がシャワーを浴びている間に、焔は紫鴛と向き合った。
蒼と金のオッドアイと、うっすらと開いた藤色の瞳が交わる。
先に視線を逸らせたのは紫鴛だった。
――― blind angel ―――”at a loss”
「どうしていいか分からなかったんですよ。」
「突然だったからな。戸惑うのも無理は無いが・・・。」
本当にそれだけの理由か?
「自分の感情に気付かないフリをするのが嫌だったのです。
義妹としてではなく、一人の女性として見てしまった彼女に対して抱いた感情を・・・。
殺してしまうのが嫌で・・・。逃げていたのでしょうね。」
「フッ、何も問題は無いだろう。お前とは血のつながりは無いのだからな。」
「ですが・・・。」
「なら、俺が貰うぞ!」
ずっと、目が見えなくなる前からずっと、ずっと、を見て支えてきたのは自分だ。
想いは溢れかえっているのだから。
告げたところでが戸惑うだろうと、ずっと己の心の中に閉じ込めておいたこの想いは並大抵の事では揺るがないのだから。
「・・・彼女にとっては、その方がイイのかもしれませんね。」
「お前は本心でそう言っているのか?」
「それは・・・。ですが貴方が彼女を支え続けるのでしたら、私はこの事実を告げずにおいても・・・。」
「何処までを突き放す!!!光の無い世界がどれほどの孤独か、解らないだろう。
それでも、たった一つの小さな願いでは生きている。それを・・・、踏みにじる気か!!!」
逃げるな!!
は光を失ってでも、足掻き生きている。
お前は、逃げるのか?
「逃げたいわけではないのです。ですが・・・。」
「フッ、言い訳だな。」
「じゃあ、どうしろと言うんです!?兄だと告げてずっと傍に居るにしても・・・。
私の・・・・・・、私は彼女に抱くこの気持ちを殺せる程、出来た人間ではないのです。」
「殺せ。
少なくとも、俺はそうしてきた。」
「殺せないから、悩んでいるのです。」
「なら、愛せばいいだろう。お前が出来ないのなら、もう遠慮はしない。
俺が貰う。はそろそろ限界だ。孤独に押し潰されてしまいそうだからな。そうなる前に救ってやらなければ。」
「私は、・・・諦める事は出来ません。貴方に渡すつもりはありません!」
一際大きくなった紫鴛の声に、焔は彼の気持ちの深さを知った。
が幸せなら、俺はソレでかまわない。
それに、紫鴛が女としてを求めても、がそれに答えるかも解らない。
自分の気持ちを完全に殺してしまう気は無いけれど、今まで以上にを想い、支えていこうと思った。
の笑顔が、自分の全てなのだから。
カタンと音がした方を見ると、まだ濡れた髪をタオルで覆ったままのがリビングのドアのところで立ち尽くしていた。
その表情に、おそらく先程の会話を聞かれてしまったのだと二人は察した。
紫鴛が動くより先に焔がの元へ行き、肩を抱き寄せソファーへと導いた。
「紫鴛さんが・・・・・・・・・・、私の兄さんなの?」
ソファーに腰を下ろすなり、が口を開いた。
「ああ。」
それに答えたのは、焔だった。
「本当に・・・?」
「ええ。母に確認しました。間違いなく事実です。」
「・・・・・・よかっ・・・・・・・た。・・・や・・・・・・とあえ・・・・・・・・た・・・・・・・。」
消えていく小さな声。
隣に座る焔に預けられるの重み。
そして、伝わる熱が服越しにでも熱さを主張する。
「「!?」」
ぐったりしたに気付き、その額に手を触れれば間違えようの無い熱が焔に伝わった。
一体どれだけ、あそこに居たのだろうか。
ずっと悩み続けていたのも気付いていた。
「安心したのかもしれないな。」
「そうですか。」
熱に犯されながらも、それでもの表情は柔らかく微笑んでいるように見えた。
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