ピッピィ――――ッ!!
ドスッ
キャ――――ッ!!!
今日は、高校最後の球技大会の日。
午前の部が終わり、午後の部のクラス対抗戦で事は起こった。
バスケの試合に出ていた。
最後のシュートが決まればのクラスが優勝という時に、ボールを持っていたのは。
それを阻止しようと、かなり強引なディフェンスでに突っ込んできた相手チーム。
ぶつかる直前、ボールはの手から離れ、宙で綺麗な弧を描いていて・・・。
対するは、押し倒され体育館の床に叩きつけられていた。
ボールはそのままゴールし、優勝は決まったのだが・・・・・・。
体育館に響き渡る女子の黄色い声。
それを聞きながら、床に蹲って右足首を押さえていたは、直ぐに駆けつけた先生によって、保健室へ運ばれた。
今日は、とある雑誌のインタビューを受けていた三蔵。
それに付いていた八戒のケータイが着信を告げた。
邪魔にならないように部屋を抜け出し、廊下で通話ボタンを押す。
「どうしました、。」
『あ、すいません。君の担任の者ですが―――――。』
「なんですって!?」
『迎えに来て頂けますか?』
が怪我?
捻挫か、悪くて骨にヒビが入っているかもしれない、と・・・。
八戒の頭の中で、これからスケジュールが浮かんだ。
が、何処にも隙間はない。
・・・仕方ないですね。
「すいません。僕は行けないので、知り合いに行ってもらいます。それで宜しいでしょうか。」
『はい。では、宜しくお願いします。』
電話が切れた後、直ぐに八戒はあるナンバーを押した。
今の時間空いているのは、おそらく彼だけだろう。
案の定暇しているという事で、用件を伝えて電話を切った。
「はぁ・・・。心配ですねぇ。
なんとか今日のスケジュール、予定より早めてもらいますよ。三蔵。」
保健室の窓辺でイスに座り、は外の校庭を見ていた。
各クラスの応援が熱をおびていて・・・。
「はぁ、最悪。」
バスケは優勝したけど、この足がねえ。
痛みに顔を歪めながら、掛け時計を見た。
先生が連絡してからだと、そろそろ来てもおかしくない頃なんだけどな。
兄は来れないと言っていたという・・・。
誰が来るんだ?
疑問に思っていると、廊下の方が急に騒がしくなった。
女子たちの、それはまた黄色い声がよく聞こえてくる。
・・・まさか、三蔵!?
いや、それは無いか。
じゃあ。誰だよ。
そう思った矢先、ガラガラと保健室のドアが開いた。
「ご、悟浄!!!」
「よぉ。・・・・・・・・ああ、ありがと。助かったよ。」
ドアの向こうに手を上げて、おそらくいつものウィンクでもしたのだろう。
「キャー!!!!!!」と黄色い声が上がっている。
はぁ。・・・・・・八兄、来れないからって悟浄はないだろ!?
頭痛がするよ。
そんなの考えなどお構いなしに、悟浄はドカッとの横にあったイスに腰を下ろした。
「で?」
「いや〜・・・。こんな感じかな?」
「少しの間、撮影は無理か。」
悟浄が、の足の腫れを見ながら長い髪をかきあげた。
それに苦笑しながら、ポリポリと頬をかく。
「八兄、怒るかな?」
「怒るッつうか、心配してたぜ。それよりも、三蔵サマだろ?」
「やっぱし?!はぁ・・・・・・。」
が溜息を吐き出した時、またドアが開き入って来たのは担任の先生だった。
「あ、先生。」
「迎えの人が来たって・・・・・っ、え!!!」
言いかけた先生が、悟浄を見て固まってしまった。
その紅い髪に、紅い瞳で、しかも火は点けていないが愛用のハイライトを銜えている悟浄。
まあ、無理も無いだろう。
苦笑しながら、紹介しようとした時。
「カメラマンの沙悟浄さんですか!!?」
「そっちかよ。」
いきなり声を上げた先生。
見た目で固まってたわけじゃなく、ミーハーだったのか?!
瞳をキラキラさせて、マジマジと悟浄を見ているんだから、やっぱりそうなんだろう。
・・・頼むから、あと少しの学園生活を無事に終わらせて?
ガックリ項垂れた肩に、悟浄がポンッと手を置いてウィンクする。
「お堅いより、いいんでない?」
いつの間にか、担任と悟浄の話しが進んでいて。
気がつくと、悟浄が目の前で背中を向けて屈んでいた。
「・・・・・・な、何?」
「そんな足で歩かせると、俺殺されかねないし?だから、おんぶ。」
「え――――――っ!!!」
の叫び声に、肩越しに振り返った悟浄の口角が上がった。
「別に?俺としては、お姫様抱っこでもいいんだぜ。」
「嫌!それは絶対に嫌!」
「ははは。即答かよ。ま、おんぶしてやっからよ。」
「・・・ありがと。」
確かに歩くことの儘ならない足なので、素直に悟浄の背中に身をゆだねた。
ベットで眠るの髪を撫ぜる悟浄。
「ったく、このお姫様は。」
無理じゃなかったのかも知れねぇが、無茶しちゃってよ。
診察結果、少しだが骨にヒビが入っていた為、足首にギプスがはめられた。
帰る前にファミレスで軽く食事をして、痛み止めの薬を飲ませた。
どうやら睡眠作用があるらしく、ファミレスから家までの車中で眠ってしまった。
先に渡されていた鍵を使い、中に入っての部屋のベットに寝かせた。
そこまでは良かったのだが、お姫様抱っこで上がってきた時に、の手が悟浄の服をしっかりと握りしめていたのに気付かなかった。
ベットに横たえて、ようやく気付き、その手を離そうとしてもなかなか・・・・・・。
苦笑しながらも、その手をといていったのだが、今度は服ではなくその時にかかった手をしっかりと握られてしまった。
今度こそ、離すに離せない状況に陥ってしまった。
「はぁ、ったく。こんな現場三蔵に見つかったら、マジ殺されるって。」
口ではそう言うものの、やはり眠るは可愛くて。
空いている方の手で、ゆっくりと髪を梳いてやる。
一体どれくらいそうしただろう。
ようやくの手の力が抜けて、悟浄の手が開放された。
手に残る微かな温もりに、口元を緩める。
「人の彼女に手ぇ出すつもりは無いんだけどな。」
寝ているの頬に、触れるだけの口付けを落とした。
三蔵の彼女であろうと、悟浄にとっても愛おしい人には変わりない。
その後リビングに移り、八戒が帰ってくるのを待っていた。
だが、入って来たのは八戒よりも三蔵の方が早かった。
「よ。お疲れさん。」
「貴様、に手ぇ出してないだろうな!?」
「人の彼女には手ぇ出さない主義だし?心配しなさんなって。今薬で眠ってるよ。」
二階を指差すと直ぐに、三蔵はリビングを出て行った。
それと入れ違いに八戒が入ってきた。
「すいませんね、悟浄。」
「イイってことよ。なんせ、お姫様のお迎えですから?」
「あははは。で、怪我の具合は?」
ポーカーフェイスだが、やはり心配なのだろう。
いつもは鋭く光っている翡翠の瞳が、落ち着かなく揺れている。
医者に言われた事をそのまま伝えてから、悟浄はソファーから立ち上がった。
「悟浄?」
「俺、帰るわ。」
「ですが、夕食でも・・・。」
「いいって。チャンと外で食べたしな。それに、・・・三蔵サマの機嫌が悪くなっても困るし?」
「そうですか。今日は、有難う御座いました。」
「うんにゃ。ま、俺も楽しかったし?いいってことよ。じゃ、お先。」
これ以上ココに居ても仕方がない。
お姫様にとっての王子様がいるんだし。
―――本当に、器用貧乏っつうか、人がいいっつうか・・・・・・。
でも、まあ今日のところは、この手に残る温もりと、唇に触れたあの柔らかい感触で充分・・・・・・だな。
暗くなった空を見上げながら、そっと手を握りしめた。
自分のこの手は掴んでくれないけれど。
なら、それでもいい。
君の傍で、君がいつも笑っていられるように見守っていけたら。
そう。
それで、充分だから。
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