―――逢いたい。
もう一度、この瞳に光を・・・・・・
なんて願いはしない。
たった一つ。
小さな、小さな、私の願い―――
――― blind angel ―――”want to see”
コンサートは大盛況の内に幕が下りた。
受付のスタッフから連絡を受けていた焔は、客が溢れかえるロビーを注意深く見つめていた。
あらかた波が引いたロビーだが、まだ人で溢れている。
見つかるのか?
いや、見つけなければ。
『さんと同じ藤色の髪の男性が居ました。』
たった一人の腹違いの兄なのだ。
何もかも失くしてしまったの、唯一つの家族と呼べるものだから。
叶えてやりたい。
もう、帰ってしまったのか?
そう思った時、ホール内から出てきた男性二人に焔のオッドアイが向けられた。
茶髪に黒い眼帯をした男の隣を歩いているのは、と同じ藤色の髪を持つ線の細い男性だった。
彼だろうか?
そう思うまもなく、焔は二人のもとへ駆け出していた。
の小さな願いを胸に・・・・・・。
祈る気持ちで。
焔は彼らの行く手を阻んだ。
「突然の事で申し訳ないな。」
「いいえ、かまいません。私も気になりますし。」
「俺としちゃ、天使を間近で見れる機会だしな。」
焔の後をついて、紫鴛と是音が関係者専用の通路を歩いて行く。
向かう先は、もちろんの控え室。
その扉の前で、焔は一度紫鴛に向き直った。
「もう一度聞くが、それは生まれつきなんだな。」
「ええ。」
「瞳も藤色。」
「ええ。その通りです。」
「年齢は?」
「貴方もクドイですね。23歳です。」
の手がかりと全てが一致する。
これで、やっとの願いが・・・・
気持ちが報われると言うもの。
ドアをノックして、中へ彼らを招き入れた。
鏡の前に座っていたは、焔以外の人の気配で不思議そうに首をかしげた。
「焔。・・・誰?」
「ああ。お前の
「ファンです。」
焔の言葉を遮って、紫鴛が口を開いた。
何!?と言う顔をする焔をサラッと受け流し、紫鴛はの前に立った。
「初めまして。紫鴛と申します。」
「初めまして。」
フワッと笑みを宿して手を差し出すと、その手を彼が握り返してくれた。
細い指。
大きな手のひら。
優しい空気がを包み込んだ。
「あの・・・、他に誰か居ますよね?」
「ああ。よく分かるな。俺は是音。よろしくな。」
「初めまして。」
そして、是音とも握手をする。
ゴツゴツした指。
厚い大きな手のひら。
男気のある雰囲気の人だけど、その奥には優しさが滲み出ている。
・・・いい人達。
そう思った。
でも、兄さんは居なかったのだろうか。
願いは叶わぬまま終わってしまうのか。
「貴女は・・・・・・。」
「えっ?」
「貴女は、何を探しているのですか?」
「・・・、焔から聞いたのですか?」
「いいえ。貴女のピアノが教えてくれましたよ。」
木々の間にある湖。
光が差し込む中、空から一片の白い羽が舞い降り
蒼い、碧い水面に波紋を作る。
風が肌を撫ぜる中、貴女はそこで誰を待ち望んでいるのでしょうか。
「紫鴛さんには、そう見えたのですか?」
「ええ。」
「・・・・・・兄を探しています。逢った事すらありません。でも、・・・逢いたい。」
「そうですか。逢えるといいですね。」
「はい。ありがとうございます。」
焔が二人を送る為に出て行った後、は先程の紫鴛の言葉を思い出していた。
私のイメージと同じ。
焔でも私のイメージに限りなく近いものは持っているけれど。
それでも、紫鴛のように細部にわたって同じなのは初めてだった。
気になった。
もし、兄さんなら・・・。
でも、私が言っても彼は『逢えるといいですね』としか言っていない。
やっぱり、違うのだろうか。
「兄さん。何処に居るの?・・・逢いたいよ。」
の小さな呟きが落ちた。
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