八戒先生の言葉で決心がついた。
後少ししかない。
それは日々実感している。
だから素直に生きよう。
決して悔いの残るような事がないように。
毎日を、自分の為に。
そして、大好きな三蔵の為に生きよう。
少しでも長く傍にいたいから。
X'masの天使
自分の住んでいるワンルームマンションの室内を見渡した。
必要最低限のものしかもともとなかった為に、片付けるのに然程時間はかからなかった。
大型家具はベットとテレビ、冷蔵庫と洗濯機のみ。
三蔵が本気で同棲する気なら、売り払っても問題ないものばかり。
後は収納ボックスに入った衣服とバックと靴。
小さな折畳みのテーブルと一人分の食器だけ。
たったそれだけが、のすべてだった。
赤丸の付いたカレンダーはゴミに出した。
その代わり、手帳に印を付けた。
三蔵に気付かれるのが、どうしても嫌だったから。
言い訳も考えられなかったから。
後は別に見られても大丈夫な物ばかりだと思う。
ふぅと息を吐くと、胸が焼けるような痛みに襲われた。
慌ててキッチンのシンクに駆け寄り、胸の奥から込み上げてくるモノを吐き出した。
ノドが焼けるかと思った。
胃液ならどれ程かマシだろう。
だがそれは紅い、紅い液体。
「・・・長くないかな。」
この前までは痛みだけで終わっていたのに、吐血となると危ないかもしれない。
三蔵に最期まで隠し通すことは出来るのだろうか。
不安が広がったが、それもインターホンの音で消えてしまった。
慌ててシンクに残っている血を洗い流し、口内をすすいでから玄関を開けた。
「。準備は出来たな。」
相変わらず決定事項なんだな、と微笑みながら頷いた。
「でも・・・。本当にいいの?」
「何度も言わせるんじゃねぇよ。」
「じゃあ、宜しくお願いします。」
「荷物は明日にでも引っ越し業者に運ばせろ。」
「でも、これだけしかないし。」
部屋に出しておいた荷物を見せると、三蔵は見るからに眉をひそめた。
「何?」
「いや。少ないんじゃねぇのか?」
もう長くないと分かっているから、夏物の服は処分した。
春秋物も三着しかない。といっても、冬服も六着しかないけれど。
「実家に送ってるから。」
「そうか。・・・俺の車じゃ無理だからな。あいつ等に頼むか。」
いくら荷物が少ないといっても、三蔵の車に収納ボックスは積めない。
クスッと笑うと、三蔵の紫暗も少し和らいだようだった。
「待っていろ」と頭を撫ぜられ、三蔵はケータイを取出し一本電話を入れた。
「明日の朝九時に俺の家へ来い。」
「あ―?んなこたぁ、知らねぇよ。ああ。別に一緒でもかまわねぇ。」
「遅れんじゃね―ぞ!」
「つべこべ言わずに来りゃいいんだよ。来りゃ!」
「・・・」
三蔵の電話にの目が点になる。
の荷物を運ぶ為に手伝ってもらう人に連絡したはずなのに。
でもそれは「頼む」とは程遠い話し方で・・・。
と話すときはそんなに横暴じゃないのに、こうも変わるものなのかと笑ってしまった。
なんだか、色々心配したけど、なんとかなるんじゃないかとさえ思ってしまう。
「笑ってねぇで行くぞ、。」
そう言って、差し出してくれる優しくて、力強い、大きな手をとった。
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