どうしたらいいんだろう。

本当はずっと一緒にいたい。

もっと、もっと長く貴方といたい。

声が聞きたい。

触れていたい。

でも―――





X'masの天使






三蔵と逢った日。
それは、三蔵と初めてひとつに結ばれた日。
昨日、三蔵は「このまま俺と暮らせ」と言った。
嬉しかったのが本音。
でも病気のせいで、仕事にすら行ってない事を不信がられるのも嫌だった。
だから

「少し考えさせて」

と答えた。

「何も迷う事なんかねぇだろ。」

「女性にはいろいろあるのよ。」

と笑ったら

「二日だ。それ以上は俺が待てねぇ。」

と言われた。















は他に相談する相手がいなかった為か、おのずと足が病院へ向かっていた。
いつもの時刻。
いつもの順番。
でも違うのは、通院日ではない事。
ナースに呼ばれて診察室へ入ると、かなり心配顔の八戒先生がいた。


さん。どこかよくないんですか?」
「あの・・・八戒先生しか相談出来る人がいなくて。」


躊躇いがちに告げられた言葉に、おそらく三蔵の事だろうと当りを付ける。
いつものようにで診察が終わるので、ナースを昼休憩へと送り出し、八戒も立ち上がった。


「あの・・・。やっぱり迷惑ですよね。すいません。」
「何言ってるんですか。大歓迎ですよ。ここではなんですから、僕の部屋へ行きましょう。」


を促して、八戒は自分の部屋へ向かった。
ソファーへをかけさせてから、コーヒーを出し、向かい合うように八戒も腰を下ろした。


「で、どうしたんですか?」
「あの・・・。えっと・・・。」
「神様に逢えたんですね。」


口籠もるに、八戒がそっと助け船を出す。
途端、俯いていたの顔が上がった。


「正解ですか?」
「そう。・・・でね、一緒に暮らせって言われたの。」
「はい?」



あの三蔵が「一緒に暮らせ」と!?
今まで異性に気を許さなかったというのに。
それ程本気ということなんでしょうね。



「ですが、。病気の事は言ったんですか?」
「言えない。だから困ってるの。」
「おそらく言っても問題ないと思いますよ。」
「でも・・・そんな風に接したくないし、気遣ってもらうのも嫌なの。」


我儘だね、と淡く笑って、はコーヒーに口を付けた。
長い髪をそっと耳にかける仕草が少し大人味を帯びていて。

昨日、三蔵と逢って体も許したということなんでしょうね。


「一緒に暮らすとして、仕事はどうするんです?」
「それも問題なんです。」
「あまり出歩いてほしくもないのが本音なんですけどね。仕事やめちゃった、なんて言っても許されると思いますよ。」


「一緒に暮らせ」と言ったということは、ずっと傍に置いておきたいということだから。
仕事に行っているよりも、三蔵も安心するかもしれない。
何より、僕の心配事がなくて済みますしね。


「そうかな?」
「風邪こじらせてる間に辞めさせられた、なんてのもいいですし、派遣の仕事が今なくて、休みをとってる、ってのもいいかもしれませんよ。」
「そっか。」
「でも、。必ず薬は飲んで下さいね。」


延命の為の薬はない。
ただの鎮痛剤だが、それでも気休めにはなる。
飲まないと、体の節々が悲鳴を上げるだろう。
がそれをするはずないと分かってはいるものの、八戒は念押しした。


「もちろん飲むよ。八戒先生が私の主治医でよかった。」
「そうですか?ありがとうございます。」
「私・・・精一杯生きるから。」
「見守っていますよ。僕も、その神様も。」





ええ。

いつまでも貴女の事を見守り続けられれば・・・。

今日かもしれない。

明日かもしれない。

その生命の尽きるまで。

いいえ。

例え尽き果てたとしても、僕は貴女を忘れることなど出来ません。

そして、三蔵も。






「八戒先生、どうもありがとう。」
「かまいませんよ。ならいつでも歓迎です。」


立ち上がりかけたに、八戒は一枚の名刺を渡した。


「僕のPHSのナンバーが書いてあります。何かあったらいつでもかけてきて下さいね。」


名刺と八戒の顔を交互に見ていたの顔が綻んだ。





貴女の為なら、僕は何だってしますよ。

一秒でも長く生きて欲しいから。

を抱くことは出来ない。

恋人にはなれないけれども、一番近くで、必ず力になりますよ。





を送り出した後、八戒は瞳を閉じて、皮張りのイスに沈んだ。





貴女の為に・・・。

病気は治せないけれど。

その笑顔が

心からの笑顔で

最期までいられますように。






「そう言えば・・・聞き忘れましたね。神様の名前。」


友人の悟浄が聞いたら、おそらく吹き出すだろう。
三蔵が神様なのだから。
クスッと笑って窓の外を見ると、眩しいばかりの青い空が広がっていた。





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