毎日がとても充実していた。
朝、三蔵を仕事に送り出した後は、家事を済ませ、通院の日はそれから病院へ行く。
通院日も、が吐血した事で、一週間に一回だったのが、三日に一回になっていた。
三蔵の仕事が休みの日は前後してくれる。
それは八戒先生の配慮だった。
X'masの天使
夕食後、三蔵は新聞を読んでいた。
メガネ越しの紫暗の瞳は、新聞の活字を追っているようで、追っていなかった。
映しているのは、カウンター越しに見えるの後ろ姿。
朝は「いってらっしゃい」と送り出され、帰ってくると「お帰りなさい」と笑顔で迎えてくれる。
それが最近の日常だった。
一人でいる事に慣れていた三蔵だったが、が来て何かが変わった。
無機質だったこの家も、暖かくなった。
三蔵のいない昼間はずっと家にいるという。
仕事は、今派遣業務がないから長期休暇を出されていると言っていた。
それはそれで、自分には好都合だった。
が仕事先で、自分の知らない男と話しているのかと考えただけで、気が気じゃねえ。
らしくねぇな、と思いながら、笑みを零した。
情事の後、三蔵は腕の中のを自分の方へ抱き寄せた。
「・・・どうしたの、三蔵。」
「俺も長期休暇でも取るか。」
「どうして?・・・嬉しいけど、仕事で何かあったの?」
言えるわけねぇだろ。
おまえとずっと一緒にいたいだなんて。
答えをはぐらかすように、の額に口付けた。
「・・・じゃあね。クリスマスイブの日の夜は早く帰ってきてくれる?」
「ああ。そう言えば、もうそんな時期か。」
壁にかかっているカレンダーを見つめれば、イブまで後一週間に迫っていた。
クリスマスが終われば年の瀬で。
「年末年始の休暇があったな。」
「でも・・・三蔵。人の多い場所って嫌いでしょ?」
「誰が出歩くと言った。」
じゃあ何?と上目使いで首を傾げるが愛しかった。
「一日ゆっくりするのもイイかと思ってな。」
「一日だけ?三蔵と、ずっと、ずっと一緒にいたい。」
切なそうな声だった。
何をそんなに心配する事がある?
「俺はお前を離すつもりなんざ、これっぽっちもねぇよ。」
だから不安がるな。
俺はだけだ。
お前が傍にいて、笑っている。
ただそれだけで、心が落ち着くんだ。
三蔵の言葉が嬉しかった。
でも、それは叶わぬ願い。
薬を飲んでいても増え続ける吐血の量に、残された時間が僅かだと知る。
まだ三蔵は気付いてない。
クリスマスまで、なんとか持ってほしいとさえ願う。
最期は笑っていたいから。
楽しい思い出を作りたいから。
永遠の休暇に出る前に・・・。
三蔵をめいいっぱい愛したい。
愛されたいと願う事は、わがままですか?
神様。
後一週間だけ、生きさせて下さい。
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