「へぇ〜。なかなか興味深いデータだ。」

メガネの奥の瞳がニヤッと笑っている。
祢健一はパソコンのデータ画面を見ながら、イスに深々と座り足を机の上に投げ出した。
ギシッとイスが軋む。
よれて短くなったタバコを灰皿に押しつけると、消え入りそうな細い紫煙が立ち上がり、部屋に満ちた煙の一部になった。


蛟魔王に手渡した薬。


「過去に背負った罪過を利用した幻覚剤だったんだけど・・・ね。」

それにかかったのは、玄奘三蔵のみ。
否、龍珠の守人もかかってはいたみたいだが・・・。
そこに疑問がわく。
二十代になるかならないかの容姿で、過去に何もなかったハズはない。
それに玄奘三蔵の昇霊銃に撃たれたはずだ。
なのに一切傷がない。
それが龍珠の力か、あるいは神の力か。
画面に映っているの額にあるチャクラと青龍を交互に見つめる。

「くくっ。・・・退屈しないですみそうだ。ねぇ、ウサギちゃん。」







――― revival ――― act.7







「いって〜っ!!」
「あたた。ったく、このバカ猿!いつまで乗ってんだよ!」
「あ。悪ィ。」

素直に謝って、地面に横たわっている悟浄の上から下りた悟空。
その傍らでは八戒が辺りを見回している。
悟浄も所々痛む体をなんとか起こし、長い髪をかきあげた。

「・・・マジかよ。フリダシに戻るってか?」
「まさに、そのようですね。」
「なあ、三蔵とは?」

どこをどう見渡しても見つからない二人の姿。
八戒と悟浄はお互い顔を見合わせた。

「まぁ・・・それはもちろん」
「敵さんにご招待されたって事だろ。」

紅い髪を無造作に掻きながら、タバコをくわえた。

「さて、どうすっかな。」
「んなの決まってんじゃん!」
「あはは。ですね。では、行きますか。」

どこか和やかな雰囲気を漂わせながら、三人は再び洞窟の中へ足を踏み入れた。

























キーン!

これで何度目だろう。
迫ってくる蛟魔王に『氷雨』をむける。

あの後、崩れた壁から向こう側に足を踏み入れた。
溢れだした水は、そこにあった地下湖のものだった。
その中央に祠が位置してあり、そこへ行く為には湖に浮かぶ細い通路を通らなければならない。
が、そこに立ち塞がるのは蛟魔王。
しかも本来の姿に戻っているヤツは、先程よりも巨大になっていた。
地下湖の中に潜み、突然現われたかと思うとに襲い掛かってくる。
口から吐く息が、青龍のように鋭い刄となり飛んでくる。
切り付けようとするが、体も堅いことこのうえない。

「ぐっ。クソッ!」

次々に空気の刄がカマイタチのようにに襲い掛かる。

!!」
!」

「っつ。」

左腕を刄が擦ったのと、三蔵と青龍が叫んだのはほぼ同時だった。
鋭い痛みが襲う。
少し擦っただけだというのに、熱い。
焼け爛れるような感覚に、はその場に膝をついた。
それをめがけて蛟魔王が長い爪を振り下ろす。
突然体が浮いた。
三蔵がを抱き抱えるように地面を転がり、攻撃から庇ってくれた。

「サンキュ。」
「無茶はするな。」



軽く言ってくれるけど・・・。
三蔵の銃はなぜか蛟魔王には効かない。
おそらく厚い鱗が鎧の役目でもしているんだろう。
当たっても跳ね返ってくる。
ヤツに傷を負わせるには直接攻撃しかない。



「・・・こうなったら、さっきのでいくしかないか。」
「ああ。」
「行くよ、青龍!」

水上の蛟魔王に向かって『氷雨』を振るう。
青龍が嘶き、口から蒼い光を吐き出した。
が、先程と違うのは、交ざりあった衝撃波が龍の姿になり、蛟魔王へと襲い掛かっていく。
口を開け、蛟魔王を飲み込もうとするが、相手もさせじと水中へと逃げる。
高い水柱があがった。
そして、赤黒い液が水面に浮かんできた。

「・・・やった・・・かな。」
「油断するんじゃねぇぞ。」
「うん。」

水面下に意識を向けつつ、二人は祠への細い通路を歩き始めた。
通路を半分程進んだ頃だろうか。
突然水面がざわつき始めた。
三蔵と背中合わせになり、互いに水面下の気を探る。

「チッ、どっちだ!」

!!」

一瞬の間が空き、三蔵が向いている方の水中から蛟魔王が現われた。
カマイタチが二人を襲う。
瞬時に三蔵を後ろに引き、が前に出た。

「くそっ!」

『氷雨』でなんとかかわすものの、至近距離の為その衝撃で体に痛みが走る。
避けきれなかった幾つかの刄によって、服が裂かれ、無数の傷ができた。
頬にまとわりつく血を拭い、どうすることも出来ないもどかしさに唇を噛み締めた。


どうしたらいい・・・?


、アイツをなんとか止められないか。」
「ん〜・・・。難しいかも。」
。俺の力で氷漬けにならできるかもしれない。」
「それでいい。やれ!」
「・・・金蝉童子の命令はきかん。」


今の状況をわかってるのか、この二人?
どっちも“俺様”なんだから、まったく。


睨み合う青龍と三蔵。
肩を竦めながら、が口を開きかけた時、視界の端に何かが映った。


細い・・・シッポ?


それを認識した時には三蔵を突き飛ばしていた。

!何しやがるっ!」
「ぐっっ。ああっ・・・」
!今助ける!」

の叫び声と青龍のただならぬ声で体を起こし、のいた方を見ると、
水中から出ていた蛟魔王のシッポに締めあげられているの姿が目に入った。

!」

じりじりと締めあげられて、の顔が苦痛に歪む。
青龍が氷の刄で攻撃するが、蛟魔王はを盾にしているのでその威力も半減せざるをえなかった。

「オン マニハツ」
「狂ったか、金蝉童子。が巻き添えをくう!」

魔戒天浄をぶちかまそうとしていた三蔵に青龍が氷の刄を投げ付けた。
もともと当てるはずねなかったそれは、三蔵の気を逸らすのに充分だった。

「なにしやがる!」
「貴様の方こそ、を傷つけるつもりか!」

「くくくっ。仲間割れか。龍王には死んでもらう。」

「「何ッ!!!」」

そう言った蛟魔王は地下湖の中へと消えていった。
もちろん、をそのシッポで巻き付けたまま。
ゴポゴポと水面に上がってくる空気。
揺らめく紅い血液。


―ッ!!」

ッ!!」


異様に静かになった空間に三蔵と青龍の声が響き渡った。




NEXT
後書き