一学期の期末テストも無事に終え、

後はただやって来る夏休みを待っていればいいだけの今日この頃。

じゃないよ!!!

受験だよ!!!

進路決めないといけないんだよなぁ・・・・・・。

一枚のプリントを見ながら、は頭を抱えた。
大学には行きたい。
でも、最近モデルの方の仕事も忙しくなってきている。
八兄がそれでも減らしてくれてはいるものの、

三蔵のせいだ!!

と叫んでもいいくらいの仕事量で。
学生なんだか、モデルなんだか分からなくなってきている。
最近は、毎日吐くのが日課になっている溜息を吐き出した。






今日は、朝から八兄の様子が変だった。
そう、珍しく怒っていたのだ。

いつも、温厚で笑顔を絶やさない兄が・・・・、静かに怒りを露にしていたのには、まいった。
笑顔が・・・・・・、笑顔じゃない。
笑ってるけど、笑ってない。
これほど怖い兄など、そう見れるものでもない。
それでも、家に居るのが耐えられなくてはいつもより早く登校した。



「なあ、なあ、!!」
「っはよ。何?」

仲良し4人組が―――ってか、こいつら朝も一緒だったのかよ―――の元へ一冊の雑誌を持って駆け寄ってきた。

「コレ、見ろよ!」

バーン!!とばかりに机の上に開かれたスクープ誌に、見覚えある人物が写っていて
あろうことか、デカデカと


『恋人発覚!!!』


などというタイトルまで付いている。

「・・・マジかよ。」

くいいるように本誌の記事を読んだ。
どうやら三蔵の住んでいるマンションから出て来た所を撮られたようで・・・。
いつものように我が物顔で行く三蔵の数歩後ろを、少し俯きながら歩いているのは女優の姫宮桜だった。



ああ、もしかして八兄が怒ってた原因はコレか。



瞬時に納得した。

でも、あの日以降別に何も無かった訳で・・・・。
『俺のモノ』発言をした三蔵が、しかも女性嫌いか?とも言われている三蔵が、こんな事をするハズないと分かっていても。
痛む心は、やはり三蔵の事が好きだから・・・・・・だろう。

でも、どうするんだろう?

この記事と、写真によると、前日の夜にマンションに入って行く所も撮られている。
で、出てきたのが次の日の朝。

「やっぱり、できてんのかな?」
「だったら、は?」
「いや、案外囮だったり・・・。」
「・・・だから。好き放題言わない!!!これが真実か分からないじゃないか。」


思いたくない。
確かに自分は三蔵よりもまだまだガキで、・・・しかも学生。
対して、相手は同じ年の美人の女優。



ねえ、三蔵。
教えてよ。
僕の事、どう思ってるの?
























手にしたスクープ誌を乱暴に丸め、ゴミ箱へ放り込んだ。
タバコをくわえ、火をつける。
一息吸い込んで、勢いよく吐き出した。

「・・・ッ、クソがっ!!」
「で、本当のところ、何も無かったんですか?」
「当たり前だ。」

冷たい笑顔をしているマネージャーの八戒に、事の次第を吐き出した。

俺が仕事を終えて帰ってきたところを、追いかける様に来た女。
次の日の朝、仕事に出る時に不意に何処からともなく現れたのも、前夜と同じ女。
少し気にはなったが、声をかけてくる節も無くだだ数メートル歩いて、
直ぐ横道へとそれて行ったのでそれ以上気にも留めなかった。
その見返りがコレだ。

苛立ちが積もっていく。

「これだから女は嫌いだ。」
「そうですか。なら、謀られた事になりますね。」
「チッ、忌々しいがそういう事だ。話題性だろうが。」
「十中八九そうでしょうね。彼女、この夏ドラマの主役をはるんですよね。」

やけに笑顔が黒いものになっているのは気のせいではないだろう。

フン、俺を怒らせるより怖い奴を怒らせちまったな。

三蔵も、自然と口角が上がる。

「売られた喧嘩は買取らないといけませんね。」
「フン、倍返ししてやれ。」
「ええ。もちろん、そのつもりです。」

眼鏡の奥の翡翠の瞳の鋭さが増す。
先程よりかは幾分柔らかくなった笑顔ではあるが、コイツだけは敵に回したくねぇと本能が告げる。

「そう言えば・・・。」
「何だ。」
にもちゃんと言ってあげてくださいよ?泣かせたら・・・・・・。」
「チッ、分かってるよ。」
「ああ、三蔵。の事、本気ですよね?」
「フン、今更だな。俺はアイツ以外はいらねぇ。」

三蔵の言葉に満足した八戒が、何やらシステム手帳に書き込み部屋から出て行った。



おそらくは、を表に立たせるのだろう。
俺の恋人として・・・、いや、婚約者だな。



フッと口角を上げ、ソファーから立ち上がりカーテンを開いた。
眼下に見下ろす街。
三蔵の住んでいる高級マンションの最上階。
そこからの眺めは、やはり目をみはるものがある。



アイツのことだ、立ち上がれねぇぐらいに潰しきるんだろう。
その上で、を表に立たせ、今以上に輝かせていく。
八戒のやりそうな事だ。
まあ、俺に罠を張った事を死ぬまで後悔するんだな。



























三蔵が所属しているプロダクションの社長室で、一人の女性の口角が上がった。
彼女こそ、天界プロダクションの社長観世音菩薩その人で・・・・・・。
八戒からの連絡を受けて、手にしていたスクープ誌を机の上に放り出した。

「いいぜ。好きなように暴れてこい。」
「ああん?後の事は俺様に任せとけ。」
「くくくっ。面白れぇじゃねぇか。期待してるぜ。」

まだ笑みを残したまま、観世音は受話器を置いた。

「まったく、命知らずだねぇ。俺様より、アイツを怒らせちゃぁな。ま、退屈しなくて済みそうだ。」




















3限目が終わって直ぐ、のケータイが着信を告げた。
先生が出て行った後急いでケータイを開くと、そこには三蔵の名前が表示されていた。
複雑な気持ちで通話ボタンを押す。

「・・・、何?僕、学校なんだけど。」
『お前は、見たのか?』

なんとも、単刀直入に聞いてくるんだと呆れる反面、それが三蔵らしくて・・・。
それまでの、モヤモヤした気持ちが微かに和らいだ。

「見たよ。で?」
『午後から記者会見だ。お前も来い。』
「はっ?!・・・いや、僕、普通に授業だし。」
『そんな事は知らねぇな。今から3分以内に校門だ。』

それだけ言って、一方的に切れたケータイを暫し唖然と見つめる。

「だからって・・・・・・。もう!!!」

出していた教科書を急いでカバンに詰め込み、いつものメンツに「早退」とだけ言い残して教室から飛び出した。
あと、2分・・・・・・。











「遅ぇ。」
「酷っ!後3秒残ってたじゃないか。っていうか、何でこう急なんだよ!」

乱れる息をそのままにサングラス越しの紫暗の瞳を見つめた。
そんな僕を三蔵は軽く鼻で笑い、クシャッと頭を撫ぜ、そのまま助手席にエスコートしてくれる。





ねえ、三蔵。
僕は・・・・・・、私は貴方の何?
信じてるけど、少し不安になるよ。




不安な面持ちで運転する三蔵の横顔を見つめた。

「んな顔するな。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「俺の事が信じられねぇか、?」



低い、心地いい声。
好き・・・なんだよ。
信じられないわけ・・・ない。



答える代わりに、フルフルと首を横に振ると、不機嫌だった三蔵の顔が少し和らいだのがわかった。



ねえ、三蔵。
それは、やっぱり貴方も不安だったって事?
信じるよ。
三蔵を一番近くで見ているのは私だから。
だから、三蔵も・・・。










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