ガウン!
ガウン!
キーン!!
空気が振動する。
銃声が狭い空間に響き渡り、それを払うように繰り出される剣の音が重なる。
三蔵が狙っているのは。
何故・・・そうなった?
――― revival ――― act.6
何度目かの体勢を立て直し、三蔵の方へ『氷雨』を構える。
頭の中では疑問しか浮かんでこない。
ついさっきまでは手を繋いで、否、引っ張られて歩いていた。
だから目の前にいる三蔵が偽物なわけはない。
なのに彼の紫暗の瞳からは殺意が伝わってくる。
「やつは操られている。」
「そんなバカな!」
それこそ何時、如何なる時に、如何なる手段で術をかけられたのかだ。
ふと、そこで辺りに漂っている甘い香りに気付いた。
「まさか・・・幻術を見せられてる?」
「よく分かったな。だが、それでどうする。」
「くそっ!どこだ!出てこい、蛟魔王!!」
周囲に目をはしらせても、ましてや気配を探ってもどこにも蛟魔王の姿を見つける事はできなかった。
「よそみとは、余裕があるか。」
「な・・・に!」
ガウン!
「つっ!あ―っ!!」
左肩に焼けるような激痛が走った。
熱い!
痛いなんてもんじゃない。
熱い・・・。
『氷雨』を地面にさし、右手で傷口に触れると、ねっとりと紅い血が手に絡まってきた。
三蔵に・・・撃たれた。
傷の具合から、弾は貫通しているはず・・・。
視界が歪む。
「これで終わりだ。お師匠様の仇!」
三蔵が弾を装填してに照準を定めた。
よろける足を踏張って再度右手に『氷雨』を構えた。
ダメだ!
こんなところで死ねない。
まして今三蔵に殺られたら・・・。
“お師匠様”もきっと誰かに殺されたのだろうから、また傷が広がってしまう。
それだけは避けないといけない。
「三蔵!三蔵!!」
「俺の名を気やすく呼ぶんじゃねえ!」
ガウン!
ガウン!
ガウン!
ガウン!
ガウン!
立て続けに引き金を弾かれ、は地を蹴って飛び出し、受け身をとりながら岩影に隠れた。
それでも擦ってしまった肌からは血が幾筋か染みだしていた。
頬を伝う生温い体液をぐいっと拭い、荒く乱れる息を整える。
「・・・このままじゃマズイな。」
「やつより先に蛟魔王を倒せ。」
「それはさ、その通りだよ。でも僕、そんなに長くもたないよ?」
左肩の傷口から流れ出る血が腕を伝い、指先から滴り落ちている。
もう左手の感覚も分からない。
右手だけで『氷雨』を振るうにしても、かなりの力がいるのに。
ギリッと奥歯を噛み締める。
「なんとか三蔵を正気に戻すか、気絶させるかしないと・・・。」
「。幻覚に惑わされるな!やつの昇霊銃は効かない。」
「これが幻覚?痛みも貧血もあるんだよ。」
現実でもいやだけど。
でもこの痛みからは逃れられない。
なら、どうする?
考えろ・・・。
三蔵を傷つけず、正気に戻す方法・・・。
「『氷雨』と俺の吐く息で衝撃波を作る。これなら」
「迷ってる暇はない。出来るんならやるよ!」
青龍を右肩にとまらせ、座っていた体を起こした。
岩越しでも伝わってくる殺気から、三蔵の位置を推測する。
「これで最期だ!」
「玄奘三蔵!気付くのは貴方の方だ!!」
バッと岩影から飛び出し、三蔵へむかって剣を振るった。
それと同時に青龍が嘶き、口から蒼い光を吐き出す。
『氷雨』の風圧と、その光が交ざりあい三蔵に襲い掛かる。
が、間一髪のところでかわされ、その衝撃波が洞窟の壁に亀裂を生み出した。
ピシ、ピシと走る亀裂から突然大量の水が吹き出した。
「チッ」
水から逃れようとしたが、避けた時の体勢が悪く、頭から水を浴びてしまった三蔵。
金糸の髪から水が滴り落ちている。
普段なら絵になるなぁ、なんて思ったりもするんだろうが、今はそんな時ではない。
もそんな三蔵から距離を置き、岩に寄りかかった。
「・・・青龍、外れたじゃん。どうしよ・・・。」
「すまない。」
「もう・・・。僕の方こそ、ごめん。」
いつの間にか足元にまで水が流れてきていた。
その水にのって、流されていく自分の血を見つめる。
どうしてコレが幻覚といえる?
もう左手は力が入らないし、意識も保っているのがやっとだ。
ずるずると崩れ落ちる体。
ああ・・・もうどうしようもない・・・・・・か。
壁が完全に崩れ去り、そこから溢れ出した水はかなりの量だった。
大方地下湖でもあったのだろう。
ドドドっという音と共に押し寄せてくる波。
幻覚でくたばるのと、水に溺れてくたばるのと、どっちが先だろう。
そんな事を考えていると、視界に突然金色が映る。
「ゲッ。そうだ。」
「くそ!油断するな、。」
を守るように三蔵との間に立ちはだかる青龍。
「チッ!」
三蔵の舌打ちと水音が重なった。
凄まじい勢いの水がに襲い掛かってくる。
流されると思った瞬間、腕に三蔵の手が絡まった。
その上から波が覆いかぶさってくる。
「・・・げ・・・・・・・ぼッ・・・・・・・。」
あまりに突然の事に驚いて、呆然としていたところだったので息を止めることを忘れた。
苦・・・し・・・・・・・ぃ。
歪み視界の中、三蔵の紫暗の瞳が映った。
が、その瞳には先程までの殺気は宿ってなかった。
ぐいっと三蔵の胸に抱きこまれ、そのまま唇が重なった。
三蔵の口からへと空気が送られる。
少しましになったところで唇を離し、水上に浮上した。
左肩の痛みはいつの間にかなくなっていた。
「っぷはっ!・・・・・・。」
「はぁ・・・・・・はぁ・・・。」
「!大丈夫か!!」
は上空を飛ぶ青龍になんとか笑みをむけ、近場の岩に這い上がった三蔵の手を借りて水中から地上へと逃れた。
「しぶといな、龍王。」
「チッ、クソがッ!!どこにいやがる!」
昇霊銃を片手に辺りを見回す三蔵。
だが、蛟魔王の姿はない。
「・・・三蔵。」
「何だ。」
「幻覚作用は・・・解けてる?」
「どういう・・・ことだ。」
戸惑う三蔵に、は先刻のことを話した。
その内容に驚愕する三蔵。
「なッ・・・。」
俺がこいつを撃ったっていうのか?
いくら幻覚を見せられてたといっても・・・。
自分の手で大切なこいつを殺そうと・・・していたのか。
「でも、傷はないから。気にしないで。」
強がって笑うだが、その顔色は冴えない。
クソッ。
こいつが傷を負っていないってのが、俺の昇霊銃のおかげだとしても・・・。
こいつを追い詰めていたことに、何ら変わりはねぇんだ。
ただでさえ偽りの姿で、困難に立ち向かっているんだ。
それを支えてやりさえ出来ねぇのか、俺は。
・・・胸糞悪ィ。
「ねぇ、三蔵。付き合ってくれるんだろ?行こ!」
「ああ。・・・待ってろ!次は必ずテメェを殺してやる!!!」
「ぐははは。笑止。人間風情に殺られると思ってか。」
不気味なほど響き渡る蛟魔王の笑い声に、顔を顰めながらも三蔵はの手をとった。
青龍も敵意露わに宙を飛んで、その声の主を探している。
どうやら目的地は近いようだ。
先程壊れた壁の向こうに、微かに祠らしきものがの目に映った。
「三蔵、あそこ。」
「ああ。行くぞ。」
「うん。」
「油断するな。」
青龍の言葉に頷き返し、は一歩踏み出した。
これから始まるのは生への歩みか、死への旅立ちか・・・。
荒れ狂う狂気が一瞬にして立ち上がる。
蛟魔王の狙いは―――
は八大竜王の封印を解けるのか―――
どちらにしても、無事ではすまないだろう。
それでも彼らは立ち向かう。
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後書き