上空から蒼い一陣の風が、鋭い刄で是音を襲った。
間一髪のところで魔神銃の銃身でそれをかわす。
「是音がけしかけるからですよ、まったく。」
「へいへい。今も昔も変わらねえな。」
紫鴛に諭されながら肩を竦め、上空の青龍を仰ぎみるが、その表情迄は解らなかった。
ガリガリと頭を掻く是音に、がすまなそうに謝罪を述べる。
「是音ごめん。でも菩薩ちゃん、どういう事?」
「あん。だからは俺様同様神なんだよ、龍族のな。」
「って言う事は・・・。何?」
「・・・ようは簡単に死なないってことだろ。ま、青龍が守るだろうがな。」
至極楽しそうに話す菩薩に疑念を抱く。
こういう時は何かを企んでいる事が多いと以前に学んでいたから。
嫌な予感というものは、当然当たるもので・・・。
の視線と菩薩の視線が絡まりあった。
「・・・やっぱりろくな事考えてないだろ?」
「おう。相変わらず楽しませてくれるからな、お前は。」
「だから!一体何考えてるんだって。」
教えてほしいか、とばかりに悪戯に笑みを浮かべる菩薩に、は渋々頷き返した。
それでも素直に教えてくれる可能性はないに等しい。
だが、今回は違った。
「天界でも目を付けられてるからな。気をつけろよ。」
「・・・どういうこと。僕って悪役?」
の言葉に噴出して笑い転げる菩薩に、少々ムッとしながらも続きの言葉を待った。
幾分か笑いが治まってから菩薩は目じりに笑い涙を溜めながら、の知りたかった答えを言った。
「そうじゃねぇよ。お前の力を利用したいって、腐った根性の奴らが多くてな。」
「ふ〜ん。」
「青龍もいるから大丈夫だとは思うが、十分に気をつけることだ。」
そして菩薩は来た時同様、光りに包まれて消えていった。
焔たちもに別れの言葉を残して、次元に消えていった。
「まっ、来る者拒まずってことで。今考えても仕方ないし・・・ね。」
「ええ、確かに。」
「お前って開き直りがはえーっつうか・・・。」
「俺・・・腹減った。」
一際盛大な音が辺りに響き渡る。
それが悟空のお腹の音だと、誰もが認識し、誰もが相変わらずな事に苦笑した。
「小猿ちゃんの頭には難しいってか。ガキだね、ガキ!」
「んだと!エロエロ河童!!!」
いつもの風景が、光景が戻ってきた。
それに自然と頬が緩む。
騒がしいが、それがどこか和むこの空間がは大好きだった。
絶えず言い合う悟空と悟浄。
それを困り果てたように眺める八戒。
そして、眉間に皺を湛えた三蔵がどこからともなくハリセンを取り出す。
乾いた音で全てにケリが付く。
涙目で不機嫌な紫暗の瞳を見上げるのは、悟空と悟浄。
そして・・・・・・。
「ったい!何で僕もなんだよ。」
「るせぇ。何を勝手に死んでんだよ。いつ俺が死ねと言った。」
「・・・自分を信じろって、三蔵が言ったんだよ。」
「だが、死んでもいいなんぞ言ったつもりはねぇがな。」
「まあまあ、二人とも。そのくらいで。も、これ以上無茶な事はしないで下さいね。」
笑顔全開の八戒に、さすがの三蔵もも何も言わずに頷くことしか出来なかった。
「、行くんですか?」
「うん、行くよ。・・・三蔵たちはどうする。」
八大竜王が助けを求めたのは自分自身。
三蔵が面倒事を嫌っていることは十分承知している。
だから否でも責めたりは出来ない。
これは自分に課せられた使命なのだから。
「もちろん行きますよ。も『三蔵一行』なんですから。」
「「おうよ!行ってボコル!!!」」
「フン。勝手にしやがれ。」
「・・・ありがとう、みんな。」
の肩に優雅に舞い降りた青龍ともに、三蔵一行は進み出した。
もう一度、問題の洞窟に向けて・・・・・・・。
なら、迷いなく進もう。
己の進むべき道を。
課せられた使命を全うする為に。
八大竜王の封印を解きに・・・。
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後書き