ふと 思った。

ピアノを弾いていて

曲の感じに

むしょうに行きたくなった。





――― blind anggel ―――”selfish”





「相変わらず突然だな。」
「ごめんなさい。」
「別に、怒ってはいない。」
「ありがとう。」


肩までの髪を潮風が撫ぜる。
耳に聞こえるのは、寄せては返す波の音。
夏真っ盛りの時期に、定番とばかりに海へ行きたくなった。

波の音が

カモメの声が

風の音が

聞きたかったから。




まだ、この瞳に光があった頃によく来ていた場所。
海辺の小高い丘の上。
焔にエスコートされて車を降りた。
外気にふれて、すぐに身体に染み込んでくるのは

潮の香り

波の音

カモメの声

風の音

遠くを行く船の音

頭の中にリアルに入ってくる。
目に浮かぶ以前の光景。
今も、あの時のままなのだろう。
只、私の目が見えないだけ。






光を失って二年余り。
悲しみに涙したこともあった。
それでも、泣いても何も変わらない。
何も始まらない。
そう思って立ち上がり、兄を探した。








「ねえ、焔。」
「何だ?」
「・・・紫鴛さんは、私の兄さんじゃないのかな?」
「それは、まだなんとも・・・。」
「そう。」





兄さんならいいのに。

何度も思った。

私の・・・・・・たった一人の兄さんなら・・・。

それとも、人違い?

まだ、別の何処かにいるの?

不安ばかりが心を占める。





光を失った自分にとって、『不安』は暗闇そのもの。

直ぐに心を飲み込んでいく。

いつもの真っ暗な世界に、それ以上に墨が零れ落ちたかのように

暗く、黒く、それは侵食してくる。

怖かった。

だから、光を

温もりを感じたかったのかもしれない。

今、ココには溢れんばかりのそれがあるから。






「大丈夫か?」
「・・・何が?寒くないよ。」
「そうじゃなくて。不安なんだろ?俺がいる。必ず見つけてやるから。」
「焔・・・。ありがとう。」



私の我侭に付き合ってくれて、ありがとう。



そういって微笑をむければ、少し照れているのか声色が少し違っていて。

「かまわない。は、それでいいんだよ。」

そして、焔の暖かい手が頭の上に置かれた。
それだけの事で、心を支配していた不安が、闇が溶けていくかのようだった。










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言い訳と言う名のあとがき。
すいません。ヒロインの名前、一回しか呼んでもらってないです。(汗)
ヒロインの独白ということで。。。。