どこか安心した表情で膝の上で眠っていたが、ピクッと反応した。







暗い暗い闇。

見た事のない暗黒の生き物。

それは、闇に蠢く妖。

一匹、二匹……たくさんの妖の後ろから、一際大きな闇が現れる。

地が揺れる。

空間が震える。

大きな翼が闇を呼ぶ。

低く、くぐもった声が何かを言っている。




――応え。




ぞわぞわとした感覚が背中をはい回る。

怖い。

本能がそう告げた。

はきゅっと手を握りしめて、それでもこの現実とは呼べない感覚に神経を研ぎ澄ませた。

妖どもはを見ていない。

ヤツらが見ているのは、漆黒の長い髪を持つ少女だった。




――応え。




彼女の前に、今朝会ったばかりの人物が現れた。

彼の足元には、白い物の怪。

何かを叫んでいるのか、昌浩は怒りと焦りが入り交じったような表情をしていた。

そして、白い物の怪が妖どもを威嚇している。

それでも奴らは怯む事なく、じわりじわりと距離を詰めてくる。

何か……絶対的な力が昌浩から発せられた。

妖の足が止まる。

が、は見てしまった。

昌浩に庇われている少女の手から、黒くおぞましい闇が現れて彼女を飲み込んでいくのを。

昌浩も物の怪もそれに気が付かない。

ただ静かに闇が広がる。

少女の叫び声すら飲み込んで、暗黒の闇が広がる。


恐怖で足が竦んだ。

口内がからからに乾いて、声が喉を通過しない。

音にならない吐息がヒューヒュー鳴るだけ。

そんなを、ついに妖の血塗られた赤い視線が捕らえた。



「こないでーッ!!!」



がむしゃらに手足を動かしたは、いきなり誰かに手を捕まれて叫び声を上げた。

恐怖で涙がとめどなく溢れる。



!」



声が聞こえる。

知っている声。

捕まれていた手はいつの間にか外れ、体ごと抱き締められていた。

誰かわからない。

でも聞こえてくる鼓動の音に、今までの恐怖という名の感情が掻き消える。

その鼓動に自分の呼吸をあわせ目を閉じると、ふわりと意識が浮上していった。

今度ははっきりと聞こえる声。










「せいりゅう………。せいりゅう!」

声の主の名を呼ぶ。

!」

力強い声が、現実だと知らしめる。

瞼を開くと、深い湖のような蒼が目に映った。
張り詰めていた糸が切れ、恐怖という名の感情が再び戻ってきた。
声にならない悲鳴をあげて、は泣き出した。
その泣き声を聞き、隣の部屋にいた晴明と天一が部屋に飛び込んできた。
青龍の腕の中で激しく泣いているを抱き上げようと天一が手を伸ばす。
どうしていいか解らなかった青龍は、天一にすべてを任せた。
天一は、何かに怯えるように震えながら泣いているの背を優しく撫でながら、優しい声音で大丈夫と幾度も言い聞かせた。
その様子を見ながら、晴明は改めて青龍に問うた。

「何があった。」
「眠っていただけだ。」
「理由は太裳から聞いたが、それにしても………。」

眠っただけにしては激しすぎる怯え様に晴明も青龍も眉根を寄せた。
天一になだめられてはいるが、一向に泣き止む兆しが見られない
心配は募るばかりだ。

「夢見かもしれない。」

先程の一瞬の変化。
眠っていたの肩がピクリと震えてから、顔色も悪くなっていった。
外的要因に思い当たる事がない以上、夢見以外には考えられない。
一体、どのような夢を見たんだ。
にとって、眠るという行為はこれほどまでに恐怖なのか。

「なんとかせねばいかんの。」

考える風に小首を傾げながらも、晴明の視線は意味深く青龍に注がれていた。
その意味を正確に汲み取った青龍は頷きを返事代わりに、まだ泣き止まないを天一から受け取った。
そして部屋から出ていった。

「よろしかったのですか?」
「大丈夫だろうて。あの子も青龍には懐いているみたいだしの。青龍も……いい変化だとは思わんか?」
「ええ。」





ゆるりと動きながら、背中を一定の間合いで優しく撫でていると、激しかった泣き声はいつの間にかしゃくりあげるまでにおさまっていた。
を横抱きに抱きなおし、涙で濡れてしまった顔を手拭いでそっと拭いてやる。
湖のような瞳はその色の通り、涙という名の水を溜めた蒼い水面のようだった。
泣いた事で真っ赤に腫れた目元は、さながら湖に沈んでいく夕陽といったところか。
自分と似た色の瞳。
唯一の違いといえば、それが放つ光の温度。
冬の凍てつく湖に張った氷を溶かした春の日射し。
それが曇る事は許されない。

「夢を見たのか。」

幾分か落ち着いたところを見計らって青龍が問うた。


――夢


青龍の言葉を借りるなら確かに夢に違いない。
それにしては自身見たことのない妖達の説明がつかない。
細部にわたるまで鮮明に思い出せる妖の姿。
昨日、結界から出されたばかりのにあんなモノが想像出来るわけがない。


夢でないとしたら――。


「……わからない。」

思い出しただけで、ぞわっと鳥肌がたつ。
そんな恐怖に震えたを、青龍が優しく抱き締め呟いた。

「心配するな。俺が守る。」

初めて守りたい者ができた。
主以外で大切だと思える者が。
だからこそ、何があっても守りぬこう。





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・・・・・・・・・・・・・・・・青龍が・・・・・・・・・・・偽者チックだわ(滝汗
ど。ど。ど。どうしよう。。。
笑って許して?  くれないかな〜。
もう、これ以上は無理です(><)