深々と降り続く雪
昨夜から降りだしたそれは、朝になっても降り続け・・・
いつもの風景が今日は一面銀世界になっていた
X'masの天使
雪がどれだけ降り積もろうが、会社は休みになんぞならねぇ。
三蔵は苛立ちながら、短くなったタバコを車の灰皿に押し込んだ。
電車で通勤しても、車で通勤しても、通勤ラッシュに代わりはねぇ。
めんどくせぇ事をわざわざしても仕方がないと、三蔵はいつも通り車を出した。
だが、思った以上にノロノロ運転で、時速20Kmも出ていない。
車内に流れているラジオの天気予報では、この雪はまだまだ降り続くらしい。
チッと舌打ちして、ラジオを消した。
その時、ふっと何かが見えた気がした。
前方の信号が赤にかわったのを確認して、車を路肩に停めた。
三蔵自身、何故車を停めたのか解らなかった。
しかも、まだ深々と降りしきる雪の中に傘もささずに出るなんて。
吐き出す息が白い。
ぶるっと身震いして、剥き出しの手をコートのポケットに突っ込んだ。
ザクザクと積もっている雪を鳴らしながら、先へ進む。
「確か・・・この公園だったな。」
車から数メートルしか離れていない公園の入り口で立ち止まった。
そして公園の中を見た三蔵は、無意識の内に息を呑んでいた。
公園の中央に、漆黒の長い髪の女性が居た。
純白のロングコートを身に纏い、同じく純白の手袋をした両手を広げ空へ向けている。
横顔だったが、真っ白い世界の中、その漆黒の髪が・・・、遠目でもはっきりと分かる深い蒼い瞳がとても印象的だった。
天使かと思われる程の幻想的な世界。
上から降る白と、地面の白。
そして彼女の白が溶け込んでいくようだった。
思わず見入っていた。
時間が止まっているんじゃないかとさえ思われる。
不意に紫暗の瞳に映っている彼女が振り返った。
なんとも切なそうな、その表情。
見ている事を気付かれたというきまりの悪さに、向けていた視線をそらせた。
が、やはり気になってすぐに視線を戻したが、そこに彼女の姿はなかった。
幻かと思い、先程彼女がいた辺りに近づいた。
視線を足元に向けると、そこには足跡がくっきりと残っていて、確かに彼女が存在した証拠を刻んでいた。
なら、あんな僅かな時間で何処に消えたっていうんだ?
疑問に思い、辺りを見回すと、三蔵が入ってきた入り口と反対側にも入り口があった。
そこから出ていったのか。
ほんの僅かな時間。
声すらかけず、かけられず・・・。
だが、そんな彼女に心を奪われていた。
何故、こんな雪の日に
何故、この公園で
何故、空を見上げていたのか
気になる事だらけだ
「らしくねぇな。」
くくっと笑みを洩らした後、三蔵は踵を返し会社へと向かった。
空からは相変わらず降ってくる白い、白い雪。
純白のキャンバスの中、三蔵の足跡と彼女の足跡がまた・・・白に戻っていく。
夢幻ではないその出会い。
それは静かに降り積もる雪の日から始まった。
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