――― revival ――― act.5





三蔵一行は問題の洞窟へ向かった。
昨日の頭痛の事を心配していた八戒がに話し掛けた。

「今日は大丈夫ですか。」
「うん。問題ないよ。ありがとう。」

昨日とはうってかわって穏やかなくらいの気分。
それでも肌に纏わり付いてくる湿気を帯びた空気は、これから先に不吉な事が起こりそうな・・・そんな嫌な感じを帯びていた。
相変わらず先頭を行くのは悟空と悟浄。
嫌な空気を払い除けるかのように、バカ騒ぎをしながら一歩先に洞窟の中へと入っていった。
遅れを取る事なく、たちも中へと入る。
入り口から少し入ると、そこは暗闇。
シュボッという音がしたかと思うと、明かりがついた。
揺らめく炎の光は悟浄のライターから発せられていた。
ぐるっと辺りを見回すように、悟浄がライターを動かす。
洞窟独特のぬめった土壁と黴臭い匂い。
それらに顔を歪めながら、入ってきた方向とは違う奥へと続く道へ悟浄が歩を進めた。
何もいう事なく、それぞれが後に続く。
最後尾は三蔵が、悟浄同様ライターをつけて歩いていた。
だいたい100m程歩いたところで少し空間が広がった。
ライターをつけなくても、壁自体が薄く発光している。

「なんだか嫌な感じですね。」
「ったく、趣味悪ィんだよ。」
「そうだね。なんていうか、人工的?」

辺りを飛んでいた青龍が警戒心を剥き出して、一声いなないた。
そしての肩に舞い降り、白龍も八戒の肩へととまった。
悟浄は錫杖を、悟空は如意棒を具現化し、辺りの気を探る。

「くくくっ。よく来たな『龍珠の守り人』待っていたぞ。」

肌に絡み付く湿気を帯びた霧の向こうから、地を這うような声が聞こえてきた。
ゆっくりと辺りにたちこめる霧の間に揺れる影と凄まじい程の妖気。
それに躊躇なく三蔵が発砲した。
が、影は倒れるどころか、笑いながらその姿を現わした。
体全体が竜のような緑の鱗に覆われていて、そんな緑の隙間から覗くチョロチョロと動いている赤くて細い舌。
鋭い牙と同じく鋭い爪。
その顔はまるで蛟(みずち)のようだった。
赤くてギョロッとした眼がと青龍を映した。

「青龍か。お前は龍王にしかつかないはず。なら、貴様が龍王か。」
「何ごちゃごちゃ言ってんだよ、クソ野郎!」

悟浄の錫杖が宙に孤を描き、妖怪の胴体にあたった。
本来なら切り裂かれ、血飛沫が舞うのだが、鈍い音がした次の瞬間、錫杖が地面に落ちていた。

「げっ。マジかよ・・・。」
「どうした。これで終わりか。」

あまり表情は変わらないが、その口調からは蔑みながら楽しんでいるのが感じられた。

「なわけねぇじゃん!次は俺だ。いっけ〜っ!!!」

元気よく如意棒を伸ばし、土を蹴って飛び出した悟空だったが、妖怪に片手で易々と如意棒を取られ、逆に地に叩きつけられた。
げほっと咳こみながら、口の端から出た血を拭い立ち上がる。

「こざかしいやつらよな。だが、今なら見逃してやろう。」
「売られた喧嘩は高価買取だってえの。」

そう言って、悟浄が再び錫杖をかまえた。

「そうです。それに、条件があるんでしょう?おそらく・・・そうですね、を置いていけ、って具合でしょうか。」
「フン、こいつも一行の一員なんでな。」
「そういうこと。だけ置いてなんて行けるかって。」

三蔵との前に悟浄と八戒、そして悟空が立ちふさがる。

「龍王、青龍。貴様らには500年前の借りがある。」

その言葉で青龍が一つ首を傾げた。

「・・・貴様、蛟魔王(こうまおう)か。」
「そのとおりだ。」
「誰?」
「龍王は覚えてないか。フン、まあいい。この力、あの時とは違う事、身を持って実感してもらおう。」

蛟魔王が右手をゆっくりと宙にかざした。
ただならぬ妖気に、三蔵がの腕を掴み背後に庇った。
それは一瞬の出来事だった。
今まで発光していた壁の光が消え、同時に頭上に蛟魔王の妖気が飛んだ。
鋭い風が一行を襲う。

「チッ。」
「うおっ!」
「大丈夫ですか?」
「げげっ。」

上から三蔵、悟浄、八戒、悟空の声が暗闇に聞こえた。
三蔵は確かにここにいる。
の腕を掴んでいる手がそのままだから、疑う余地はない。
ただそれだけの事なのに安心できてしまう。
不意に光が溢れた。
先程までの薄い光ではなく、眩しいばかりの光が目を刺す。
明かりに慣れたところで、ゆっくりと目を開くとそこに蛟魔王の姿はなかった。
妖気も消えている。

「みんな、いる?何だったんだろ。」
「フン、知るか。」
こそ、大丈夫ですか?」
「え・・・、うん。」

八戒が心配してくれるのはいつもの事。
でも、何かが違う気がした。

「じゃ、行くとすっか。」
「おう!三蔵も行こうぜ!」

悟浄と悟空もいつの間にか立ち上がり、拳をボキボキとならしていた。
青龍が警戒の声をあげた。

「あっ!なぁ、青龍って喋れるんだな。すっげ〜よな!!」
「そうだけど・・・」

説明のつかない違和感にの言葉も曖昧になる。
三蔵が何を思ったのか、突然銃をかまえた。
照準は八戒だった。
それに臆することなく、八戒が困ったような笑みを向ける。

「八戒。貴様のジープは何処だ。」
「あぁ、そういえばそうですね。先程の暗闇でどこかに隠れて」


ガウン!


言葉の途中で三蔵が八戒に向けて銃を放った。

「危ないじゃありませんか。」
「三蔵、何してんだよ!」

悟空が飛び出してくる。

「煩ぇ。・・・黙ってろ。」
「三蔵、どうしちまったんだよ。」

悟浄もガリガリと頭を掻きながら三蔵の前に出た。

「るせぇつってんだろおが!!気やすく俺を呼ぶんじゃねえ!」


ガウン!

ガウン!


「っぶねえな。、止めてくれよ。」

器用に銃弾を避けながら、悟浄がに近づいてきた。
は警戒しながら間合いをとる。

「止めれない。それに・・・違うもん。式神だろ?」

あっけらかんとが言い放つ。
その瞬間、目の前の三人がニヤッと口角を上げた。

「どこで分かったんです?」

八戒の口調で式神が問う。

「気が違うんだ。貴方達は生きてない。」

が言い終わるのと、三蔵が昇霊銃を放ったのはほぼ同時だった。
弾が命中した三人の式神は、サラサラと砂が風に散っていくように消えていった。

「フン、姑息なまねなんぞするんじゃねえ!」
「出てこいよ!僕が目的なんだろ!?」

が『氷雨』を手にした。肩には青龍。
背後を守るように、背中合わせに三蔵が立ち、静かにお互い以外の気を探る。
だが、やはりこの空間には蛟魔王はいなかった。

「いない・・・。」
「なら、用はねえ。行くぞ。」

の左手をとって歩きだした三蔵。
驚きながらも、おとなしくそれに従い、も歩きだした。
広い背中に、小さく呟く。

「・・・三蔵。」
「さっきみたいになるワケにはいかねぇからな。」
「ん。・・・あの」

ピタリとの足が止まった。
先の三蔵が振り返り、を紫暗の瞳に映した。
俯き加減で三蔵の足元を見ている。

「あいつらは、死なねえよ。」



短い言葉。確信の言葉。
再び引っ張られる繋いだ手。
ああ、確かに。
三蔵と一緒にいたら、自分だけ惨めに殺られるなんて出来ないや。
たとえどれだけ傷ついても、己を信じて・・・三蔵を信じて進んでいこう。








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