すごく、すごく綺麗な紅い髪の人がいた。

すごく、すごく元気でくりくりの金の瞳をした人がいた。

そして、不機嫌な金糸の髪の神様がいた。





X'masの天使





誰かと一緒に寝たのは初めてだった。
人肌がこんなに安心するものだと初めて知った。
昨日は三蔵が何度も、何度もを求めてきた。


嬉しくて・・・。
人に求められる事も初めてで・・・。
愛されていると実感した。


が眠りに堕ちたのは明け方近くだった。
それでも起きたのは、いつもの時刻の六時半だった。
少ない睡眠だったが、心は晴れていた。
隣に寝ている三蔵を覗き見る。
サラサラの髪に隠れて射るような紫は見えないが、そんな三蔵もとても綺麗だった。


「・・・私の・・・神様。」


起こさないようにベットから抜け出して、シャワーを浴びにいった。
心は晴れていても、身体はそうもいかないらしい。
また胸が焼けた。
吐き出す血がシャワーの水流で排水溝へと吸い込まれていく。


八戒先生に言わないと。
薬があるなら出してもらおう。


はキュッとシャワーの栓をしめた。




















冷蔵庫にあるもので、簡単な朝食を作った。
コーヒーメーカーが常備されているので、おそらくいつも飲んでるのだろうと、コーヒーも用意した。


昨日頼んでいた人が九時に来るはずだから、そろそろ起こしにいこうか。
ふと、ベランダに目がいった。


自分の住んでいたところよりも高い、この場所なら・・・。
届くだろうか。


カーディガンを羽織って、はベランダへ出た。
朝日がさして眩しく、透き通った空に、薄い雲が浮かんでいる。
そんな空に向かって、思い切り両手を伸ばしてみた。


「おい。神様なら降ってきたんじゃねえのか?」
「三蔵。おはよう。」


振り向こうとしたが、後ろから抱き締められた。
の耳に三蔵の口が触れる。


「どこにも行くなよ。」
「うん。ちゃんとココにいるから。」



三蔵・・・、貴方の傍にいるから。




















朝食を食べ終え、片付けていると、インターホンが鳴った。
慌ててタオルで手を拭いていたのを、三蔵に止められた。
おとなしくリビングで待っていると、玄関の開く音がして、途端に静かだった室内が賑やかになった。
その声がだんだんとリビングに近づいてくる。
ドアが開いて最初に入ってきたのは、不機嫌な三蔵だった。
その後ろから紅い髪の男の人と、くりくりの金の瞳の元気な少年が入ってきた。


「ヒュ〜♪美人なお姉さん、名前教えてよ。」
「えっ。」
「俺、沙悟浄つうの。よろしくね。」


三蔵を無視してに近寄ってくる悟浄の頭に何かが落ちてきた。


スパ―ン!!


「ってえな!何すんだよ。この生臭坊主!!」
「るせぇ!誰かれかまわず盛ってんじゃねえ、このエロ河童!!!」
「んだと?美人を前に口説かないなんて失礼だろおが。」
は俺の女なんだよ!手出すんじゃねぇ!!」
「誰が誰の女だって?!」
「こいつは俺のだと言ってんだよ。死にたくなけりゃ、手出すんじゃねえつってんだよ!!」

「「・・・はい?」」


悟浄と少年が固まった。
三蔵もようやく一息ついたのか、の隣に腰を下ろした。
無表情を装ってはいるが、微かに頬が赤かった。


、コーヒー。」
「はい。」


三蔵と悟浄にコーヒーを出し、少年にはカフェオレを出した。


「びっくりしただろ?ゴメンな。」
「え?」
「さっきのだよ。いつもの事だから気にすんなよな。俺は、悟空。よろしく。」
です。こちらこそ、よろしく。」




















コーヒーを飲んだ後、みんなでのマンションへ行った。
悟浄と悟空が楽々と荷物を運び、手際よく車へ乗せていく。
三蔵は自分の車に凭れながら、タバコをふかすのみ。
も手伝おうとしたが、二人に止められた。
残っている家電は、悟浄のツテで売り払ってくれるという。
何もかもが順調だった。


お昼を四人で食べ終えた後、悟空が勢い良く言った。


「なあ。今夜、の引っ越しパーティーやろうぜ!」
「ったく。今メシ食ったばかりだろ―が。この脳味噌胃袋猿!」
「んだと?このエロ河童!!」
「てめぇら、うるせぇんだよ!ちったぁ、静かにしやがれ!」


スパ―ン!

スパ―ン!


どこからともなく出てくるハリセンで頭を叩かれ、蹲る二人が可愛そうな反面、なんだかおもしろくて。
の表情が自然と笑顔になっていく。


「別にいいよ、ね?三蔵。」
「チッ。勝手にしろ。だが、料理するにしても、こいつら半端じゃねえぞ。」
「う・・・うん。」


確かに、今二人の前には大皿が山積みされているわけで・・・。
一人で五人前は軽く食べていた気がする。
体もそんなに太ってないのに、一体どこに消えてるんだろう。


「久しぶりにアイツも呼ぶか。なら、チャンも少しは楽できるっしょ?」
「フン。あのクソ忙しい外科部長様が来れるわけねぇだろ。」



・・・外科部長?
三蔵たちにも、そんな友達がいるんだ。


何やら話が始まったので、はポーチを持って立ち上がった。
三蔵がチラッとこちらを見たので、小さな声で化粧室と言った。
化粧室へ入り、ポーチの中から薬を取出して、水道水で流し込んだ。
そしてケータイで八戒先生のナンバーを押した。
忙しいだろうから、きっと留守電だろうと思っていると、本人の声が聞こえてきた。


「あ。忙しいのに、ゴメンナサイ。」

『かまいませんよ。それより、どうかしました?』

「・・・先生。昨日から・・・胸焼けの後に、吐血するの。」

『吐血・・・ですか。量はどれくらいです?』

「そんなに多くないけど。薬ありますか?」

『今日は病院に来れそうですか?あ、ちょっと待って下さい。』

「はい。」


音が途中で切れたので、すぐに他からの電話だと分かった。
もしかしたら急患かもしれない。
そんな事を思っていると、メロディーが切れて八戒先生の声が聞こえてきた。


「あの、先生。今日は無理です。」

『そうですか。なら、明日必ず来て下さいね。とりあえずの薬は今日渡しますから。』

「え?」

『無理はしないで下さい。後、僕とは初対面ということで。』

「はっ?」





その答えが分かったのは、その日の夕方。
が頑張って料理の下拵えをしている時だった。


「おっ。来た、来た。」


インターホンが鳴り迎えに出るのは三蔵でも、でもなく、悟浄だった。
そしてリビングに入ってきたのは、翡翠の瞳の・・・八戒先生だった。


「初めまして。貴女がさんですか。」
「は・・・初めまして。」
「僕は、猪八戒と言います。忙しかったんですけど、三蔵の彼女を見に来ちゃいました。」


ニッコリと笑う八戒先生には勝てません。





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