これが自分の力か?

それすらも、今の自分では解らない。

けれども、守らなければならない大切な人が――人たちが――いる。

助けなければならない大切な者たちもいる。

それで・・・

ただそれだけで・・・充分、だろ?






――― revival ――― act.9







ふらつく身体をなんとか立たせる。
そして、傷付いた己の身体を見た。
八戒がある程度治してくれたとはいえ、まだまだ無数の傷があり、焼けるような痛みも消えない。
お気に入りだった服も、今では見る影もないくらい切り裂かれ、紅く染まっていた。

「・・・せっかく気に入ってたのに。」
「そんなもん、また買ってやる。」
「本当!?約束だからね。」

小さく呟いた言葉に三蔵が答えてくれたことが嬉しくて、綺麗な笑みを浮かべて三蔵を見つめた。
紫暗の瞳が、どこか和らいでいた。



さあ、やろう。

僕が今しなければならない事を!



意識を集中させて、『氷雨』を具現化した。

「青龍!」

の前に舞い降りて跪く青龍に、静かに『氷雨』を向けた。

「我は龍王。その中に秘めし真の力を我に捧げよ。我に真の忠誠を。」
「御意。」

低く答えた青龍が『氷雨』に触れた。
瞬間、辺りに眩い光が溢れだした。
あまりの眩しさで、四人は何が起こっているのか解らないまま目を閉じた。

「悟空、悟浄。引いて!!」

光の中、の声がクリアに響く。
目を瞑りながら、二人は言われたとおり、蛟魔王を蹴りあげて宙を切り、地面に着地した。
次の瞬間、その光が一点に集中した。
の『氷雨』だ。それに埋め込められた龍珠が蒼い光を発する。
三蔵は遮る手の隙間から、それを見た。
青白い光が龍の姿になり蛟魔王を襲った。
先程と同じだが、その威力は桁違いだった。
龍に飲み込まれた蛟魔王の低く耳障りな断末魔がピシピシと洞窟内の壁を振動させる。
ようやく光がおさまり、四人は蛟魔王がいた場所に目を向けた。
そこには、悶え苦しんだ表情の蛟魔王が見事に氷ついていた。
が、さすがに妖魔。
氷の中で苦痛に歪みながらも、微かだが足掻き藻掻いていた。

「これで終わりだ!!」

まだ蒼く揺らめく光を纏った『氷雨』を手に、は宙を切り、蛟魔王に切り付けた。
パリンと乾いた音がして、氷とともにそれは跡形もなく崩れ散った。

「うわっ。すっげぇ!」

悟空の声が僅かに耳に届いた。
だが、は振り返ることなく湖の中央に位置する祠へ足を進めた。

「封じられし八珠。今ここに偽りの封印を、解。」

短い言霊にのせて、『氷雨』を祠に突き刺した。
祠が真ん中で二つに割れ、そこから飛び出した八色の光の珠。
それがの前へと並ぶと、それらに『氷雨』を向けた。

「我は龍王。我に真の忠誠を。」

の言霊に答えるように輝きを増した珠。
真剣な顔から、ふっと和らいだ表情に戻ったが『氷雨』を消した。
刹那、青龍が現われる。

「無事でよかった。みんな、自分達の役目を全うして。」

紅珠がまず宙へと上がった。
それを追うように残りの珠が続く。
そして、一段と輝いてから八大竜王は四方へ散り、空間に消えた。



優しく見守るのもとに、三蔵たちが歩み寄った。

「終わったか。」
「ん。ありがとう、みんな。」

振り返ったが、ふわっと笑みを向けて礼を言った。

「んなの、かまわねえって。」
「そうそ。俺たち、仲間っしょ?」
「そうですよ、。」





どこまで無理をすれば気が済むんだ?
そう思った。
八戒たちに礼を言って笑っているが、その笑顔が嘘だって事ぐれぇ、俺には解る。





話しだす三人を押し退けるように三蔵はへ近付いた。
蒼い瞳が俺を映す。
その姿があまりに痛々しく俺の目に映った。



どこか・・・懐かしくて・・・。
ずっと以前に逢ったことがあるような・・・そんな気がした。
そう。こんな蒼い瞳をしたヤツに。
心配ばかりかけさせて、無茶ばかりする・・・そんなバカなヤツに・・・。





の頭に三蔵の大きな手が置かれた。

「もう休め。」

ただそれだけ。
その一言だけが、頭の上から降ってきた。



低くて優しい声。
安心する。
どこか・・・懐かしい。



そう思ったとき、の意識は途切れた。
力がなくなり、崩れていくを抱き留める三蔵。
その表情は安堵の色が多く映し出されていた。

「行くぞ。」





どんなに傷ついても、守りたいモノがある。

どんなに傷ついても立ち上がろう。

そして歩き続けるんだ。

この道を・・・。

約束なんてしちゃいねぇ。

どこまで行けるかなんて解らねぇ。

それでも俺達は歩き続けるんだ。




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