そもそも、無理なのよ。
こんなの絶対に変だわ。
どうしてそこまで拘ってくるの?
こんな事だから、身体がおかしくなるのよ。
††††† lost it ††††† act.6
が転校してきて二週間が経った。
クラスメイトは、今ではもうに対して深く係わってはこなくなった。
ただ、高嶺の花と謳われるようになっていた。
そんな中でも、三蔵や焔達は何かと話しかけてくるのだけど、大方親に何か言われての事だろう。
そうじゃなきゃ、こうも毎日飽きずに付きまとってはこないはず。
退屈な授業を終えた昼休み。
はいつも屋上へ行く。
だが、今日は生憎と雨だった。
どうしようかと思案しながら、は窓から空を見上げた。
全く止みそうにない雨。
黒くよどんだ空。
・・・どうしよう。
考えては見るものの、校内で人が来なくて静かな所なんて知らない。
かと言って、教室に居るのもイヤだ。
煩い。
タダでさえ、毎日一時間程度しか寝ていないのに、この黄色い声は毒以外の何物でもない。
焔に会ってから、昼休みに何故かこの教室に出没するようになった。
三蔵とその友達も居るのに、そこに焔達も加わると周りのギャラリーも凄い事になる。
来るな!と言ったところで、大人しく聴くはずもなく。
毎日欠かさずに来る焔。
だからこそ、頭が痛い。
が転校してきて、その姿を毎日見るようになった。
けれども、やはり雰囲気は冷めていて。
三蔵自身も大概だとは思うが、それ以上に人との関係を拒む。
そんなの冷たい瞳が生気を帯びる事があるとしたら、それは昼休み。
ノートパソコンとケータイ片手に仕事をしている時だと気付いたのはつい最近。
俺には関係ねぇな、と思っていたが・・・。
やたらと嫌な奴らも、毎日顔を出すようになっていて頭が痛む。
くだらねぇ。
以前ならそう言ってもの方から何か言ってきたが、今はそれすらなくなた。
その変わりように、言い切れない苛立ちを覚えた。
「チッ。今日は雨か。」
そういや、も屋上には行けねぇな。
チラッと視線を彼女に向けると、案の定窓から外を見て溜息を吐いていた。
片方の眉だけを器用に上げてに声をかけた。
「おい。たまには休んだらどうだ。」
窓の外を向いていたが、三蔵の言葉に振り返った。
蒼い瞳が一段と冷たく光る。
「・・・関係ない。」
「ああ。俺には全く関係ねぇ。それでも気になるんだよ、テメェの事が!」
日を追うごとに、目の下の隈が酷くなってきている。
大方家でも寝ていないんだろう。
人一倍負けん気の強さと、何事にも一生懸命な所は昔と変わっていない。
が・・・・・・。
「だったら言わないで!」
「言いたくねぇが、言わねぇと休まんだろうがっ!!!」
「休めないって言ってるでしょ!三蔵には解らないのよ。」
「ああ。そんなもん知るか。だがな、テメェの身体見てる方が辛いんだよ!」
「見なきゃいいでしょ!!!」
「出来ねぇから言ってるんだろおが。このバカ女っ!!」
「何ですって!?ハーバード大学卒業した私を捕まえて、バカとは何よ!バカとは!!」
昼休み。
いつもならワイワイと騒がしい教室が、今日は怒鳴り声で溢れていた。
そして、それを見守るのはクラスメイトと八戒達、そして焔一行だった。
「・・・おい。今何か凄い事言わなかったか、あの姫さん。」
是音が眉を顰めた。
それに同意するのは焔。
「ああ。俺も初耳だな。」
「本当なんでしょうね。」
紫鴛も細い瞳を更に細めて、まだ言い争っている二人を見つめた。
「おい、八戒。ハーバードってあれだろ?」
「ええ。さんはもう大学卒業しているという事なんですね。」
「なぁ、八戒。俺・・・・腹減った〜〜っ。」
その声と共に、盛大なお腹の音が鳴り響く。
それに苦笑しながら、八戒は空いている机を寄せてきて、そこに重箱を広げた。
「雨ですし、暫く終わりそうにありませんから。先、食べてましょうか。」
「やり〜!!」
早速元気を取り戻した悟空が飛びついた。
焔達も互いに顔を見合わせ、「今日のところは引いておく。」と言い残し、教室を後にした。
それでも、まだ言い合いは終わらない。
「自分の体調すら考えられねぇ奴にバカと言って何が悪い!?」
「バカにバカって言われる筋合いなんて無い!」
「バ・・・っテメェ!いい根性してんじゃねぇか!」
「当たり前よ。伊達にコンツェルンの社長してるワケじゃないんだから!」
次から次に飛び出てくる爆弾発言に、八戒と悟浄は苦笑する。
「いや〜。にしても、あの三蔵にバカって言えるのって・・・・・・。」
「命知らずというか、なんと言うか。さすが、さんってところですね。」
そんな二人の目の前を、忙しそうに箸が行きかう。
悟空がただ一人、黙々と食べ続けているのだ。
「・・・お前ね、食べる事しかねぇワケ?この脳味噌胃袋猿!」
「んだと!エロ河童!!」
「言ったな〜!チビ猿!!」
「赤ゴキの触覚頭!!」
「「うるさいっ!!!!」」
「「スイマセンデシタ。」」
いつものように言い合いになっていた二人を止めたのは、これまた機嫌の悪い三蔵とだった。
三蔵だけならまだしも、それにも加わっている事で悟浄と悟空はあえなく撃沈した。
それに苦笑するのは八戒。
のんびりとご飯を食べながら、「いや〜。息ピッタリですね。」なんて言ってるのだから性質が悪い。
「いい加減諦めなさいよ!」
「るせぇ。諦めるのはお前の方だ!」
〜♪
その言い争いを止めるかのように鳴り出したのは、もちろんのケータイだった。
キッと三蔵を睨め付けたまま、通話ボタンを押す。
次の瞬間、流暢な英語に教室内が水を打ったように静まり返った。
それでも、と三蔵の水面下での火花は飛び散る事を止めない。
長年の付き合いのルーですら、電話口から聞こえるの声に何かあったのだと察したのだろう。
その事を聞いてきたが、何でもないと言い切った。
そして、「仕事の内容のメールを送れ」とだけ言って直ぐにケータイを切った。
「これから仕事だから、帰るわ。」
「逃げるのか。」
「逃げてないわよ。」
「俺から逃げようとしてるのはテメェだ、。」
「煩い、煩い、煩い!!勝手に私の心の中にまで入って来ないで!!」
こんなに大声を出したのは、一体何年ぶり?
言い合いしたのだって・・・。
だから嫌だったんだ。
自分が壊れてしまいそうで。
必死に勉強して、バカにされない程の努力をして“自分”を演じ続けていたのに。
壊れちゃうじゃないのよ!
土足で私の心の中を掻き乱さないで。
「お願いだから、一人にさせてよ。」
バンッ!!と、机を叩いて立ち上がった。
紫暗の瞳を怯む事なく見据えようとしたが、グラッと身体がバランスを崩す。
何が起きたか、全く理解出来なかった。
まるでスローモーションのように視界が歪んでいく。
薄れていく意識を現実に繋ぎ止めたのは、左腕に感じる三蔵の手だった。
痛みに顔を歪めながら、焦点の合わない瞳で三蔵を見つめた。
「だから休めと言ったんだ。」
「・・・はな・・・て。」
「おとなしくしてろ。」
低く響く声が、脳内に侵食していく。
そして、の意識は完全に沈んだ。
深い深い闇。
光の見えない闇。
頼るものは己自身。
信じるものは己自身。
甘えるな。
弱気になるな。
そう言い聞かせて進んできた。
たった一人の孤独。
護り続けた己の心。
だから、壊さないで。
静かにさせて。
私に光りはいらない・・・・・・。
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後書き