春麗らかな午後。
窓からは風に乗って桜の花弁が数枚舞い込んできた。



は食べ終えたお弁当箱をしまい、友人の話に耳を傾けた。
受験生になったのにもかかわらず、話題は今最も人気のあるモデルの話だった。
の机の上に広げられた二冊の雑誌。
その表紙を占めるのは金糸で紫暗の瞳の美丈夫、玄奘三蔵23才。
鋭く射抜くような視線が女子の間でも大人気で・・・。
その彼の隣に位置する女性。黒曜石の腰元まである髪、蒼の瞳。
その纏う優しげな雰囲気が男子にも女子にも好まれている 年齢不詳。
トップモデルの玄奘三蔵はかなりの独尊ぶりで有名だ。
そんな彼の隣に並ぶ女性モデルは、今のところ一人しかいない。



さんって、綺麗だよな。」
「だよなぁ。やっぱ、玄奘が彼氏とか?」
「どうしたらこんな美人な男になれるんだ?」
「・・・・・。お前ら、受験生のセリフかよ。」

肩をすくめ友人たちを見るだったが、廊下から聞こえてくる女生徒の黄色い声に何事かと教室の入り口を見た。


「失礼しますね。」
「は・・・・・・、八兄っ!!!」

何でこんな所にいるんだよってか、来るんだよ!と、頭をかかえ机に突っ伏した
そんなこととは知らない八戒は、近くの生徒に声をかけていた。

います?」

八戒の言葉にクラス中の生徒がの方を見た。

「ああ、そこですか。すいませんね。」

にこやかにお礼を言って、教室内に入りの元へ歩み寄る。
机に突っ伏すにクスッと笑みを漏らして、その頭に手を置いた。

「・・・・。僕、忘れ物なんて無かったと思うけど?」
「違いますよ。」
「じゃあ、何?」
「ちょっと唯我独尊俺様何様な方からのご指名って事で。」

それは、言い方を変えれば「三蔵が呼んでるから直ぐに来い。」と、そういう事で。

「でも授業。」
「ええ。大丈夫ですよ。担任の先生には言ってありますから。」

にっこりと人差し指をたてて微笑む八兄。
この笑顔には逆らえない。
がっくり肩を落として先を行く八戒の後に続いた。




















スタジオ内では、三蔵がその綺麗な指にタバコを挟み、カメラマンの悟浄と話しをしていた。
八戒とが入ってきた事に気付くと、チラッと視線だけを向けた。

「遅ぇ。」
「なっ!!こっちは学校だったんだから仕方ないじゃないか。」
「フン、知るか。」

組んでいた足を組み替え、紫煙を吐き出す。
そんな三蔵をキッと睨み付けながら、抗議の言葉を吐き出した。

「だいたい今日撮影だなんて言ってなかったじゃないか。」
「当たり前だ。ついさっき俺が決めたんだからな。」

当然のごとく言い放つ三蔵に、は言い返す言葉をなくした。
いつもの事と言えば、いつものこと。
三蔵の俺様ぶりは今に始まった事ではないのだから。
溜息をつきながら、八兄に促されて控え室に向かった。



二人が立ち去った後を悟浄が見つめる。

「にしてもよぉ。あれだな。」
「何だ。」
「いや〜、が女ならゴジョさんほっとかねぇンだけど?」
「フン、くだらん。」
「・・・、女に興味がねぇなんて病気だぜ、病気!」
「ほぅ、死にてぇらしいな。」

ガチャっと何処からか出した銃口を悟浄にむける。

確かに女には興味がわかねぇ。
自分の容姿と、トップモデルという肩書きに言い寄ってくる女共は腐るほどいる。
が、そいつらの媚びた目に嫌気がさしていた。
だがモデルの仕事をしていると、やはりそこに「女性とのツーショットで」との注文も入ってくる訳で・・・。
頭を悩ませていた所に、マネージャーの八戒が弟のを連れてきたのだ。
黒曜石のサラサラで長めの髪をセンターで分け、サイドはシャギーをいれている。
瞳も蒼色でかなり神秘的だった。
ただ問題なのは、まだ学生という事と男だという事。
それを隠す為に腰までのウィッグをつけ、胸もつけモノでごまかしている。
それに気付く者は、世間に彼らを除けば誰一人としていない。


トップモデル玄奘三蔵の隣に立つ女性、ということでの人気はかなり上がった。
他のモデル誌もイロイロとに仕事を振ってくるが、すべて八戒が断っている。
彼女は玄奘三蔵としか仕事はしない、と。
それでいらぬ噂がチラホラ流れてくるが、俺はそれでかまわねぇ。
になって、自分の隣に立っても決して媚びた目などしないし、しっかりと自分を持っている。
さすがは八戒の弟と言ったところだろう。
だから、コイツと一緒の仕事は好きだ。
安心して隣を任せられる。








今日の撮影は夏号の雑誌のトップと、内掲載分合わせて15点だった。
シックなスーツから、カジュアルな服装まで揃っている。
先にピンの撮影を終えていた三蔵はイスに座って、これまたいつもの様にタバコをふかしていた。

「おっ、来た来た・・・・って、マジかよ。」

あの悟浄が言葉を無くすなんぞ、めったにねぇなと・・・否に視線を移すと・・・・・。
薄いパステルピンクのワンピースを着て、上からレースのショールを羽織っている彼女が紫暗の瞳に写った。
驚いた事にそれは、ワンピースと言うよりはむしろキャミソールに近いそれで、胸元もかなり開いている。
が、そこから覗く胸元にはしっかりと谷間があり、さすがの三蔵も喉を鳴らした。

「フン、服一つで変わるもんだな。」
「もうっ!!僕だって恥ずかしいんだからね。ほら悟浄、さっさとして!!!」
「お・・・・・おう。」

のピンの撮影を三蔵は只黙って見つめていた。
ただ一つ気になっていたのは・・・・・。

「じゃ、次で最後な。着替えよろしく♪」
「・・・次、何?」

楽しそうにニヤッと口角を上げる悟浄には危険を感じ、三蔵を見た。
蒼の瞳と紫暗の瞳が絡まるが、先に逸らしたのは三蔵だった。
その事が余計にを不安にさせる。

「何!!何よ・・・。」
「着替えに行ったら解るって。なっ!?ほら、とっとと行く!」
「何か知らないけど、変な事企んでるんだったら僕怒るよ?」
「企むっつうか・・・・。ま、仕事だ。」

納得したのか、しないのか。まだ疑いの目で悟浄を見ながらは控え室へ戻っていった。
そして、数分後に現れたは、それはそれは涙目で。
ピンクのルージュのひかれた唇がとても魅力的だった。
「男じゃなけりゃ口説いてるかもな。」と思う悟浄。
「・・・コイツが女なら、俺のモンにしてぇ。」と思う三蔵。
そんな彼らの思いが渦巻く中、撮影は何とか終了した。























「八兄!酷い!!!」
「いいじゃありませんか。これも仕事の内ですよ。」
「そうだけど・・・。でも絶対あの二人誤解してるって!!」
「そうですか?僕は好きですけどね、ビキニ。」

リビングで珈琲を飲みながらサラリと言い切る兄・八戒に、はそれ以上に怒る気が失せた。
笑顔が、笑顔である。
こういう時は、何を言っても勝ち目は無いことを知っている。

「・・・でも、女装癖があるって思ってるって!」
「それでいいんですって。」
「八兄?」
「だって、そうでしょ?こんなに美人なを彼らに渡せる訳無いじゃないですか。」
「・・・・・。も・・・、いい。僕、勉強するから。」



が部屋へ戻った後、八戒は一人クスッと笑みを漏らした。
三蔵の今の地位を確かにするためとはいえ、を人前に出したのだが・・・。
女に見境の無い悟浄、女性嫌いの三蔵、そんな二人を納得させる為には自分の妹のしかいなかった。
悟浄との再会で八戒は妹の事を弟と偽っていたし、自身も男としての生活を送っている。
だから「女性モデル」と言うのは事実なのだが、三蔵たちにとっては「男性モデル」としてとおっている。
今のところ問題は無い。
可愛い妹がどこぞの変な男に引っ掛らないように。
それが八戒の心配事で・・・。

が男装している間は心配要りませんね。」

八戒の呟きがリビングに落ちた。









NEXT

・・・。これも男装ヒロイン。
まあ、訳あって男装してますがきっと八戒のシスコンのせいではないでしょうか?
管理人自身もわかりません(苦笑)

次は三蔵様が出張ってます。
お待ち下さい。