何度 願い続けただろう。

この音色に乗せて

何度 夢見ただろう。

その向こうに 見たことの無い兄の姿を

何度 挫けそうになっただろう。

それでも まだ諦めない願いを

唯一つの 小さな願いを乗せて

天使の音色は 人々の耳に 安らぎを届けていく。






―――blind angel―――”I wish”






たった一つの小さな望み。
願い事を、音と言う名の羽に乗せて・・・・・・・・・・。
大切な貴方に届きますように。


胸元の開いた黒のシンプルなドレスに身を包んだ
その胸元に揺れるクロスを手に握りしめた。

どうか・・・。



、そろそろだ。」
「大丈夫。願いは必ず届けてくる。」
「ああ。」


ギュッと焔に抱きしめられる。
その事が、全ての不安を取り除いてくれる。
そして、焔にエスコートされたはステージへと上がった。


都内の大ホールで、客席は満席だと嬉しそうに焔が話していたのを思い出した。
確かに、自分に向けられている視線が、会場を取り巻く空気が、それを物語っている。
スポットライトの所為ではないだろう。
肌に纏わり付く熱気に、自身の熱も微かに上がった。
焔の手を離れて一礼したところで、盛大な拍手がを包み込んだ。
初めての感覚に少し戸惑いながら、ピアノに向き直った。


それでも、届ける思いは ただ一つ なのだから。






お願いです。
兄さん、私を見つけてください。
私は・・・・・・、ココに居るから。

























心の中に湖があるのなら

そう。きっとこんな感じなのでしょうか・・・・・・・・。

木々に囲まれたその間にある一筋の光。
それに導かれるようにして進んで行くと、そこには碧く、蒼く輝く湖が。
ふと上を仰ぎ見ると、空から一片の白い羽が舞い降りてきて
湖の水面に波紋を作る。
静かな空間に、ふわっと風が舞い、木々の葉を揺らして行く。
ぐるっと辺りを見回すと、湖の畔にたたずむ彼女を見つけた。

何かを

否、

誰かを

探しているのでしょうか?

不安げに揺れる蒼い瞳に
紫鴛の心がざわついた。




こんな感情は・・・・・・・・、知りません。

知識としては持ち合わせていますが。

まさか、私が?

そんな、バカな・・・・・・。

このような初対面の

しかも、声すらかけていない

ステージ上の彼女に?


まさか・・・、と頭を振ってその感情を取り除こうとするが

消えない。

それどころか、もっとハッキリと彼女が心の中に入ってくる。















―――兄さん   何処?

   私を    見つけて

   私は    ココに居るから













頭の中に、彼女の声がリアルに響く。

ステージ上の彼女は無心にピアノを奏でていた。











「兄さん・・・・・・、ですか。」









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